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63話 はぐらかし

 封魔の極大結界を指さす。

 トワが一回こくりと頷いた。


「うん。あの結界の中にいるみたいだね。そのおかげでここは平和らしいよ」

「じゃあ俺が止める必要なんてないだろ。なんでそう思ったんだ?」

「んー……? あの結界が綺麗じゃないから……?」

「どういう理屈だよ……」


 肝心なところが曖昧で答えになっていない。

 今までもこんな感じの対応を何度かされたことはあるが、モヤモヤが残るのは気持ち悪かった。


「まぁまぁ、こういうのって感性の問題だから」


 フォローしているつもりなのかトワがうまくまとめました、と言わんばかりににっこりと笑う。

 正直、全然意味が分からなかったのでこの点については置いておくことしかできないだろう。

 別の質問をしてみることにする。


「あの結界について何か知っていることはないか?」

「ん? 封魔の極大結界のこと?」


 トワがもう一回、結界に視線を移す。


「そうだなぁ。昔、魔王が暴れていた時に人間達が結界を張って大陸ごと封じたことってぐらいかなぁ」


 しかしスイからきいたものと同じような情報しか得ることはできなかった。

 改めてその結界を見る。天高く、一方向の地平線を埋め尽くすように広がる巨大な黒い壁。

 一体どういう仕組みなのだろうか。少し気になる。

 そんな俺を見て、トワが話しかけてくる。


「どうしたの? あの中に行ってみたいの?」

「いや、危険なところなんだろ?」

「まぁ、そうっぽいけどね。こっち側から中がどうなってるのか知る術は無いみたいだね」


 所詮、他人事だと言わんばかりに呑気にそう話すトワ。

 まぁ俺もあの結界がゲームに無い以上、イメージのしようが無い。


「……トワはこの世界のことを良く知っているのか?」

「ふふ、どうだろうね? 前にこの世界に顕現したばかりって言わなかったっけ。そんなに色々と直接見て回ったことはないよ」

「そうか……」


 どうもトワと話しても何か新情報が得られる様子が無い。

 この世界について考えるのは後回しにした方がよさそうだった。


「でもキミならあの中に行っても大丈夫みたいだと思うけどね。キミ、すごく強いから。アイネちゃんもしっかり助けてたし、凄いじゃん」

「そこ、見てたのか?」

「うん。キミがギルドに帰ってからもずっとね。もちろん、その後のアイネちゃんとのことも、ね?」

「……マジかよ」


 ニヤニヤとトワが笑っている。

 その情報はききたくなかった。なんとなく予想はついていたが……

 この世界では俺にプライバシーというものは存在していないらしい。


「テンション低いなぁ。もっと喜べばいいじゃん」

「だけどな……うーん……」


 テンションを下げている原因の一つに言われるのも納得がいかなかったが。

 それをはっきり言うほど空気が読めないわけじゃないし、トワが嫌いなわけでもない。

 しかしどこか煮え切らないところがあってため息をつく。

 と、そんな俺を見てトワが眉をひそめてきた。


「なんだかなぁ。キミって結構人生楽しむの苦手なタイプ?」

「……は?」


 唐突に投げかけられた疑問に俺は頓狂な声を出してしまう。

 するとトワがくすりと笑いながら言葉を続けてきた。


「もっと単純になりなよ。自由にしててって言われたら楽ちんだーって喜べばいいじゃん。凄いって言われたらありがとって言えばいいんじゃない? 好きって言われたら嬉しいって答えてあげればいいじゃん。なんであれこれ考えるかなぁ」


 トワが、その小さな指を俺の頬にぐりぐりと押し付けてくる。

 俺をおちょくるような態度だったが、その言葉にはどこか説得力を感じてしまった。


 ──楽しむのが苦手か、そうかもしれないな……


 実際俺は友達が多い方ではない。ゲームの中ではパーティを組んだ時もあるがソロプレイが基本だった。

 リアルではどうだったか、言うまでもない。俺と話して人が楽しそうな顔をした記憶なんて全然なかった。

 それは俺自身が人と話したりすることに楽しさを見出していなかったからなのかもしれない。

 逆に、スイとアイネが俺と仲良くしてくれるのは、俺が彼女達と話すのを楽しんでいるからなのかもしれない。


「もったいないよ? イケメン君?」


 トワはそう言いながら悪戯っ子のように笑う。


「はは……」


 ──そのイケメンって煽り、未だにひっぱるんだな……


 反応したらずっと引きずられそうなのでとりあえず言葉を濁らせながら反応しておく。

 そんな時だった。


「せんぱーい、今日の夜ご飯は何にするんすかー?」

「あ、アイネが作る? 一応簡単なカレーを作ろうかなって思ってたんだけど。荷物置き場にルーが置いてあるよ」


 アイネの声が俺の耳に届いてくる。

 どうやら二人とも一通りの作業を終えたらしい。

 馬達は伏せた体勢で目を閉じているし、テントはもう完全に張られていた。


「ふふっ、なんか面白いことやってるじゃん。いこうよ」

「えっ……でも俺にできる事なんてないし……」


 と、トワが俺の肩から飛びたち俺の顔の前へと移動する。

 そして俺の方にふりかえると優しく目を細め、笑みをみせてきた。


「キミに何ができるかは別に人が決めることじゃないでしょ。ほらっ、楽しみたいなら自分からゴーだよっ!」


 ──自分から、か。


 意外にこの妖精はくえない部分があるのかもしれない。

 トワの言葉には裏を感じない。人を見下したような説教臭さも、何も。

 ただ楽しく話したい、それだけを考えているような印象だ。


 ──もしかしたら、俺はいい仲間を手に入れたのかもしれないな……


 そんな事を考えながら、俺はトワの後に続いていった。


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