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60話 絆の聖杯

「じゃあ、早速パーティを結成してみましょうか」


 トワとパーティを組む事がきまるや否や、スイが手をパチンと合わせてそう言い放つ。

 するとアイネが我先にと言わんばかりに手をあげながらスイに向かって話しかけた。


「そっすねー。じゃあ先輩、剣借りるっす」

「あ、先にやりたいの? はい」


 鞘から剣を抜き、アイネにそれを渡すスイ。


 ──って、剣? パーティを組むんじゃないのか?


 その行動の意味が理解できずに首をかしげる。


「……なにしてるんだ?」

「え? パーティ組むんすよね。いよっ……」

「いや、だから……え!?」


 剣を受け取ったアイネはその刀を自分の親指に当てて、スッと指を滑らせる。

 当然その指先が切れ、血がつぅーっと垂れてきた。

 そしてアイネはその血を俺の膝の上に置かれている絆の聖杯に手をかざす。

 その血が杯に滴り落ちるのを確認するとアイネが満足げに笑みをみせた。


「……?」


 その一連の行為が理解できずに俺はスイの方を見る。

 すると、すぐにスイは俺の意図を察してくれた。

 

「これが絆の聖杯の使い方なんですよ。パーティになる人の血をこの中に入れてリーダーが承認することを念じる。そうすると聖杯にこめられた力が発動して私達はパーティになります。ちなみに複数のパーティに入ることはできないから……アイネ、トーラギルドで組んだ私達のパーティを解散しないと」

「あ、そうだった。えっと、脱退……」


 アイネが、血が出た親指をなめながらふっと目を閉じる。

 すると血が入った聖杯がボウッと淡い光を放った。


「今のが脱退なのか?」

「んーと、この聖杯が光ったのはパーティ結成の準備ができたことを意味していますから脱退そのものじゃないですね。アイネが脱退したことでこの聖杯を使ってパーティが作れる状態になったんです。とにかく、脱退することを強く念じればそれだけで脱退が可能です。違う絆の聖杯を使う場合、パーティは違うものとして扱われるので……あ、じゃあ私もいれますね」


 アイネから剣を受け取るとスイは自分の指を切る。

 その動きには全く躊躇が無い。当然のように自分の血を聖杯にたらす。


「はい。私も入れ終わりました」

「うっ……切るのか……」


 スイが剣を俺に渡してくる。とりあえずそれを受け取るが二人のようにはできそうになかった。


 ──いやだなぁ。痛いんだろうなぁ

 

「あっはは、怖いっすか? まぁこんなの舐めときゃすぐに治りますって」


 そんなふうに躊躇している俺を見ながらアイネが勇気づけるように笑う。

 舐めた後の傷跡を見せ、たいしたことないとアピールしているようだ。

 しかし、血は止まっていない。唾液と混ざりながら血がじわりとアイネの指から滲み出ている。

 むしろ、その紙で指をきったような傷跡が俺の恐怖心を煽る。


「いや、すぐに治した方がいい」


 見ていて痛々しかったので俺はヒールウィンドを使う。

 やはりこの世界で実際に使ったスキルはイメージがすごくしやすかった。

 簡単に魔法が発動する。

 

「おーっ! そうか、新入りさんは回復魔法が使えるんだった!」


 エメラルドグリーンの光に包まれながらアイネがはしゃぎだす。

 対して、スイは困ったように苦笑いをみせてきた。


「こんな傷で使うこともないのですよ? 魔力の残存は大丈夫ですか?」

「うーん……? 特に問題はなさそうかなぁ」


 おそらくMPのことを言っているのだろう。

 だが特に疲れた感覚も、何かを消費した感覚もない。

 レベル2400とはいえMPが無限にあるとは思えない。

しかし絶対量が凄まじく消費を感知できないのかもしれない。

 そもそもMPは自然回復するものでその回復量は絶対量に比例して増える。しかもMPの回復速度をあげる補助スキルがあることから、いくら魔法を使ってもMPが0になりそうな予感がしなかった。


「ははは、呆れる程の魔力量ですね……」


 スイはそう言いながらかわいた笑い声をあげる。

 つられて俺も苦々しく笑ってしまった。

 そんな空気を断ち切るようにトワが声をかけてきた。


「うんうん、万能ってすばらしいねぇー。じゃあボクも入れようかな」


 そう言いながらスイの剣に近づき指を切る。

 血が出るのを確認すると聖杯のところまで飛んでいく。


「ほい、後はキミだけだよ。はやくー」

「うぅ……、なんだかなぁ」


 トワにヒールをかける。妖精にもしっかり効果はでるらしい。

 小さすぎてよく見えないが血が止まっているように見える。

 しかし、いざ自分の番となるとやはり躊躇してしまった。


「もぅ、新入りさん怖がりっすね。ウチがやってあげようか?」


 アイネが剣を手に取りながら苦笑いを見せている。

 情けない話だが自分の体からわざと血を流すなんて経験が無い俺にとっては嬉しい言葉だった。

 アイネの方に手を出して目を瞑る。


「た、たのむ……」

「ういっす。そらっ」

「いってぇ!?」


 自分で頼んでおいてアレだが少しアイネを恨んだ。


 ──普通タイミングとか教えてくれるものじゃないのか!?


 慌てて自分の右手の親指を左手で握る。


「うえぇ!? そんなに強くやってないっすよ。ほら、こんぐらいしか……」

「う、うおおっ! 血が、血が……!」


 当然、血がドバドバ出ているわけじゃない。どうみたってただの軽傷だ。

 しかし指を切った時の傷の独特の痛みは何回体験したって嫌なものだった。

 何故この三人は平然としていられるのだろう。


「お、落ち着いてくださいっ。そんなに握ったら余計に血が出ますし……早く、この中にいれてヒールを」

「た、たしかに……」


 血を垂らすと、絆の聖杯が淡く輝く。

 もういいのか、とスイに視線をくばると彼女が頷いてくれたので自分にヒールをかけた。


「アハハ、キミは怖がりだねー。ま、向こうだとそんなに血を見る機会なかったのかな?」

「……向こう?」


 トワの言葉にスイが怪訝な表情を見せる。


 ──やはり、トワは俺がこの世界の人間じゃないことを知っている?


 この点については問いただす必要があるだろう。仲間になるならなおさらだ。

 しかし、さすがに今その点を言うほど空気が読めないわけではない。

 俺はそのやりとりについては気付かなかったふりをした。


「あぁ。こっちの話。それより承認しないと。ほら、リーダー」


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