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52話 戻ってきたワケ

 俺達は再びトーラギルドに戻ってきた。

 まだ昼の時間帯にもなっていないため、人払いがされているというスイの言葉通りギルドの中はシンとしている。

 そんな中で俺はアインベルとアーロン、アイネと一緒にギルドの受付広場にあるテーブルを囲んでいた。


 スイは鎧が壊れてしまったためオートメンテを発動させるべく着替えている。

 その間アインベルとアーロンが真顔で俺を見つめている。

 正直、気まずい。許されるなら自分の部屋に戻りたい気分だった。


「……ワシはどうも恐ろしい人物をギルドに招いてしまったようだな」


 アインベルがふと、そうつぶやいた。

 どこか疲れた声色で。


「そうね……レベルもおかしいと思ったけど、まさか剣士と拳闘士のスキルまで使えるなんて……」


 それにこたえるようにアーロンも口を開く。

 どう対応していいか分からず俺はその場で硬直することしかできない。


「すごかったっすね! ウチ、めっちゃおどろいたっす」


 そんな中で聞こえてきたアイネの明るい声に、俺はどこか救われた気持ちになった。

 アインベルもアーロンも俺のことをまるで不審人物を見るかのような視線を送ってきているのだ。物凄く気まずいったりゃありゃしない。

 まぁ、レベルのことといい身元のことといい俺の情報は分からないことだらけだ。

不審人物というのはあながち間違っていないかもしれない。


「どうも、お待たせしました」


 と、スイの声が耳に届く。

 振り返ると、そこには鎧の代わりに黒い落ち着いた服を着たスイの姿があった。

 胸元には青いリボンがちょん、と結ばれて内側に着られている白いシャツがうっすらと見えている。

 あまり意識してみたことが無かったがスイのミニスカートについていた前垂れは鎧に付着していたものだったらしい。こうしてみるとただのスカートだった。

 ベルトやグリーヴも完全に外したスイの姿はいつも見るそれよりもさらに華奢に見える。

 喪服というほど真っ黒ではないが服もスカートも黒のため、まるで制服を着ているようだった。


「えっと、どこからお話ししましょうか……」


 そう言いながらスイが着席するのを見て俺は我に返った。

 しかし、何気にスイが鎧を脱いでいる姿をみたのは初めてかもしれない。

 髪が青いことと、素晴らしい美少女であることを除けばこういう女子高生は普通に見かける。


 ──それにしても、やはり胸はあまりないんだな。


 絶望的って程ではないが物足りない。足りない……

 ……ふと、アイネが少しジト目で俺のことを見てきた気がしたので、その部分から視線をそらした。


「あの、もしかして前に言っていた依頼のことですか?」


 とりあえずこちらから話しかけてごまかすことにした。

 努めて真面目な声色を出す。

 と、アーロンは目を丸くしながらスイを見た。


「あら、もう話してたの?」

「いえ、中途半端なところしか。えっと……」


 スイはもごもごと言葉を濁らせながら俯いた。

 先ほど、あれほどの威圧感を放っていた少女とは思えない程スイの態度は弱々しい。

 眉をひそませ、片腕を片手でぎゅっと握りしめている。

 もともと大きな鎧ではないものの、それを外したことも相まって普段よりもスイの姿が小さく見えた。


「……先輩、どうしちゃったんすか?」


 流石にアイネも心配になったのか、スイに声をかける。

 スイはそれに対し弱々しく顔をあげると苦笑いを浮かべた。


「うん、話す。話すから……」


 はぁ、と小さくため息をつくスイ。

 それを見てアーロンが口を開こうとしたがスイがそれを制止した。

 彼女の性格だ。おそらく、しっかりと自分の口で話したいのだろう


「あの、ですね……単刀直入に申し上げますと、私は今サラマンダーという魔物を討伐するクエストをギルドから受けています。その協力を貴方にお願いしたいのです」


 と、スイがそう言いながら俺をまっすぐ見つめてきた。


「え、俺?」


 思わず聞き返す。答えは分かり切ってはいるものの、そうせずにはいられなかった。

 こくりと頷くスイ。


「実はワシがスイに協力することになっていたのだがな。知っての通り、昨日トーラは魔物から奇襲を受けている。調査や警戒も兼ねてワシがこの場を離れるのは危険だと判断したのだ」

「きょ、協力って……先輩でもその魔物、倒せないんすか?」


 アイネの問いかけにスイは表情を曇らせる。


「……実は、私はその魔物に既に二回負けています」

「えっ……先輩がっ……?」


 アイネの驚く声が聞こえてきた。

 そういえば、と前に宴が開かれた時のことを思い出す。

 スイは酔いつぶれた時に、確か『また、しっぱいしちゃった』と言っていたはずだ。

 また、ということは以前に失敗したことを意味しているわけで……それが今言ったことなのかもしれない。


「なので単独で戦っても勝機は無いと判断し協力してくれる人を探していたのです」


 改めてスイが俺のことを見つめてくる。


 ──サラマンダーか。


 ふと、俺はゲームに出てきたサラマンダーのことを思い出す。

 サラマンダーといえば俺がやっていたゲームに限らず、様々な創作物に登場する火を操るトカゲとして有名なモンスター、精霊だ。

 俺のやっていたゲームではレベル100のモンスターとして登場していた記憶がある。

 スイのレベルは95だったはずなので確かに格上だろう。

 しかし、勝機は無いと言うほどにレベル5の差は絶望的だったろうか? 

 少なくともゲームでは勝てない相手ではないと記憶している。

 そんなことを疑問に思ったが考えても答えが出るわけではない。その点は隅に置いておくことにした。

とにかく、スイが自分の目で俺の実力を確認したがっていた意味は理解できた。


「ちょっ、ちょっと待つっす。それだけのためにトーラまで戻ってきたんすか? 確かに父ちゃんは強いけど、パーティメンバーを探すならギルドでも……」


 と、アイネが右手を小さくあげながら声をあげた。

 唐突な発言だったが、俺もアイネの発言から同じ疑問を抱く。

 ゲームでもそうだったがギルドの受付広間はパーティメンバーを探す格好の場所だったはずだ。

 アインベルのレベルはそこまで高いのだろうか。

 その言葉に、スイが物凄く気まずそうに苦笑いを見せる。


「……私、ギルドの人や冒険者たちに嫌われているから」


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