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467話 最後の足掻き

 早い。それも想像以上に。

 私が地面に倒れるよりも前に、レイの追撃が襲い掛かる。

 このままでは確実に致命傷を受けてしまう――!


「排除っ」

「スタンパリングッ!」


 いちかばちか――でも私にはこれしか手段がない。

 懐に隠していたナイフを手に取り、レイの剣に合わせる。


「シッ――!」

「っ――づあっ!?」


 このナイフの主な用途は戦闘ではない。

 食材を切ったりする程度のもので威力には全く期待できない。

 それでも、私には選択肢がないっ――!


「生き残る……私、私はっ……! リーダーに……!!」


 スタンパリングは相手にダメージを与えることを目的にしたスキルではない。

 『剣』を合わせることで一瞬、相手の物理攻撃を無効化し、スタンの状態異常をかける防御スキル。


「排除ぉおおっ!!」


 決まった――でも、やはり私とレイとのレベルさは明白だ。

 レイはすぐに状態異常から復活する。


「んぶっ――ぐっ!?」


 続けて飛んでくるレイの裏拳に気付いたときには、私の体はさらに後方に弾き飛ばされていた。

 スタンパリングは、相手の物理攻撃を無力化する強力なスキルだけれども消費するマナの量が多く連発はできない。


 そもそも、今のレイの一撃でナイフまで手放してしまった。

 私の体は自分のスキルで焼かれて火傷だらけ。頭に受けた衝撃で意識が若干朦朧としている。

 でも諦めるわけにはいかない。諦めたら死ぬだけだ。もうリーダーに会うことはできないんだ。

 そう思うと、わずかに残った力で歩くことぐらいはできた。


「全く……無駄なことを。君とレイでは剣士の格が違う。分かりきっていることだろう」

「うっ……くっ……」


 ――ジャンの言う通りだ。

 私とレイとでは剣士としての格が違う。


「もう逃げられないと分かっただろう。ここまでだ。決めろ、レイ」

「…………」

「情けだ。せめてもう一度問うてやる。私の奴隷になる気はないか」


 レイとジャンが詰めてくる。

 一歩、また一歩。

 私にとってそれは、やけにゆっくりに感じた。


「……まだです」

「は?」


 わざわざそんな問いかけで、勝利を宣言するその性格。

 ジャンの――その油断が隙を生んだ。

 私がここまで歩くまでの時間を与えてくれた!


「黒いクリスタル。原理はよく分かりませんが……あれで転移をしていましたよね? 貴方達は!!」

「貴様っ――!」


 ――そう。最初に私が拘束されていたこの部屋で。

 ジャン――貴方が、私に見せつけるように置いた黒いクリスタルが置かれた場所まで。

 完全に懸けだけれども――それでも!

 今の私の実力で生き残れる方法があるとしたら、これしかない!!


「あのクリスタルで私も転移をっ! ブレイズラッシュ!!」


 今までつけていたガントレットを外す。

 言うまでもなく、これは武器ではない。

 でも――私が『剣』として扱えば、これを媒介に剣士のスキルを使うことができる。



「やああああああああああっ!!」



 最後の力を振り絞って炎を出す。

 黒いクリスタルに何をすれば転移が起こるのか。転移の先がどこなのか。

 何もかも分からない中で少しでも時間を稼ぐために。


「貴様っ――貴様ぁあああああああああああっ!!」


 ジャンの焦る声が耳に届いた時には、私の視界は炎で埋め尽くされていた。

 本来、武器として扱うことを想定していないものをマナの媒介にしてスキルを使っても、崩れたスキルにしかならない。

 この炎は私の体を容赦なく焼いていく。

 でも関係ない。転移ができればそれでいい。

 とにかく全力で、黒いクリスタルにマナを送りつける――



「フォースピアーシング」

「がっ――」



 ……その時だった。

 私の手に穴が空いたのは。



「排除――」


 青白い閃光がいくつも飛ぶ。

 体のいたるところからはしる激痛。



「はっ――かはっ」


 溢れてくる多量の血。

 薄れていく炎。


 その中で私が見たのは多数の鉄――『剣』から放たれたフォースピアーシング。

 空間全体を貫く、回避不能の貫通攻撃――


 一瞬で理解する。

 レイも私と同じように『剣』を使ったんだ。

 鉄檻を切り、無数の鉄クズを『剣』にして。

 その『剣』を空中にばらまきながらフォースピアーシングを使った。


 格上だ。――それも、絶望的なほど。

 あんな鉄の欠片を『剣』にしても、私はスキルをコントロールできず自爆するしかできなかった。

 でも、レイは綺麗にスキルを使って見せている。しかも、こんなにたくさんの……


「う、ぐ……あ……」


 勝負にならない。

 全く、足元にも及んでいない。

 だめだ……即死は回避したけど、もう立ち上がることができない。


「フフ……ハハハハッ! これはいい!! これが剣士か!! なるほどな!!」


 ジャンが何か言っている。

 自分は今、どんな傷がついているのだろう?

 それすら分からないぐらい体が痛くて、目の前が血だらけで真っ赤で……


「握る物を『剣』にするのが剣士とは……よく言ったものだ。なるほど、勉強させてもらったよ。ハハハハハ」

「ぎっ……う、づ……」


 逃げないといけないのに。

 手も動かせない。

 黒いクリスタルはどこ……



「これで分かっただろう。君とレイでは剣士としての格が違う。……諦めたまえ。もはや君は、ここまでだ」


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