462話 親子
――爆発音。
あぁ……いつもと同じだ。
私の気力は暴発し、私もろとも、彼女を炎で包み込む。
「っ……!」
視界が全て炎で包まれ前後左右の感覚がなくなっていく。
――やっぱりだ。どうあがいても、このスキルは失敗する。
せっかくリーダーが教えてくれたのに。
私は何も得ていない。成長していない。
「かはっ……」
顔に衝撃が走る。
いつの間にか、私は地面に倒れていたようだ。
「づっ……くっ……!」
立ち上がらなければ。
でも……体の感覚がおかしい。
立ち上がるどころか、手のひらを地面に立てて起き上がろうとすることすらできない。
たしかに地面に倒れているはずなのに、誰かに振り回されているかのような浮遊感がする。
どうやら――私が思っている以上に、私の体は限界のようだ。
「うぐっ……うぅっ……」
――情けない。
いつもこうだ。
トーラを出てからというもの、私はリーダーの力を借りなければ勝つことができていない。
私にできることといえば、せいぜい格下の相手をいなすことぐらい。
レシルにも全く勝てず――リーダーの力に頼ってばかり。
――こんな『半端者』の私が……リーダーの傍に、いてもいいの……??
「うぇ……ぇ……っ……」
悔しい。悔しい。――悔しいっ!
あまりに情けなくて、涙を止めることができない。
そんな自分がさらに情けなくなってきて……もう、何がなんだか分からない。
――そういえば……私はいつから、こんな気持ちになってしまったんだろう……
私に力が無いから?
違う……そんなことよりも……もっと……
結局、私は――
「……スイ?」
ふと、優しい女性の声で我に返る。
そういえば――追撃がこない。
今の私なら簡単にとどめを刺すことができただろうに。
「嘘……本当にスイ……なの……?」
「へ……え……?」
時間の経過のおかげで、少しずつ体の感覚が戻っていく。
何が起きているか分からないけど、とにかく立ち上がらないと――
「うそっ……まさかまた会うことができるなんて……」
「レイ……さん……?」
――別人?
そう思うほど、彼女の表情は変化していた。
こんな異常な光景の中でも、本当に美しいと思えるほど、その瞳には光が宿っている。
「今の一撃……なかなかのものね。隷従の首輪にこめられたマナが崩れているのが分かるわ」
そう言いながら、彼女は自分の首輪をそっと触った。
視界が霞んでよく見えないが、少し欠けているように見える。
さっき私が放ったソードイグニッションのせいだろうか。
「相当に修練を積んだようね。一部とはいえ物理的に奴隷魔術を解除するなんて……常識外れもいいとこよ」
そう語り掛けてくる彼女の顔は、このおぞましい空間にはまるで似合わない――本当に温かくて、優しいものだった。
「はぁっ……はぁっ……」
荒れる息を整えながら、震える膝を抑えて立ち上がる。
じっと視線を合わせても、無防備な姿を晒しても、彼女は攻撃してこなかった。
「あ、あの……貴方は……お母さん、ですか……?」
「そうよ? 確信がなかったの?」
「…………」
――あったともいえるし、なかったともいえる。
なぜなら、私はお母さんの顔も――声も覚えていないから。
「どうしたの。ききたいことがあるんでしょう? こんな状況だもの。ちゃんと言ってくれないと、何を疑問に感じているのか分からないわ」
戸惑っている私をからかっているのだろうか。
くすくすと笑いながら、彼女がそう話しかけてくる。
「えっと……じゃ、じゃあまずっ……なんで奴隷魔術が……?」
戦闘への集中力が切れたせいだろうか。
周囲のうめき声や吐きたくなるような臭気が一気に体内にねじ込んできたような気がする。
それでも彼女の声がきこえなくなるほどではないが……
対して、彼女は、まるで自分の部屋でくつろんでいるかのようなリラックスした表情を浮かべている。
「貴方の一撃で、隷従の首輪が傷つけられたせい……なのかしら。奴隷魔術は、私の体に刻まれた刻印と、この首輪をもって強制的に隷従させる呪術なのだけれど……今は、私にかけられた呪いの力が弱まっている状況なのでしょう」
「じゃ、じゃあ……」
「でも気を付けて。精神の支配は一時的に免れたけど体は思い通りに動かせない。だから、貴方がこの場所の秘密をこれ以上探ろうとしたら――貴方のことを殺してしまうわ」
「っ――」
優しいけれど、その言い方にはたしかな厳しさがある。
奴隷は主人に絶対服従――奴隷魔術というのは、それほどまでに強力なものなのか。
「私はここから出たいだけですっ! 急にこんなところに連れてこられてっ!」
この空間のことは無視できないけれど――それでも、私一人が立ち向かうことのできる問題じゃないことは明らかだ。
とにかく、リーダーと合流しなければ。
「……そう。ここがどこかは分かっているの?」
困ったように眉をひそめて、彼女が問いかけてくる。
「多分ですけど……エクツァーの奴隷館……ですよね?」
「そうよ。それで、貴方はここから出たいのね?」
「はい……リーダーが、外にいると思うから……」
「リーダー……?」
私がそう言うと、彼女はきょとんとした顔を見せる。
と思いきや、次の瞬間、彼女は目をらんらんと輝かせてきた。
「あぁ……さっき貴方が『支えたい』って叫んでた人のこと? なるほど! 貴方の好きな人ってわけねっ!!」
「いっ――!?」