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458話 スイとデルマー

「このっ――」


 気持ちの悪い舌なめずりをしてくるジャンに、怖気がはしる。

 私の追及を白々しくかわすジャンに対する怒りもあって、意識がぐらつきそうだ。


「……あれ、あれれれれれ? 君、今レシルって言ったかな?」

「え……」


 ふと、今度はデルマーが口を挟んできた。

 ぎょろりとした目が私をとらえる。


「んっふふふふふぅ! そうか、そうだったんだ! じゃあ、ヴェロニカを倒したっていう男は……君の仲間のことだったんだ!!」

「っ――!! あ、貴方はっ――!!」


 うまく声が出てこない。

 やはりジャンは――というよりも、国の人間が繋がっていたのだ。

 レシルやルイリ、そしてヴェロニカ。私達が今まで出会った、人ならざる者達と。


「デルマー様? お知り合いなのですか……?」

「んっふふふふふふ。いやいや、ぼきゅとこのコは初対面だよ。でも、どうやらぼきゅの友達とこのコは、知り合いだったみたいだねぇ。感じるなぁ……運命!」


 そう言いながら、デルマーは立ったままブリッジをしてきた。

 とても老人とは思えない柔軟な動き。

 そのまま手足をじたばたと交互に宙に浮かせ、ニタニタと笑い続ける。


「そうかそうか……ねぇ、ジャン。君、もしかしたら死ぬかもよ?」

「は……?」


 ふと、唐突に放たれたデルマーの言葉に、ジャンが頓狂な声を返した。

 対するデルマーは、言葉と一致していない陽気な声で笑い続ける。


「やばい奴を敵に回したってことさ。んっふふふふふふふふ」

「……どういうことですか?」

「あぁ、気にしないで。大丈夫大丈夫。だってほら、君のことはエクリと、アインベルが守ってくれるよ。ね?」

「…………」


 ――アインベル。その名前が耳に入った時、どうも複雑な感情がこみあげてくる。

 私に襲い掛かってきたあの男は、間違いなく師匠なのだろう。

 やはり、師匠は生きていたということだろうか。……アイネの目の前で、あの化け物に食べられたというのに?

 ――いや。冷静に考えてみると、私は師匠の死体を実際に確認したわけではない。それはアイネも同じはず……


「……エクリ。強い。言われたコト、ちゃんと守ル」


 そんなことを考えている時だった。

 どこか緊張感の抜けた抑揚のない少女の声が耳に入ってくる。


「コォオオオオオオオオオ……」


 と、その直後だった。

 鳥肌がたつような、おぞましい呼吸音がきこえてきたのは。

 ――でも、すぐに分かる。


「師匠? 師匠ですよねっ!!」

「コォオオオオ……」

「どうしちゃったんですかっ、師匠!!」

「ォオオオオ……」


 何度呼びかけても、返ってくるのは歪な呼吸音だけだ。

 体が動かせず、視点が固定されたままなのがもどかしくてたまらない。


「貴方っ! 師匠に一体何をしたんですかっ!!」

「んぅー? もしかして、君はぼきゅの息子の知り合いなのかい? そっかそっかぁ。お弟子さんなんだねぇ。でも、大丈夫。今日から君は――アインベルの妹になるんだっ!!」

「何をばかな――」

「んっふふふ。大丈夫、安心して。君は強くなるだけだからさ」


 ブリッジの態勢のまま、私に近づいてきたデルマーは、一度地面に背中をつけると黒いクリスタルを白衣から取り出した。


「そ、それは――」

「ぼきゅはね、これを使っていろんなものに力を与えてきた。魔族だけじゃなく――人間も。数々の犠牲を乗り越えて、やっと実現できたんだ! ちゃんと力を与えられる方法をねっ!!」


 そのまま、吐き気がするほど気色悪く笑うデルマー。


「喜んでくれ! これでぼきゅ達は幸せに暮らせるんだよぉ! だってほら、強くなるんだから!! んっふふふふふふふふ」

「狂ってる……」


 会話が通じない。

 それでも、今の言葉から何となく察することはできた。

 おそらく――師匠は、この男に何かをされたのだ。


「しかしデルマー様。スイの仲間には、どうやらエクリと互角に戦える者がいるようですが」

「え? あん? エクリとかい?」


 と、私があれこれ考えている間に、デルマーの関心が私からそれた。

 続いて聞こえてくるのは、エクリと思わしき、可愛らしい少女の声。


「……うん。すっごく強い女のコ。でモ、エクリ、ちゃんと勝てル。頑張ル」

「そっかそっかぁ。偉いなぁエクリ。賢くて努力家で――なんてすばらしい子供なんだっ!」

「デルマー様……」

「んっふふふ。ごめんごめん。そうかそうか――エクリと互角かぁ。まぁ、ヴェロニカを倒したヤツが相手なら納得かなぁ。でもさ……大丈夫でしょう? アインベルも、人間相手なら負けるレベルじゃないし……」

「……まぁ、それはそうですが。他にも大陸最強の用心棒が私にはいますからね。それでも、貴方は私が死ぬかもしれないと思っているのでしょう?」

「んっふふふふ。そうだねぇ……バハムートを召喚してくるとかきいたよ。凄いよねぇ」


 バハムートというのは、『彼』の召喚獣のことだろう。

 でも、『彼』がバハムートを召喚したのは、最初に召喚クリスタルを手に入れた時と、カミーラと戦った時の二回だけだ。

 そのうちのどちらかで、『彼』のことを見られていたのだろうか。あの巨大な召喚獣だ。知らずのうちに見られていたことは十分に考えられる。でも、もしかしたらカミーラとこの人達が繋がっている可能性も――


 ――ダメ。疑念がわきすぎて何も考えられない……


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