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457話 拉致されたスイ

「うっ……づっ……!?」


 覚醒した時、最初に見たのは、気分を鬱屈とさせるような、汚い土にまみれた石畳だった。

 ちりちりと、蝋燭の火が燃える音が私の耳に入ってくる。


「ここは……」


 最後の記憶は、視界の全て光に覆われたというもの。

 ――間違いない。転移の光だ。

 私が師匠に拉致されてから、どのぐらいの時間が経ったのだろう。

 今頃、リーダー達はどうしているのか……


「拘束されてる……」


 手足が――というか、体全体が思うように動かせない。

 顔の向きさえも拘束されているようだ。

 貼り付けのように手足を左右に広げられ、体が斜めに下を向いている。

 周囲の状況を確認させないための拘束具なのだろう。


「くっ……なんでこんなことに……」


 その前の記憶をたどっていくと――禍々しいオーラに身を包んだ、師匠の衝撃的な姿が浮かび上がってくる。

 レベル200を自称するリステルを軽々と吹き飛ばした怪力。

 巨躯であるにもかかわらず、その攻撃を目でとらえることもできないほどのスピード。


 ――あれは、本当に師匠だったの……?


 そんな疑問が頭に浮かんでくる。

 ……いや、これは疑問ではなく、ただの逃避なのかもしれない。

 師匠が生きていたのだとすれば、それは本当に嬉しい。でも、あんな禍々しい姿に変わって私達に敵対するなんて――

 この事実をアイネが知ったら、なんて思うだろう……?


 ――と、そんなことを考えていた時だった。


「ん、ん、んーっ!」


 突然、私の視界に、しわくちゃの老人の顔が現れた。


「いっ――きゃあああああああああっ!!??」


 自分でも恥ずかしくなるぐらい、変な声が出てしまう。


「うわぁ! なんて悲鳴だ! ぼきゅ、とっても驚いたよ。んっふふふふー!」


 私の顔をのぞきこんできたその男は、はじけ飛ぶように尻餅をつきながら、奇妙な笑い声をあげていた。

 老人らしいしゃがれた声。ちりちりの白髪。

 でも、その声のテンションと、痙攣するように動く体の動きは、とてもじゃないけど老人っぽくはない。というか、人間っぽくない。


「だ、だれ……?」


 激しく脈打つ心臓を必死でなだめながら、なんとか声を絞り出す。

 すると、その男は、まるで子供のように目を輝かせながら、食い入るように私に向かって言い放った。


「よくぞきいてくれた! ぼきゅはデルマー。君のパパになる男だよ!!」

「は……?」


 ――意味が分からない。

 出てきた声は、我ながら頓狂なものだった。

 そんな私の態度など知ったことかと言わんばかりに、男は一気にまくしたててきた。


「んぅ……ぼきゅはね、今、とっても興奮しているんだ。だって、こんなにも若いのに――君の体は、とても緻密で、繊細で、しなやかなマナが流れている。逸材だよ……間違いなく逸材っ! あぁ――止まらないなぁ! 止まらないよ、ぼきゅの空想が、夢想が、妄想が! 素晴らしいっ! まさにファンタジーそのものじゃないかぁあああっ!!」

「っ……このっ!」


 ――狂気。

 デルマーと名乗るこの男からは、はっきりとそれが見て取れる。

 一体何を考えているのか、私には想像もできないけれど――ろくでもないことなのは、たしかなのだろう。

 なんとかして拘束を解かなければ、取り返しのつかないことになる。

そう告げる本能に従い、体を動かそうとするものの、得られたのは鉄のような物体に押し返される痛みだけ。

 すると、デルマーは憐れんだ目をこちらに向けてきた。


「あぁ。ダメだよ。暴れちゃだめだ。君の素晴らしい肉体が傷ついてしまう。待ってね、んっふふふ。今解放してあげるから……」

「だめですよデルマー様。その女は、まがりなりにも新たな大陸の英雄と呼ばれた実力者です。今解放したら、貴方は必ず殺される」


 と、私に向けられたデルマーの腕が、他の人によって止められた。

 私の体は斜め下に向けられ拘束されているせいで、その人の顔は見えていない。

 でも、それが誰かはすぐに分かった。


「……貴方はっ――ジャンですねっ! これはどういうことですかっ!!」

「『どういうこと』……って。それはこっちの台詞なんだけどな。なんで君が私達に敵対するのか、まるで意味が分からないよ。でもさ――マドゼラを捕らえるという公務を邪魔したんだ。立派な犯罪だよ、これは」


 そう言いながら、ジャンは、わざわざしゃがみこんで、私の視界にうつりこみ、嫌味な笑顔を見せつけてくる。


「詭弁ですっ! 貴方は黒いクリスタルを持っていましたよね!」

「ん、あぁ……これかい?」


 勝ち誇ったように嫌な笑顔を見せながら、ジャンが黒いクリスタルを取り出す。

 わざわざ私が見やすいように地面に置くところに彼の性格がみてとれる。


「貴方は、レシルのことを知っているのですかっ! 暴走した魔物のことも!!」

「はぁ……? 何を言っているんだ、君は」

「とぼけないでくださいっ! 師匠の――アインベルさんのことだってそう! 貴方は、とんでもないことをしたっ!」

「アインベルね……ま、アレは確かに私も驚いたけどさ。でも、深い事情は私の知ったことではないよ」

「なんですって――貴方、それでもギルドマスターですかっ!」


 師匠も、ポルタンも、ハナエも――そして、カミーラも。

 ギルドマスターは皆、魔物が狂暴化しつつあることを知っていた。

 たしかに、ラグナクアで魔物が狂暴化したなんて情報は得ていない。でも、こんな重要な情報をギルドマスターが――というか、国が共有しないはずがない。


「そうだよ? だからさ……犯罪者は捕らえないといけない。君は立派な犯罪者だ。……フフ、奴隷にするには少々もったいないけどね」


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