456話 激闘の結末
「ウォオオオオオオオオオオオ!!」
セナの形をした黒い影と、セナ自身がアインベルを挟み撃ちに攻撃する。
その後、影が黒い光の粒子となって、アインベルの体に纏わり始めた。
「うおおおおっ!! こ、こいつ……マジで馬鹿力っ……!」
アインベルが暴れまわり、体にまとわりつく黒い粒子を払っていく。
その粒子は、セナの気力が具現化されたものだ。
こうなると、セナとアインベルの単運な力比べとなることは避けられない。
その勝負の軍配がどちらに上がるか――誰の目から見ても、火を見るよりも明らかだ。
「ハハハハハハッ! ちっこいくせに捨て身とはねっ! 良い気概じゃないか。気に入ったよガキども!!」
それでも必死に食らいつくセナを見て、マドゼラが笑う。
「マドゼラッ! 笑ってないで早くしろっ! もうもたないっ!!」
「おうともさ。いいか、タイミングは合図するから上手く回避しろ。アタイの最強のスキルを叩き込んでやる!」
だが、今行われているのはセナとアインベルの一対一の勝負ではない。
どんな過程をたどろうが最後に全員でアインベルに勝てばいい。
「おぉおおおおおおっ!」
マドゼラの持つ銃に、凄まじいエネルギーが集結していく。
銃を両手で構え、アインベルに向け――全力で、叫ぶ。
「アルティマブラストォッ!!」
†
マドゼラの銃口から放たれた轟音がおさまってから数秒ほど経過しただろうか。
ゆっくりと、巨体が地面に倒れ込む。
今までの戦闘が夢ではないかと疑いたくなるほどの静寂。
聞こえるのは、マドゼラの荒れた息遣いと、苦しそうなユミフィのうめき声。
「おい、大丈夫か! ユミフィッ!」
はっとした顔を見せた後、セナがユミフィのもとに駆け寄っていく。
声をかけられたユミフィから返事はない。動きもない。
「ユミフィッ!」
「…………大丈夫……死ぬこと、ない。疲れた、だけ……」
囁きに近い形で、ユミフィが声を絞り出す。
だが、言葉とは裏腹に、ユミフィの目は死人を思わせるほどに虚ろなものだ。
「無茶をするね。まったく、何が命を懸けるのはやだ、だよ……ほら、飲めるかい」
ふと、セナの背後からマドゼラの声が放たれた。
手に持った試験管のような瓶を開け、ユミフィの口元にあてる。
「ん……く。あれ、これ……」
「ポーションだよ。少しは楽になっただろ」
「うん……ありがと。マドゼラ……」
「…………」
礼を言いながら自分を見上げてくるユミフィに、マドゼラが神妙な表情を返す。
その視線は、ユミフィの目ではなく、耳に向けられていた。
サイドツーアップにまとめられた髪のせいでよく見えないが、普通の人間ではありえないほどの、長い耳――それは、たしかにマドゼラの目に映っている。
「この子達……」
額に浮かび上がっていた紋様は既に消えている。
ユミフィだけではなく、セナも。
そんな二人を見て、マドゼラが一つ、大きなため息をつく。
「まぁいい。しかし、恐ろしいヤツだったね。ったく……」
「アインベル……」
マドゼラの渾身の一撃を受け、地面に屈したその巨体は、いつの間にかアインベルの姿に戻っていた。
意識を完全に失った彼の表情は、先ほどまでの荒々しさが嘘のように穏やかなものとなっている。
「ん、ん、んーっ! まいったなぁ!! まさか、ぼきゅの息子がやられるなんて」
ふと、しゃがれた男の声が唐突に響いてきた。
「だ、誰っ――!?」
慌てて三人が振り返る。
その先には、薄汚れた白衣をきた老人と、黒のワンピースを身にまとった緑髪の少女。
「お前は……エクリッ……!」
「嘘だろ……リステルはっ!?」
青ざめるセナとマドゼラ。
そんな彼女達に、彼女は淡々と答える。
「……エクリ、強イ……負けるこト、ない……」
そう言いながらも、エクリの様子は、明らかに満身創痍だ。
額や肩から血を流し、右手には穴が空いている。だらりと垂れた腕は、もはやまともな戦闘ができそうな状態ではない。
おそらく、相当な激闘を繰り広げてきたのだろう。
だが、彼女が今ここにいるということは――
「そんな……リステル……!」
「ん、ん、んーっ! そんな身構えないでくれよ。ぼきゅ達は、ここからもう手を引くつもりだからさ」
「なに……」
怪訝な顔を見せるマドゼラをあざ笑うように、老人があっけらかんと言葉を続ける。
「もったいないけど、ここは放棄することにするよ。ここでチミ達につかまっちゃったら、ヴェロニカがヒステリーで死んじゃいそうだからねっ」
そのまま、老人は、倒れているアインベルに近づいていく。
「おいっ、アインベルをどうするつもりだっ!」
「ん? この子は、ぼきゅの息子だからねっ! それはそれは大事にするさ!」
「息子……? 何いってんだお前……」
セナが眉をひそめるも、男はまるで視線を移さない。
皆に背を向けたまま、ぼそりと呟くように声をあげる。
「まぁいいや。とりあえず転移させるから……エクリ、あの子たちを気絶させといてくれ、それぐらいならできるだろう」
「っ――!?」
皆の表情に緊張が走る。
それとは対照的に、どこか呆けたような表情のまま歩き出すエクリ。
「……わかっタ。やる……!」
「なっ――おま……」
攻撃が来るのは分かる。
だが、今までの激闘と――そして、ユミフィをかばおうとしたせいで、二人ともまともにそれに対応することができない。
「プリズマアサルトッ――!」
「っ!?」
そのエクリの様子を見た瞬間、三人の意識は闇に閉ざされた。