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455話 活路

「うわっ――こいつっ!?」


 その動きは、二人から見て、まさに瞬間移動といえるものだった。

 一瞬の間にセナとの間合いを詰めたアインベルが、セナの眉間めがけて掌底を放つ。


「パリングアロー!」


 ――間一髪。

 マドゼラの矢がアインベルとセナの間を通り抜ける。

 その軌跡に黄金の火花のような光の粒子が舞い、アインベルの体を押し返した。


「た、助かったぜ……マドゼラ……」

「礼を言っている暇があるなら距離をとりなっ! 時間なら稼いでやるっ!」

「――分かったよっ!」


 セナのバックステップに合わせてマドゼラが矢を放つ。

 パリングアローは、矢の軌跡に気力で造られた障壁を一瞬だけ作り、物理攻撃を弾くスキルだ。


「おい、アンタら。さっきの拘束技、もう一度使えるかい」

「え……」

「アタイがとっておきを叩き込んでやる。今のアンタらと一緒なら、アタイも逃げる必要はなさそうだしねぇ。ただ……少しばかり、チャージが必要なんだ。時間を稼いでほしいんだよ」


 マドゼラ達三人の間の距離は、それなりに離れているせいでマドゼラの声はやや大きい。

 そうでなくても、この空間は音を良く響かせる。

 だから、マドゼラのその作戦はアインベルにも聞こえてしまっているはずだ。

 だが――その意味を理解できるほど、今の彼に知性があるとは思えない。


「……ユミフィ」


 セナがユミフィにアイコンタクトを送る。

 こちらの作戦をアインベルが理解していないにせよ、彼に隙が無ければ拘束はかけられない。

 その隙を作り出すことができるのは、この状況ではユミフィだけだ。


 しかしアインベルの攻撃力は尋常ではない。

 一度でも直撃を受けたら、ユミフィでは……



 この状況で時間を稼ぐということは――命を懸けると同義ではないのか。



「うん……フォースショットッ!」


 それを言葉で確認しなければならないほど、ユミフィは鈍感ではない。

 しかし、ユミフィは迷わない。迷う方が危険だと本能で察知しているからだ。

 即座にアインベルの正面側に立ち、気力を込めた矢を放つ。


「ゴウハァアアアアアアアア」

「っ――!?」


 その矢を避けることもなく、左腕で受け止めると、アインベルはユミフィに向かって突進してきた。

 ユミフィは囮として行動している。

 当然、そのアインベルの行動は三人の狙い通りだ。

 だが――あまりにもその動きは速すぎる。


「ハッケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 小手先の策など強引にねじ伏せる――そう誇示しているかのような、アインベルの渾身の一撃。

 読んでいるのに――間に合わない。

 しかし――


「っ――パリングアローッ!」


 ユミフィの額に輝く紋様が黄金に輝く。

 マドゼラが使ったのと同じく、黄金の火花を散らす矢を何度も放ち、紙一重で直撃を免れる。


「シャドウバック――」

「キコオオオオオオオオダアアアアアアアアアアアアアッ」


 その隙を突こうとしたセナに向けた気功弾。

 間一髪で反応し、体を反らすものの、その衝撃波でセナの体が吹っ飛ばされる。


「ぐっ……くそっ――警戒されてるっ!?」

「ハンッ――叫んでばっかの割には、理性的じゃないかっ! クソがっ!!」

「大丈夫っ――次は使わせないっ!」


 と、ユミフィが自らアインベルに向かって接近する。


「せああああああああっ!」


 それは一見して明らかに無茶な攻め込みだった。

 接近戦を得意とする拳闘士相手に、矢を片手に直接殴りかかろうとするなど――少なくとも、まともな弓士なら思いつきもしないことだ。


「ォオオオオオオオオッ!!」


 当然、接近戦でユミフィに勝ち目はない。それはユミフィも分かっている。

 だが、ユミフィが接近して矢を直接突き刺そうとしてくる以上、アインベルはそれへの対応を求められる。


「ぐっ――!?」

「ユミフィッ!?」


 案の定、アインベルの拳がユミフィの体を穿つ。

 だが、その一撃を受けることはユミフィにとっても想定内。


「せあああああああああっ!」


 弓と矢を間に挟み、直撃を避けるユミフィ。


「フォース――ショットォオオオオオオオ!!!」


 そこから弓を引くのではなく、矢を投げるような動作で気力を込める。

 ユミフィは直感していた。今の状況では――攻撃こそが最高の防御であると。

 普段のユミフィからは想像もできないほど大きく、覇気のこもった掛け声と共に、青白く輝く矢がアインベルへ襲い掛かる。


「ゴウハハッケエエエエエエエエエエエエエ!!」


 だが、その攻撃を受けながらもアインベルは止まらない。

 自分の拳に突きさされた矢を掌で押し返し、粉砕する。

 アインベルの掌底がユミフィの腹部にねじ込まれ、彼の練気がユミフィの体に吸い込まれるように消えていき――


「かっ――!? がはっ!??」


 ユミフィの体が弾丸のごとく、直線に飛んでいく。

 壁に叩きつけられたユミフィは、血を吐きながら力なく地面へ倒れ込んでいった。


「げふっ……ごほっ……セ、セナッ……!」


 うつ伏せのまま、かすれた声を出すユミフィ。

 ――命はある。

 拳闘士のスキルは防御を貫通する。

 その威力を減殺するためには防御ではなく――攻撃によるエネルギーの相殺しかない。

 だからユミフィは最後に『前』に出た。


 『自分』が負けると分かっていても――『皆』が勝つために。皆で、生き残るために。

 その判断――想いはたしかにセナに伝わったのだろう。

 ユミフィのことを見ようともせず、セナはアインベルに意識をフォーカスしていく。


「っ……あ……」


 ユミフィの額に浮かび上がった紋様がだんだんと消えていく。

 いくら命はつないだといってもアインベルの攻撃力は凄まじい。

 ユミフィが出来ることはもう、倒れたまま痙攣し口から血を吐くことだけだ。

 だが――



「ユミフィッ! お前のおかげで活路が見えたぜっ! シャドウバックイリュージョン!!」


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