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453話 禁忌の呪術

「うぁっ!?」

「ひゃっ――」


 ふと、ユミフィの体が宙に浮いた。

 いつの間にか、ユミフィの近くまで移動していたマドゼラ。

 ユミフィがバタ足をしながら抵抗する。


「な、なに!? 離し――」

「今は逃げるんだよっ! 真っ向勝負じゃどう足掻いても競り負けちまうからねぇっ!!」


 そう言いながら勢いよく走りだすマドゼラ。

 乱雑に担いでいるせいで、ユミフィの髪が服の留め具に混ざり、強く引っ張られた。


「うぎっ!? い、痛いっ!!」

「我慢しなっ! そっちのスピードに合わせちゃいられないんだよっ! 舌かまないように歯、喰いしばりな!!」

「ぃっ……分かった……」


 涙を浮かべながらも、必死で声を抑えるユミフィ。

 セナは、さっき下りてきた螺旋階段に既に足をかけている。

 アインベルの異常な様子を見れば、マドゼラに言われなくたって逃げなければならないことは分かる。


「オォオオオオオオオオ!! ウオォオオオオオオオオ!!」


 アインベルの声とともに、爆発音が響く。

 マドゼラのコンシルメントマインだ。


「アインベル……辛そう……」


 爆発の中でもがきながら突進してくるアインベルを見て、ユミフィが眉をひそめる。

 他方、マドゼラはアインベルの方を見ていなかった。

 コンシルメントマインの処理にアインベルが苦しんでいる中、一直線に螺旋階段に向かって走る。


「何があったか知らないが、ありゃあレイツェルの仕業だろうねぇ。時間を稼げば今の強化状態は解けるはずさ。それに、あのリーダーと合流できりゃ、アタイらの――っ!?」


 と、マドゼラが螺旋階段に足をかけようとした瞬間。

 その頭上から爆発音が轟いた。


「なっ――なああああああっ!?」


 直後に聞こえてくるのはセナの悲鳴。

 その原因は、言うまでもなくアインベルだ。

 気功弾で螺旋階段を破壊――それがアインベルのやったこと。


 この広場から、マドゼラ達が入ってきた場所にたどり着くためには螺旋階段を使うしかない。

 だから、その螺旋階段を広場から出る手段を奪うことができる。



 ――それが通常の相手ならば。


「このっ――! 無駄に元気なオヤジだねぇ!!」


 崩れた螺旋階段の残骸を振り払いながら、マドゼラが片手でセナを抱きとめる。


「もっとちゃんと捕まりなっ! ガキどもっ!!」


 まるで横に重力が存在しているかのように壁を走り、上へ。

 二人を軽々と担ぎながらのその身のこなしに、セナとユミフィの思考は追いついていなかった。

 しかし――


「おいおいおいおい……なんだこりゃあ……!」


 壁を駆け上がり、大きくジャンプしながら振り返った先。

 眼前に広がる光景を見た瞬間、マドゼラは足をとめた。

 さっき自分達が通ってきた通路が塞がっている。



 ――レイツェルかっ……!



 マドゼラが唇をかみしめる。

 自分達がここに来た時、こんな岩の扉は存在していなかった。

 ……いや、存在していなかったという表現は正しくない。正確には『開いていた』のだ。

 その直前まで、何度もマドゼラは扉をアンロックしてきていた。

 だから、あえてロックが解除された状態の扉に、意識を向けることができなかった。


 レイツェルは読んでいたのだろう。

 あの広場に敵をおびき寄せ、逃げ道を封じ――アインベルで確実にトドメをさす、この状況を。


「こうなったら迎え撃つしかないっ! ここじゃ狭すぎるっ……ヤツがこっちに来る前に降りるぞっ!!」


 そうだとしても、呆けているわけにはいかない。

 アインベルが、この高さをジャンプできるかどうかは不明だが――そうでなくても、彼には気功弾がある。

 ここにいるのは得策ではない。

 だが――


「マドゼラ。サクリファイスチャージ、知ってる?」

「ぁ……?」


 ふと、ユミフィがするりとマドゼラの腕から降りた。

 続いて、セナもマドゼラから離れる。


「最後にレイツェルが使ったんだよ。いきなり倒れて、その後……」

「はぁ、なるほどねぇ……」


 自分達が足止めされていることをアインベルは知っているのだろう。

 今はコンシルメントマインに対して警戒をしているようだ。

 だが、実際に仕掛けられたコンシルメントマインは殆ど残っていない。

 それに気づけば、アインベルは即座にこちらに向かってくるはずだ。


「それは呪術師の禁呪とされるスキルだな。自分の生命力と引き換えに、対象者の能力を大幅に向上させる……ハハッ、こいつはまいったねぇ……どおりで、力づくでスパイダーウェブが突破されるわけだ」


 そして、アインベルは、それに気づいてしまったようだ。


「コォオオオオオオオオ……」


 彼と目が合う。

 異形と化した彼の見せる表情は、狂気の色で満ちている。


「……覚悟しな。ここから先は、もう命を懸けるしかないよ」


 マドゼラが、ごくりと喉を鳴らす。

 その緊迫した表情には、相当の覚悟が見て取れた。

 だが――


「…………やだ」


 対して、あっけらかんとユミフィが言い放つ。


「命かける、やだ。そんなの……お兄ちゃん、嫌がるっ」

「は、はぁ?」


 あまりにもあっさりと、自分の言葉を切り捨てるユミフィ。

 そんな彼女に対して、マドゼラは頓狂な声を出してしまう。


「アンタなぁ! そんなこと言ってる場合じゃ――!?」


 だが、次の瞬間。

 ユミフィの顔を見た彼女は、大きく目を見開いた。


「……あぁ。悪いけど、オレ達は命を懸けない。そのうえで――勝つ!」


 短剣を握りしめるセナ。

 そのまま、そうするのが自然だと言わんばかりに、セナは身を放り投げた。


「お、おい……お前っ……!」

「反撃。してくる」


 ユミフィも続いて身を投げる。

 十メートル程下の地面へ、鮮やかに着地。

 その一連の動作を二人が行う中で、マドゼラはあるものを見ていた。



「王族紋……だと……」



 ユミフィとセナ。 

 その二人の額には、黄金に輝く紋様が刻まれていた。


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