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451話 黒の拳闘士

 ――拳闘士。

 そのクラスは、一対一の対人戦闘において、数あるクラスの中でも最強と評価されることが多い。

 その主たる原因は、相手の防御力を無視する拳闘士ならではの攻撃スキルだ。

 つまり、拳闘士を相手にする場合、装備は防御として何の意味を持たなくなってしまう。

 しかも、拳闘士は、練気によって、攻撃・防御・スピードを底上げすることができる。

 範囲攻撃の手段に乏しいという最大の弱点は、一対一の状況であれば無いも同然。


「ファントムエスケープ」


 アインベルの拳がマドゼラの顔を貫く。

 ――と思いきや、アインベルに殴られたマドゼラが霧散するように消滅してしまった。


「そうか……思い出したぞ。アインベルって名前をねぇ」


 ファントムエスケープは、一瞬だけ自分の残像を作り出しつつ相手と距離をとる回避用のスキル。

 マドゼラはそれを使ってアインベルと間合いをとることに成功した。

 いくら一対一で最強と言われる拳闘士とはいえ、遠距離戦を徹底されると不利になる。

 それを補うため、一直線に突進してくるアインベルに対し、マドゼラは不敵な笑みを見せる。


「大陸の英雄達と肩を並べるとまではいかずとも、大陸で二番目に強いとされる拳闘士だったか……たしかダブルクラスときいてたが、随分ストレートに拳で殴ってくるもんだねぇ」

「ウォオオオオオオオオオオオオ!!」

「でも……そんな本能的な戦い方じゃ、アタイには勝てないよっ!! コンシルメントマイン!」


 マドゼラの声に反応して、アインベルの足元が爆発する。


「ガァアアアアアッ!?」


 コンシルメントマインは、自分の気力を使った地雷を仕掛ける盗賊のスキルだ。

 アインベルがどのルートで自分に接近してくるか――マドゼラは、的確に読んでいる。

 皮肉な笑みを浮かべるマドゼラ。


「しかし……おかしいねぇ。アインベルは、どっかの小さな街で、ギルドマスターやってるとか、そんなこときいたことがあるんだがねぇ。アンタ、イカれちまってるのかい?」

「ゴゥハアアアアアアア!」


 ダメージを受けようと、アインベルの動きは止まらない。

 足元に生じた炎も、爆風も全て踏みつぶし、改めて腕をひく。

 彼の思考は、マドゼラを殴ること一色で染まりきっている。

 それがはっきりと分かる、明確な攻撃の――殺意に満ちた構え。


「おっそろしいねぇ。どんな奴隷魔術を受けたらそうなるのか、興味がでちまったじゃないか」


 対するマドゼラが取り出したのは、黒い小型のボーガンだ。

 それに備わった矢が放たれた先は、アインベルではなく――


「ハッケエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

「しゃらくせぇ! シャープシューティング!!」


 マドゼラの放った矢は、一直線にアインベルの足元へ向かう。

 その矢が自分に当たることはないと判断したのだろう。

 アインベルの視線は、その矢に全く向かっていなかった。

 だが、次の瞬間――


「ウゴォオオオオオオオオオオ!?」


 まるで見えない壁に激突でもしたかのように、アインベルの動きが止まる。


 ――シャドウシャランガ。

 マドゼラの持つボーガンは、放った矢に特殊な能力を付与させる。

 影を撃つことで、その影の主の体を拘束する。

 一対一であれば、それだけで勝負を決めてしまうほどの強力な効果だ。


「おとなしく気絶しとくんだねぇ!」


 しかし、これにも弱点がある。

 一度相手を拘束しても、あまりに強い攻撃を与え相手を吹き飛ばしてしまった場合――すなわち、矢が貫いた場所から相手の影が移動してしまった場合には、相手の拘束も解除されてしまう。

 強力すぎる武具ゆえに殆ど使う機会がなく、マドゼラはその弱点を少し前まで知らなかった。

 だが、リステルと戦った今なら――その弱点も考慮したうえで、行動ができる。


「ショックダガーッ!」


 小さな短剣をもう片方の手で取りだして前進。

 武器に込められたマドゼラの気力が、青い雷となって具現化した。

 ショックダガーは、斬撃の威力よりも、電撃による状態異常を付与することに重きを置いたスキル。


「ショォオオオオオオオオリュウウウウハドォオオオオオオ!!」


 だが――マドゼラの短剣が、アインベルの体に触れる直前。

 アインベルの体を纏う練気の光が、爆発した。

 不意に受けた反撃に、マドゼラの手が止まる。


「ウォオオオオ!」

「な――っ!? うがぁあああああっ!?」


 その瞬間、アインベルの拳がマドゼラの頬を貫いた。


「こいつっ……衝流波動で、影をっ――!」


 後方に吹っ飛ばされながら、マドゼラが歯を食いしばる。

 衝流波動は、自分の練気を強制解除する代わりに、周囲の敵にダメージを与える、拳闘士の数少ない範囲攻撃技だ。

 周囲に向けて、練気の光を拡散させるそのスキルは、自分が作り出した影を一時的に消していた。



 ――こいつ……シャドウシャランガの特性を一瞬で見抜いたのか……? いや、もともと知っていたとしても、戦い方に知性がある……!



「ォオオオオオオオオ!」


 バック転をしながら体勢を立て直すマドゼラに、アインベルが突進をしかけてくる。

 着地の瞬間――最も無防備になるタイミングに合わせて距離を詰め、急所に向けた必殺のストレート。

 だが、その拳が眼前に迫っても、マドゼラの表情は崩れない。


「でもねぇ、あいにくアタイの手札だって、この程度じゃ尽きないんだよ! スパイダーウェブ!」


 突然、マドゼラのロングコートの中から大量の糸が放たれた。

 それは空中で蜘蛛の巣のように展開され、アインベルの拳を受け止める。


「ヌゥウウオオオオ!?」


 空中に展開された蜘蛛の巣に、引っ張り上げられるようにアインベルの体が浮く。

 すかさずマドゼラがボーガンで追撃。

 拘束されているアインベルに、いくつもの矢が襲い掛かる。


「ガァアアアアッ、ウラアアアアアアアアアアア!!」


 アインベルが叫びながら暴れるものの、粘着する糸がうまく力を逃がしている。

 スパイダーウェブは、特殊な素材を用いて作られた糸を消耗品に、相手を拘束する盗賊のスキルだ。



「オラッ、続けていくよっ!」


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