448話 リステルとデルマー
リステルの弾丸をかわしつつ突進するエクリ。
そのままジャンプしてリステルの上をとる。
「テアッ!」
「っ――」
そのままリステルの頭部めがけて踵落としを仕掛けるエクリ。
見事にリステルの後頭部を穿つものの、リステルは何事もなかったかのように振り返り、返しの弾丸を放つ。
「……おかしイ。なんで、倒れナい?」
体を反らしてその弾丸をあっさりかわし、きょとんとした顔で首を傾げるエクリ。
「貴方の攻撃が弱すぎるからですよ。いちいち答えなければお分かりにならないのですか」
「そウ。じゃあ次、いくヨ」
「っ――」
小さい体に似合わない大振りの蹴り。
火花を伴うそれは、紙一重でかわすリステルの肌を焦がしていく。
「ん、ん、んーっ! 素晴らしいぃっ! 素晴らしいよリステルッ! 本当に素晴らしいっ!!」
緊張感あふれる攻防の中、僅かに唇をかみしめるリステルに向けて、デルマーが大きく手を開く。
「なんてチミは強いんだっ! 一体なぜ、君はそんな強くなれたんだっ!! もしかして、レシルやルイリより強いんじゃあないか?」
「っ……」
デルマーの問いかけに、リステルは答えない。――否、答えられない。
体術で猛攻を仕掛けるエクリから、銃が撃ちやすくなる間合いまで距離をとることができない。
「でもダメだ。ダメなんだよ。チミはエクリには勝てない。仕方ないんだ。チミとエクリでは、基礎性能が全然違う。残念だけど、エクリはチミの完全上位互――」
「うるさいっ!」
デルマーの声を強引に切って、リステルが叫ぶ。
裏拳をエクリの蹴りに合わせて至近距離で銃口をエクリの額へ。
「フリーズドライブ」
だが、リステルが引き金を引く前に、エクリの手から放たれた冷気がリステルの体を押し出した。
氷の槍と姿を変えたそれは、容赦なくリステルの体を貫こうとおそいかかる。
「アイスクラッチ」
「っ――!?」
淡々とした声色の直後に響くのは、強烈な炸裂音。
形成された氷の槍が破裂し、極小の刃となってリステルの体を切り刻んでいく。
「くっ……また見たことのないスキルをっ……!」
「直撃、さけタね。でモ……」
リステルと近距離を保ったまま、手のひらを前にかざすエクリ。
そして――
「ショックドライブ」
「んなっ!?」
唐突に、エクリの手から巨大な雷の槌が現れる。
エクリ自身に攻撃の動作がないせいで、さすがのリステルもそれを予期することができない。
「サンダーパニッシュ」
エクリの手に握られた雷の槌が、強烈な火花を散らしながら散り散りになっていく。
その衝撃に身を焼かれながら吹き飛ばされるリステル。
「っ――トワイストリガー!」
「んグ……」
追撃を仕掛けてきたエクリに向けて、リステルが二連撃を放つ。
このタイミングで反撃をされることまでは予想外だったのか。
その弾丸はエクリの肩に直撃し、突進が退けられる。
「はぁっ……はぁっ……」
――距離はとることができた。
銃士にとって理想の間合い。
だが、リステルの体には、先のエクリの攻撃による電撃がはしり続けている。
そのせいで、うまく手が動かせない。
「……攻撃、しなイの?」
「ここであっさり貴方を殺してしまうのは、さすがに可哀そうかと思いまして」
「息、あがっテるヨ……そんなコと、できル?」
「試してみますか?」
挑発的な言葉遣いとは裏腹に、両者の顔は強張っている。
しばしの沈黙の後、おもむろにリステルが口を開いた。
「貴方、人間ではありませんね……私と同じホムンクルスですか」
「……そうだヨ」
血を流す肩を手でおさえながらも、あっさりと肯定するエクリ。
リステルが、ごくりと喉を鳴らす。
「エクリ、パパにつくられタ。エクリ、一番凄イんだっテ」
そう言いながらデルマーの方に軽く視線を移すエクリ。
それを受けて、デルマーが無邪気な笑顔をリステルに向けてくる。
そんな彼に対して、露骨に嫌悪感を表情で示しながら、リステルが問いかける。
「……私も貴方が?」
「んっふふふふ……そうだよ。言っただろう? ぼきゅがチミのパパだって。ぼきゅがチミをつくったんだよ」
「ばかなことを」
鼻で笑うリステル。
しかし、その表情はかたいままだ。
「私の記憶は、ヴェルガン火山で目覚めてからのものしかありません。その直後にマスターに拾われたのです。私の時間は全てマスターによってつくられたもの。マスター以外の……それも貴方のような者が私をつくったなど、ありえません。あってはならないのです」
「でもチミは、自分がホムンクルスだと自覚しているんだろう? なら、チミを作り上げた者がいるのは当然だ」
「…………おぞましい」
一言、呟くようにリステルがそう言うと、デルマーは大げさに眉を八の字に曲げた。
「そうかぁ。悲しいけど仕方ないね。たしかに、ぼきゅはチミを捨てた。あまりにも基礎性能が低くてね……魔族として生きていくのは難しいと判断してしまった。チミは失敗作だったから」
「貴方の仰ることは支離滅裂ですが英断ですね。私がマスターの従者以外として生きることなどありえませんし、想像もしたくありません」
「そうかい。残念だなぁ。んっふふふ」
意味ありげに笑うデルマー。
「ん、ん、んー……でもさ、本当に現実は酷だよね。チミの性能は、ぼきゅが一番知っている。随分と努力を重ねてその実力を手に入れたんだろうけど……それでも、エクリには及ばない」
「ふざけたことを」
「ふざけてなんかいないさ。薄々感じているんじゃないのかい。エクリには勝てないと」