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447話 強がり

「戯言をっ!!」


 リステルが走る。

 上下左右――自由自在に駆け巡るリステルの動きが加味された変則的な弾道。


「プリズマアサルト」


 対して、エクリの行動は単純だ。

 一つの線をなぞるような、直線的な動き。

 ある時点で直角に曲がりさらに直線で走り、弾丸を回避する。

 そして、空中に跳んだリステルが着地したタイミングに合わせ突進。


「そんな分かりやすい突進など――通用しませんっ!!」


 だが、その隙をつかれることなど想定内。

 不敵に笑うリステル。


「フォースバレットカーニバル!」


 全方位に対する乱射。

 リステルの気力を纏う青白い光弾が、まるでレーザーショーのごとくドーム全体を無差別に襲う。


「っ――! プリズマウォールッ」


 もう一度展開される銀の壁。

 その瞬間、リステルの鋭い声が響いた。


「そこっ!」

「あっ――」


 自らが放った弾丸を超えるようなスピードで、リステルがエクリの懐に潜り込む。


「ファイアドライブ」

「遅いっ!」

「っ――」


 エクリの手に纏う炎が剣の形となる前に、リステルの蹴りがエクリの顎に入る。

 空中に浮かび上がるエクリ。

 一見、無防備な状態だが――


「スクリューブラストッ!」


 リステルは、エクリに追撃を仕掛けない。

 全く迷うことなく、瞬時に攻撃の対象をデルマーに移す。


「っ……イージスプロテクション!」


 慌てて手を伸ばすエクリ。

 同時に、デルマーの前にゲートが展開される。

 その中から現れた黒い巨大な盾が、リステルの放つ竜巻を受け止めた。


「おやぁ? どうしてそこまでぼきゅを狙うんだい? いまチミが戦っているのはエクリだろう」


 リステルの攻撃が自分に届くことはないと確信していたのだろう。

 デルマーは、にやにやと笑いながらわざとらしく問いかける。


「答えないと分からないほど、貴方は愚かなのですか?」


 展開された黒い盾に向かって、リステルが駆ける。

 体の勢いとともに、銃口をその盾に向けて――


「っ――」


 発射する前に、横からエクリがリステルにタックルを仕掛けてきた。

 間一髪のところでそれをかわし、体勢を立て直すリステル。


「……卑怯な戦い方、するんダ」


 少しだけ息を上げたエクリが、リステルをじっと見つめる。

 淡泊な表情だが、はっきりと敵意の感じられる視線。

 それを受けてもなお、挑発的に口角を上げるリステル。


「卑怯? いきなり人を拉致するお方が、何をおほざきになりますか。こうするのが貴方の体力を最も効率的に奪うことができるのです。それをとらない理由がありますか?」

「…………」


 エクリの眼光が鋭くなる。

 単なる敵意だけではない――それを超えた、明確な殺意のような感情。

 それが、はっきりとエクリの顔にあらわれていた。


「んっふふふふふぅ! もしかして、エクリがぼきゅを庇うのを見越して攻撃しているのかい? あんぁ~! 凄いよリステルッ、なんて冷静な判断なんだっ!! ぼきゅは嬉しいよっ! チミがそこまで賢く、強くなっていたなんてっ!!」


 まるで空気を読まない、デルマーの甲高い声。


「……でも、いいのかな? ぼきゅに武器を向けるということは、エクリから武器を反らすということだ。それが何を意味するか分かっているのかい?」


 と、思いきや、不意に静かなトーンで話を続けるデルマー。

 わずかに、リステルが眉をひそめる。


「当然。この女の動きなど――っ!?」


 言葉を切って、バックステップ。

 刹那の間をおいて、リステルがいた空間を炎が切り裂いた。


「……惜しイ。後少しで、切れたのニ。……首」


 エクリの手には、炎でつくられた剣が握られている。

 文字通り、リステルの首の皮一枚をはぎ取ったそれは、禍々しいオーラを放っていた。


「エクリ、言ったヨ? 今度は、本気だっテ……だから、アナタ、死ぬ。パパに武器なんて向けてる余裕、ないヨ」

「攻撃を当てられなかったくせに。強がりも大概になさい」


 そうリステルがあざ笑うも、エクリの顔色は変わらない。


「バーンアストラル」

「っ――」


 機械のように、淡々とした表情のまま、手に持った炎の剣をリステルに向けて放り投げた。

 あっけなく回避するリステル。

 その瞬間、投げられた炎の剣が爆発する。


「見たこともないスキルですね。いったいどんなクラスなのでしょう。――まぁ」


 爆風を受けながらも、かろやかにジャンプして衝撃を受け流すリステル。

 素早く体勢を立て直して、銃口をエクリへ。


「こんな弱いスキルを使うクラスなんて、私はなりたくないですけどねっ」

「……ふーン? でも、今の、誘導だヨ」

「っ――!? がぁっ!?」


 その瞬間、リステルの体が宙に浮いた。

 何が原因でそうなっているのか――空中で体をひねり、地面を確認するリステル。


「い、いつのまに……」


 投げられた炎の剣が地面に突き刺さった地点から、まるで血脈のように自分がいた場所まで、炎が伝わっている。

 その炎が一気に爆発し、リステルの体を押し上げた――


「バーンアストラル……時間差で発動させタだけ。ずいぶん、あっサリひっかかっタね」

「っ……」


 メイド服についた煤を払いながら、リステルが鮮やかに着地する。

 ――ダメージはある。だが、致命傷には程遠い。


「なるほど……随分、馬鹿にしてくれましたね……」


 額をおさえて前髪をたくしあげ、天井を仰ぐ。

 その表情には、余裕も――油断の色もない。


「覚悟なさい。今度はこちらが本気を披露してさしあげます。この程度の傷ではすまないですよ?」

「エクリの攻撃、見切れないのニ……強がり、大概にした、ラ?」


 何かを探るように、たどたどしくそう言うエクリに対して。

 リステルは、無言で銃を向け、新たに引き金をひいた。


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