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446話 リステルを知る者

「……おかしい」


 マドゼラ達と別れてから、何分かが経過した頃。

 リステルは、ゆっくりと足を止めた。


「いくらなんでもこの空間……いくら地下とはいえ、こんな建造物があの地形で建てられるのですか……?」


 リステルの眼前に開けているのは、ドーム状の開けた空間だ。

 怪訝に首を傾げながら、リステルが壁に手を触れさせる。


 リステルが触れたところに、特におかしなところはない。

 少なくとも見た目上は。


「まさか幻惑系の魔法……? 私が見破れないはずがないですが……」


 そう呟くものの、リステルの表情は暗いままだ。

 自分と互角かそれ以上の者が幻惑魔法を使っているとするのであれば、自分がそれを感知できないのは説明ができてしまう。

 ふとした疑問が湧いた時、それを無視するほどリステルは自分の力を過信していなかった。


「さっきの広場も相当、巨大なものだった……それがこうも続くなんて、絶対におかしいです……」


 しばらく壁を見つめた後、おもむろにアストラの銃口を壁に向ける。

 仮に、なにかしらの魔術によって、自分が幻影を見せられているとしたら――それすなわち、既にリステルは敵の攻撃を受けていることになるだろう。


 当然、確信があるわけではない。

 だが、なにか嫌な感覚――自分がそうしなければならないという焦りのような感情が、リステルの胸に沸いてくる。


「……破壊してみますか」


 そう言いながら、リステルが引き金を引こうとした時だった。



「あぁ~! さすがにまずい。まずいよ。それはまずい。そんな乱暴なことをしても意味がないよ。万が一、意味があったとしても、チミもタダではすまないよ」



 ふと、リステルの背後から、しゃがれた声がリステルの耳に入ってきた。

 瞬時に振り返り銃口をその声の主に向ける。


「っ――!?」


 その瞬間、リステルは大きく目を見開いた。

 リステルの視線の先には、声の主たる老いた男と――その横に佇む少女、エクリがいる。


 ――いつのまに。


 驚愕を表す言葉を必死で飲み込む。

 自分が彼らの気配を察知できなかったことを認めるような言動は、少しでも堪えるべきだとリステルは本能的に理解していたからだ。


「パパ、あのコ。さっき戦ったコ、エクリと」

「おぉ――チミが……うん?」


 と、リステルと目が合った瞬間、その男は大きく目を見開いて甲高い声をあげはじめた。


「ん、ん、んっー!? なんて運命だ! チミはリステルじゃないかっ!!」

「えっ――」


 その言葉に息を詰まらせるリステル。

 何も言葉を出すことができず、動くこともできない。


「パパ、知ってるの?」

「知ってるもなにも……ぉお……なんてことだ。まさか、これも魔王様のお導きなのかな……?」

「誰ですか貴方は。何故私の名前をご存じなのか知りませんが、その汚らわしい視線で私を見るのはお控え願えますか」


 蔑んだ視線を送りながら、リステルが冷めた声を出す。


「あぁ……変わらないなぁ。その高貴な姿に強気な態度……んっふふふぅっ!」


 対して、男の出した声は、到底真摯なものとはいえないような、ふざけたような笑い声だった。

 そんな彼を見て、リステルは眉をひそめつつ、低めの声を出す。


「……一応聞いておきます。なぜ、貴方が私の名を?」

「そりゃあ、僕がチミのパパだからだよ」

「っ――!?」


 僅かに、リステルの腕が震えた。


「……ふざけたことをっ! 私はホムンクルス――両親などおりませんっ!」

「悲しいなぁ。ぼきゅはデルマーっていうんだけど、聞き覚えはないかい」

「気色悪いことを申さないで頂けますか? 貴方のような汚らわしい目つきをした男が私の人生に関与しているはずがないでしょう」


 デルマーの問いかけに対し、あっさりとした声色で返すリステル。

 一瞬だけ見せた動揺の色は、既に完璧に消えていた。


「んっふふふ、嬉しいなぁ。あの時捨てたリステルとこうしてもう一度会えるなんてなぁ!」

「…………」


 呆れたように、目を細めてデルマーを見つめるリステル。

 だが、デルマーは、ニコニコと笑いながら言葉を続ける。


「そんな目で見なくてもいいじゃないかぁ。チミがこうして生きてくれていてぼきゅは本当に嬉しいよ。それに――エクリ、この子がチミと互角だったのかい?」

「……うん。でもエクリ、勝てるヨ。エクリのホウが強いかラ」


 淡々としているものの、リステルへのたしかな対抗心を感じさせるような声色。

 そんなエクリに対し、似合わない猫なで声でデルマーが話しかける。


「そうだね、たしかにエクリの方が強い。なんていったって、リステルの失敗があったからこそ、エクリが出来たのだから」

「意味の分からないことをっ!!」


 半ば反射的に、リステルが引き金を引く。

 一直線にデルマーの脳天に突き進む弾丸。


「プリズマウォール」


 だが、エクリの目の前で展開された銀色のバリアに、その弾丸は弾かれる。

 焦げるような音とともに消滅していく弾丸を見つめながら、エクリが小さな声をあげる。


「……パパ。下がっテ。あのコ、パパのこと、殺すつもりで撃ってきタ」

「んっふふふ……そうだねぇ。たしかに、ここでぼきゅが死ぬのは間違いだ。犠牲になった子ども達のためにも、パパは理想を追求しないといけないからねっ」


 リステルが明確に攻撃の意思を示したにもかかわらず、デルマーの態度は能天気なものだった。

 それがリステルを苛立たせたのか。


「理想ですって……? わけのわからないことを。ともかく、スイは返してもらいます。全てはマスターのために!」


 もう一度、リステルが引き金を引く。

 だが――


「エクリ」

「うん。エクリ、ちゃんと受けられル」


 プリズマウォールが弾丸を弾く。

 目を細めて銀色の壁を見つめるリステル。


「……その銃、凄い。エクリ、分かる。なんでさっき、使わなかったノ?」

「あまり簡単に勝っても面白くないと考えたのですよ」

「勝ツ……無理だヨ。エクリの方が強イ。アナタ、勝てなイ。今度はエクリ、本気、出すカら」

「それはこちらも同じこと。この私に、二度も競り勝てると思わないことです」

「――タスク2。敵対者の抹殺。エクリ、実行すル」


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