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441話 龍神解放

 手に持った召喚クリスタルの持つ黒は、ジャンが持っていた例の黒いクリスタルとは違う。

 鮮やかに、かつ力強く光を反射するそれは、まるで漆のような美しさだ。

 その中心から吹き荒れる強烈な風。

 それとともに、空中に展開されるのは超巨大な魔法陣だ。


「こ、これはっ――!!」


 天空に現れたのは、空を覆いつくすような巨大な龍。

 プレイヤーの間で『攻略不能』『調整ミス』などと嘆かれた最強のボス。


「マスター……! いつの間にこんな召喚獣をっ……!? なんてすばらしいのでしょうっ!」

「召喚獣……? バカなっ! あんな巨大な召喚獣がいるというのか!!」


 恍惚な表情を浮かべるリステルに、わなわなと震え続けるマドゼラ。

 ――まぁ、無理もないだろう。召喚している俺自身ですら、初めてその存在を見たときには、戦慄したものだ。


「……凄い。神様みたい……」

「前の竜と違う……ううん、前の竜より、力が……」


 セナとユミフィも、ほぼ絶句したまま天空に現れたコウリュウを見つめている。

 だが、そんな余韻にひたっている時間は、俺達にはない。


「エクツァーに行くのに、あいつの力を借りようと思います。もう目立つからなんだとか、そんなことを言ってられる状況ではないですから。ま、一応秘密にしてくれってお願いはしておきましたけど……」

「アンタ……」

「ディーヴァペガサス! キンググリフォン!」


 続けて召喚獣を二体呼び出す。

 コウリュウは超巨大な召喚獣だ。

 砂漠ならともかく、田畑や家がある場所でコウリュウに地面へ降りてきてもらうことはできない。


「たのむ、皆をコウリュウのところまでつれていってくれ」


 俺の呼びかけに、二体の召喚獣がこくりと頷く。

 すると、マドゼラが目を見開きながら俺に話しかけていた。


「アンタ、ほんとに何者なんだい……? こんな召喚獣、見たことはない……」

「ただの冒険者ですよ。マドゼラさんは、ライディングを習得していますか?」

「……あぁ。でも、さすがにペガサスに乗ったことはないけどねぇ」

「ならセナと一緒にグリフォンに乗ってください。セナ、任せるぞ」

「お、おう……任せとけっ!」


 急に話をふったからか、セナは少し動揺しているようだが、おそらく大丈夫だろう。

 セナとグリフォンの相性が良いことは、ジャークロットの森で確認できている。


「リステル、ペガサスには乗れそうか」


 少なくとも、ゲームの中では、俺はリステルにライディングを習得させていた。

 アシストNPCは、同一アカウントであれば複数のキャラクターで使いまわすことができる。

 召喚術師のキャラと組ませる時には、それなりの重要なスキルになるため、彼女にそれを覚えさせていたのだ。

 あとは、この部分もゲームと同じかどうかという話だが――


「……えぇ。ペガサスに実際に会うのは初めてですが。ただ、マスターから学ばせてもらいましたから、大丈夫かと。――やっ!」


 あっさりとペガサスに跨るリステル。

 軽く翼をはばたかせてペガサスが飛翔するが、リステルが動じている気配もない。

 どうやら、安心しても大丈夫そうだ。


「よし。シルヴィのことは頼んだぞ。俺は自力でいく」

「自力? 師匠は飛べるのか?」

「そんなわけないだろ。ちょっと試してみたいこともあって」

「……え?」

「練気・全」


 全身に、青白い光が纏いはじめる。

 俺自身の気力が具現化した光。

 それを上に向けるようなイメージで――


「先に行ってるよ――無影縮地」


 軽く、地面をける。

 その瞬間、視界に映る景色が全く別のものへ変化した。



「……たっか」



 どうやら、無事にコウリュウの体の上にまで移動することができたらしい。

 足元にひろがるのは、まぶしいほどに黄金に輝く美しい鱗。

 前方には、コウリュウの頭部と思わしき場所があり、神々しく伸びた無数の角が見えている。


 ――どうやら、無事に来ることができたみたいだな……


 ゲームでは、無影縮地を使って召喚獣の上にのるなんてことは、試すこともしなかった。

 ただ――少なくともこの世界では、移動したいと念じた場所が足場になりえるのであれば無影縮地で移動することができるらしい。


「やぁ、コウリュウ。いきなりで悪いな」


 コウリュウの頭部の方に移動して、声をかけてみる。


「……皆も後で来る。お前には、頼みたいことが二つあるんだ」


 ――特に反応はない。だが、俺には、なんとなくコウリュウが続きの言葉を待っているように思えた。


「一つは、俺達をエクツァーにつれていってほしい。俺の大事な人がつれていかれてしまったんだ。後一つは――お前の力で、この村の人々にかけられた呪いを解いてほしい」


 そう俺が言うと、コウリュウの体が僅かに揺れた。

 周囲にゆったりとした風が吹く。同時に、コウリュウの体の下から四色の光が放たれた。

 ここからではよく見えないが、コウリュウの手足には四色の宝玉が握られている。おそらく、それが光を放っている正体だろう。

 それは、コウリュウがあるスキルを使う時の予備動作だった。


 ゲームの世界で、コウリュウが攻略不能と言われた所以となるスキル――



「……そっか。なら頼んだぞ! 『森羅万象の聖光』!!」



 俺がそう叫ぶと、周囲の風が一気に強くなった。

 その直後、コウリュウの咆哮が轟き始める。

 それに応じるように、一つの光の柱が天高くから降り注ぎ、それが地に到達した瞬間、一気に拡大。

 世界の全てを包んでいくような強烈な光。

 それはあまりにも神々しく、眩いものであるのに目を閉じることを躊躇わせるようなものだった。



 ――森羅万象の聖光は、コウリュウ自身と、フィールドに存在する全ての味方の体力を全回復させ、あらゆる状態異常を全て解除し、能力に大幅なバフもかける公式チートとまで呼ばれたスキルだ。

 ゲームでは、発動にクールタイムが用意されていたのだが――圧倒的な破壊力と攻撃範囲を持つ他のスキル、調整ミスとしか思えないような高ステータスのコウリュウに与えたダメージが一瞬にして無駄になることから、凄まじい絶望感をプレイヤーに与えていたものだ。



「ったく――笑えてくるねぇ。アタイの人生、全部ひっくり返された気分だよ」



 ふと、コウリュウが見せた光景に圧倒されていると、マドゼラの声が耳に入ってきた。

 どうやら、召喚獣をうまく乗りこなすことができたらしい。

 コウリュウの方へ降りてくるよう手招きすると、召喚獣がゆっくりと降りてくる。


「塵にも等しいその人生でマスターの偉大さをはからないでいただけますか。傲慢も甚だしい」

「あー、はいはい。うっさいガキだねぇ。ったく……本当に半端ない奴らだよ」


 そう言いながらも、マドゼラのリステルを見る目は、尊敬がこめられているように見えた。

 ディーヴァペガサスも完璧に乗りこなせていたようだし――彼女が仲間になってくれたのは、俺としても本当に心強い。


「……師匠。今のは?」

「あぁ。……これでこの村は大丈夫だ。多分な」

「大丈夫って……黒紋病のことか」


 セナの言葉に、頷いて答える。


「多分じゃない。絶対。……絶対、大丈夫。このマナ……神様みたい」

「神様……か……」

「おいセナ。やめてくれよ。神様扱いされるのは、こりごりだからさ」

「ハハ……分かってるよ。師匠は神様じゃない。……人間だ」


 そう言いながら、セナが神妙な面持ちで拳を握りしめる。


 ……そう。俺は、神様なんかじゃない。心が弱く、ミスばっかりのただの人間だ。

 だから、もし日本にいた頃の俺だったら、危機に直面した今みたいな状況で、すぐに逃げていただろう。

 現実逃避して何もせず、閉じこもっていたはずだ。


 ――でも、今は違う。


「よしっ――じゃあ行こう! エクツァーへっ!!」


 必ずスイを助ける。

 たとえこの後、大混乱が起きようと――絶対だ。


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