437話 無敵の盾、無敵の弾丸
轟音と共に放たれたのは、青白く輝く螺旋の粒子だ。
ワンショットスキルは、銃士が使える中で最強クラスの威力を誇る、一撃必殺のスキル。
「イージスプロテクション」
だが、エクリは冷静だった。
その小さな体から、愛らしい大きな瞳から、信じられないほどの覇気を放つエクリ。
「なっ……!?」
次の瞬間、エクリの目の前にゲートが出現した。
そこから現れたのは、先ほどエクリが使ったプリズマウォールとは明らかに違う、明確な質量をもった黒い盾だ。
紫のオーラを纏ったそれは、リステルの放った弾丸を真っ向から受け止める。
「ヅッ……うぅ……」
僅かに聞こえてきたエクリのうめき声。
それをかき消すように、リステルの弾丸が出現した盾を抉り続ける。
まるで金属をドリルで削りにいっているような音が周囲に鳴り響いた。
「まさか――真っ向からっ!?」
「グッ――ウゥッ、テアアアアアッ!!」
リステルが目を見開いたのも束の間、エクリの掛け声とともに現れた盾がリステルの弾丸をはじき返した。
青白い螺旋の光が霧散し、徐々に盾が消えていく。
――引き分け。
……いや、実際にはそうではない。
リステルの銃は、銃口が破裂し、もはや原型をとどめないほどに壊れてしまっている。
彼女のスキルの威力に武器がついていけなかったのだろう。
そして、銃士や剣士――弓士もだが、彼らは武器が壊れてしまってはスキルを使うことすらできない。
つまり、この瞬間――
「負け……? 私が……」
唖然と手元を見つめるリステル。
「かっ――ハッ、ぅ……」
一方、エクリも少し息があがっているようだった。
さすがに真っ向からリステルの切り札を受け止めて、全くの無傷とはいかなかったようだ。
そんなエクリを見て、ジャンは一つため息をつくと目を細めた。
「ふむ……これは想定外だな。エクリは最高傑作ときいていたんだが。まさかここまで苦戦するとは思わなかったよ」
「……ごめんなさイ。でモ、もうあのコ、戦えなイ。エクリ、次で決める……」
「くっ……」
一歩、後ずさりするリステル。
彼女の体術であれば、何度か攻撃を回避し続けることはできるだろう。
だが――それをしたところで所詮は時間稼ぎだ。もう勝ちの目はない。
そして、リステルですら勝てない相手に、他の皆が勝てるはずもない。
――やはり、俺がいくしかないか……
黒いクリスタルへの警戒を解かざるを得ない状況に追い込まれてしまっているが――一気に魔法で制圧すれば大丈夫か。
……どこまで加減すれば良いのか分からないため、多少の死者が出てしまうかもしれないが……もう手段は選べないところまで追い詰められてしまっている。
「しかし、今の一撃を見るとあの方の見立てが間違っていた――ということはなさそうか。ここまで強い銃士がいたなんてね。国の情報網もまだまだということか」
「あの方……?」
ふと、魔法を使おうとした瞬間、ジャンが口走った言葉が気になった。
俺の声に、ジャンは嫌味な微笑みをこちらに向ける。
「君は知らなくてもいいことだよ。しかし、そうだな……ここで長く戦うのは得策じゃなさそうだ」
「アレ……? エクリ、あのコ、殺さなくていいノ? エクリ、初めてだけど、がんばる、ヨ?」
「なぁに、今はいいさ。どうせなら人目のつかないところで頼むよ」
「ん……分かった。エクリ、次は頑張ル」
無邪気に頷くエクリを前に満足そうに笑うジャン。
そのシーンだけ見れば、まるで理想的な親子のような絵なのだが――
「待てっ! お前、スイを――」
「……ジャン様! 転移いたしますっ!!」
「ぐっ!?」
急に放たれた閃光によって、俺の視界が白に染まった。
その瞬間、俺は自分のミスに気づく。
あの黒いクリスタルを持っていたのは、ジャンとレイツェルではなかった。
当然だ。周りを取り囲む騎士団達全て――彼らもまた、俺達にとって「敵」なのだから。
「これは……消えた……?」
光が収まったころ、マドゼラの呆気にとられた声が耳に入ってきた。
彼女の言葉の通り、今まで周囲を取り囲んでいた騎士団の――そしてジャンやレイツェルの姿は、既にない。
――そして、スイの姿も。
「くっ――このっ――」
色々な感情が一気に湧き出てきて、喉が詰まるような感覚がはしる。
――なんて俺は未熟なんだっ……
アインベルの姿を見たときの動揺。
リステルがアインベルに攻撃を受けた時の視線。
エクリとリステルが戦っている間の判断。
ミスをあげていけばきりがない。
戦う覚悟は決めていた。
でも、正しい状況判断が出来なかった。
どうしても……どこかで、俺は躊躇してしまうんだ。
相手を『殺す』ことに。
――悔しいっ!!
皆を護りたい――その気持ちは本当なのに。
レベルなんかではない……もっと根本的な「戦う者」としての素質が、俺には全然足りていない。
「くそっ――!! スイっ……!!」
ありとあらゆることが突然に起きたせいで頭がうまくまわらない。
ただ一つ分かることは――
今、俺はとんでもなく大切なものを失ったということだ。