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432話 暴露

「ふむ……」


 リステルの追及に、ジャンは顎に手を当てて何かを考えこむような仕草をとる。


「私が興味を持っているのは、そこのマドゼラだ。君ではないんだがね」

「無論、私も貴方に微塵の興味もありません。しかし、この違和感を消さなければなりません。私は完璧で至高で究極な、絶対たるマスターの従者なのですから!」


 尊大な言葉とは裏腹に、リステルの表情は、どこか追い詰められているようなものだった。

 そのせいだろうか。他の皆は、誰も声をあげようとしない。

 異様な緊張感の中、数秒の沈黙が周囲を支配する。


「そうかい。だがその話は後だ。私はこれからマドゼラを捕らえなければならないからね」


 その沈黙を崩したのはジャンだ。

 ジャンの敵意はリステルには――というか、俺達には向いていない。

 あくまで狙いはマドゼラということだろう。

 それは別におかしなことではないのだが……


「ハハッ、馬鹿にされたもんだねぇ。人数を集めてきただけでアタイを倒せると思っているのかい。えぇ?」

「私こそ馬鹿にされたものだ。こう見えて、私はエクツァーのギルドマスターだよ。何も考えずに君の前に現れると思うか」

「なに?」


 怪訝に眉をひそめるマドゼラ。

 それを見て、ジャンがほくそ笑む。

 そして、おもむろに彼が取り出したのは――



「なっ――それはっ!!」



 思わず、悲鳴に近い声が出た。

 ジャンが取り出したもの――それは、俺達が今まで何度も見てきた物。


「黒いクリスタル! なんで、お前がそれを持ってるんだよっ!!」


 空気を切り裂くような、セナの動揺した声。

 ジャンが目を細めてこちらを見る。


「ん……? 君はこれを知っているのか?」

「っ――!」


 一つ、息を短く吸い込む音がきこえてきた。

 一瞬遅れて聞こえてくるのは、金属のこすれあう音。

 ――スイが剣を抜いた音だ。


「スイ様……? なにを……」

「それは……」


 目を丸くするレイツェルに対して、スイは言葉を詰まらせる。

 ユミフィの震えが、服を越して伝わってきた。

 怯えたような――覚悟を決めたような、ユミフィの目。


「おや、こいつは意外だねぇ。アタイに加勢してくれるのかい?」


 俺達が出している異様な雰囲気は、当然マドゼラにも伝わってしまったようだ。

 だが、この場でなんと説明したらいいものやら。


「加勢というか……なんというか、あれは……」

「……どうやら、私達が話をきかなければいけないのは、貴方の方だったようですね」


 剣を構え、ジャンに向かって殺気を放つスイ。

 今の状況で、言葉を交わすことなど不要。そう突き放すような、冷淡な声色だった。


「ふむ。これは予想外だな。目障りなのはマドゼラだけだと思っていたんだが。よし――レイツェル。彼女達も捕らえよう」

「え……? あの方達を……ですか……?」

「ん。きこえなかったのかい。そうだ。どうやら私達の邪魔をするようだからね」

「そんなっ……でも、あの方々はっ……」

「レイツェル。どうしたんだい? 私が命じているんだ。君の仕事は?」

「……」


 何度か俺達とジャンに視線を移し続けるレイツェル。

 明らかに動揺を隠しきれていない。


「ふーん……やっぱりねぇ。アタイは確信したよ」


 そんな中、マドゼラはニヤリと口角を上げてそう言った。


「盗賊団の親玉と言われて随分経ったけどね、こうまでギルドが明確にアタイに敵対することは今ままでなかった。数年前に、アタイがロイヤルガードの持っていた武器を盗み出した時にさえ、だ」


 そう言いながらマドゼラが見せてきたのは、黒い小型のボーガンだ。

 それを見て、リステルがやや警戒したような表情を見せる。


 ――アレが盗み出した武器なのか……?


 一見すると、ものすごい武器には見えないが……

 とりあえず、鍛冶師のスキルであるアイテムアナライズを使ってみる。

 頭に浮かんできた言葉は――シャドウシャランガ。

 放った矢に、影を打ち抜くと相手の動きを封じるという効果が付与する、弓士か盗賊が扱うことができる武器。

 ……ゲームにはなかった武器だ。


「まぁ――それも仕方ないことか。アタイが直接動いた盗みは、全て国側に後ろめたいことがあるものばかりだからねぇ。例えばこの武器も……ある冒険者を暗殺して不当に奪ったものだ。……ロイヤルガード様は関与していなかったようだけどねぇ……ククク」

「くだらない妄想だな。そんな作り話を言えば、君の犯した罪が正当化されるとでも?」

「まさか。アタイは悪党さ。……だからこそ許せない。アンタみたいな――悪党なのに、正義を盾にするやつはねぇ!」


 徐々に語気を強めながら、マドゼラが言い放つ。


「黙りなさい! マスターが悪党などとっ! どの口がいいますかっ!!」


 そう怒鳴りながら、レイツェルが口を挟んできた。

 だが、マドゼラは、そんなレイツェルを煽るような不敵な笑みを浮かべるだけだ。


「まぁききな、お嬢ちゃん。アタイの弟が黒紋病にかかった時、アタイは死ぬ気でこの病気のことを調査した。いつ、どこで、どんな状況で発症したのか……修道士が残した記録を盗み見てねぇ」

「……?」


 怪訝な表情を浮かべるレイツェル。

 当然だろう。マドゼラの言葉には文脈がない。

 だが――


「そしたらねぇ……なんとなく、思ったのさ。黒紋病は本当に『病気』なのかって」


 ――やはりそうか……


 俺には、マドゼラの言葉の意味が分かっていた。

 黒紋病――その症状である、体に浮かび上がるあの紋様には見覚えがある。

 ゲームでは、『黒紋の呪い』という状態異常として描写されていたものだ。

 黒紋の呪いは、身体能力を大幅に下げるだけではなく、HPがゼロになるまで僅かながらも定数ダメージが入る状態異常だ。この状態異常の回復手段は極めて限られており、レベル100を超える修道士が覚える魔法でなければ回復することができない。

 そしてその状態異常を引き起こすのは、呪術師のスキル――『フェラティーバイアビス』。


 とはいえ、ゲームとこの世界は違う。

 だからさっきは黙っていたが――どうやら、俺の予想は当たっていたようだ。


「……どういうことだい?」


 表情を変えないまま、ジャンがマドゼラに話しかける。

 ニヤリと笑って言葉を続けるマドゼラ。


「黒紋病が最初に確認されたのは約十年前……小さな女の子が最初の患者だった。はっきりと名前が記録されていたよ。――『スイ・フレイナ』とねぇっ!!!」


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