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431話 追って追われて

 鋭い女性の声の後、聞こえてきたのは一発の銃声だった。

 全員の動きが止まる。

 少しの静寂の後、その声の主のことを俺は思い出した。


 ――レイツェルの声……?


 レイツェルとは旧エクツァーで別れたはずだ。

 そこからレイグッドに来るまで、レイツェルのキャラバンの姿は全く見ていない。

 だが、聞き間違えとは思えなかった。

 はっきりと、耳を貫くように放たれた鋭い声色。

 どう考えても聞き間違えるようなものではない。


「おや。今日は随分と客が多いな」


 そう言いながら苦笑するマドゼラ。

 赤いロングコートを羽織って、装備を整えている。


「今の声って……リーダー……!」


 ふと、スイと目が合った。

 きこえてきたのがレイツェルの声だということには皆も気づいているようだ。

 緊張感が周囲を支配する。


「姉さん……」

「安心しな、カイン。少なくともヒラに負けるアタイじゃないよ」

「…………」


 カインと呼ばれた黒紋病の青年は眉をひそめてマドゼラを見つめている。

 そんな彼の視線を振り払うように、マドゼラはロングコート


「どうやら呼ばれているようだからねぇ。ちょっとアタイは外に出てくるよ。どれ、そこらへんにある水でも飲んでくつろいでな」

「いや……そんな……」


 俺が言葉を返す前に、マドゼラが颯爽と部屋を出ていく。

 カインがすがるような視線を送ってきているのは気のせいではないだろう。

 とにかく、俺達も状況を知らないといけないことはたしかだ。

 急いでマドゼラの後を追う。


「アンタがどういう狙いでアタイを追いかけてきたのかは知らんがねぇ。少なくとも国に味方するのはお勧めしないよ」

「えっ――」


 俺達が追いかけてきても、マドゼラは視線を動かさない。

 どこか悲壮な決意を感じさせるような――そんな目をしたまま、マドゼラが言葉を続ける。


「盗賊のアタイがいうのもなんだけどねぇ。権力ってヤツが正しく行使されるなんてことは、いつの時代でも絵空事ってことさ」

「それは、どういう……マドゼラッ」


 スイの問いかけを無視してマドゼラは扉を開ける。

 真っ先に目に入ってきたのは、高潔さに満ちた金属の鎧をまとった男達が数十人。

 そして、最前に立つレイツェルの姿だ。


「おやおやぁ。なんとまぁ、ご立派なお出迎えだ。盗賊風情にはもったいないねぇ」


 ゆっくりと家の外に出て周囲を見渡すマドゼラ。

 後に続いて俺達も外に出る。


「マドゼラ・ドルトレット。貴方の度重なる盗賊行為――その罪を償ってもらいますよ」

「ほー。そのためにここまでやるかい」


 あれは――騎士団だろうか。皆、いかにも重厚な感じの鎧を身に付けている。

 そのうちの一人は、金のフルフェイスの兜を身に付けている。おそらく、リーダーなのだろう。

 ともかく、数十人の騎士達により、マドゼラの家は完璧に包囲されていた。


「レイツェルさん……これは……」


 不安そうに眉をひそめながら声を出すスイ。

 すると、レイツェルがスイを見て、丁寧にお辞儀をしてきた。


「失礼いたします。スイ様。僭越ながら、マドゼラを捕縛するお手伝いをさせてください」

「お手伝いって……」


 言葉を詰まらせるスイ。

 俺も状況がよくのみこめていない。


「ふーん……なるほどねぇ。アンタ達、利用されたね?」

「え……」


 苦笑しながら俺に視線を移してくるマドゼラ。

 その意味が理解できないでいると、レイツェルが口を挟んできた。


「利用だなんて人聞きの悪い。むしろ、貴方の方がスイ様に危害を加えかねないのではないですか」

「危害ねぇ……」


 ぼそりとそう言いながら、マドゼラは、目を細めて手に持った銃を握る力を強める。

 そんな中――


「まぁまぁ。そう構えないでくれよ。マドゼラ。ここまで来たら、もう戦うのはやめにしないか」


 騎士団の後ろ側から、男の声が響いてきた。

 遅れて、よれよれのポンチョを羽織った男が姿を現す。

 マドゼラの家を囲っている騎士団には似合わない、貧相な見た目。

 ――エクツァーのギルドマスター、ジャンだ。


「なぜ……?」


 驚きのあまり、その一言しか出てこない。

 そんな俺達をからかうように、ジャンが軽く笑いながら答えてくる。


「ん? いや、ほらさ。君達がマドゼラに会いたいだなんていうからさ。私も心配になってしまってさ」

「…………」


 マドゼラは、そんなジャンのことを無言で睨み続けている。

 ジャンはエクツァーのギルドマスターだ。

 もしかしたら、マドゼラも彼のことを知っているのかもしれない。


「おかしいですね」


 ふと、リステルの冷ややかな声が響く。

 その言葉で皆の視線を集めると、リステルは追い詰めるような声色で言葉を続けた。


「旧エクツァーを出てからここに来るまで――私は、あなた方の気配を全く感知しなかった」

「ん……? それが何か」


 どこかわざとらしく両手をあげて首を傾げてくるジャン。

 それを挑発と受け取ったのだろうか。

 リステルは、さらに声を冷ややかなものへと変化させる。


「レイグッドに来た時、最初に会った男は国の人間を毛嫌いしていました。それなのに、貴方達が来たことは全く口にも出していなかった。ということは、貴方達は私達より後にレイグッドに来たことになる」

「ほぅ、それで? 君達に何か問題でもあるのかね」

「特に何も。ただ、貴方達がどうやってレイグッドに来たのか気になりまして。そこにいるレイツェルとは、たしかに旧エクツァーで別れたはず。しかし、レイグッドにくるまで全く気配がなかった……」

「……分からないな。君の質問の意図はなんだい?」

「ありえないのです。貴方達のレベルごときの気配を私が感知できないなどということは。しかも、そんな仰々しい鎧をつけた者が何十人もいながら、つい先ほどまでそんな気配は全くしなかった。貴方――何か隠し持っていたりしませんか」


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