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423話 リステルの真意

 広場から戻ってきた俺達は、順番にシャワーを浴びることになった。

 とりあえず、リステルと皆を一緒にするのはまずいと思い、最初にリステルをシャワーへ向かわせることに。

 ……といっても、それは問題の先送りにすぎないのだが。


「…………」


 先ほどリステルに言われたことが相当こたえているのだろうか。

 俺からすれば、あんな言葉なんて気にする必要などないのだが――スイは、テントの端でふさぎ込むように無言で座っている。


「強かったな。リステル……」

「うん。多分……だれよりも、強い。お兄ちゃん以外なら……」


 ユミフィとセナも、落ち込んではいないものの、かなり戸惑っているようだ。

 あれで態度がまともなら、非常に心強い仲間ができたことを喜ぶべきなのだろうが――この異様に気まずい雰囲気がそれを許さない。


「…………」


 とにかく、今はスイのことを支えてあげなければ。

 真面目なスイのことだ。リステルの言葉を変に重く受け止めてしまっているのだろう。


「スイ。気にするな。リステルは……」

「…………」


 ふと、俺の声に反応して顔を上げてくるスイを見て、俺は動きを止められた。


「信じてください……」


 今にも零れそうなほどに、目を涙で潤ませるスイ。

 絞り出すような、かすれた声でスイが話す。


「信じてくださいっ……! 私は、私はっ……貴方に……貴方にっ、半端なんてっ……そんなっ……!」


 思わず、息をのむ。

 いくらスイでも、そこまで大真面目にリステルの言葉を受け止めてしまうとは思っていなかったのだが……


「気にするな。俺はそんなこと思ってない。リステルには後で言っておくよ。だから大丈夫だ」

「う……」


 なるべく優しく声をかけたつもりだったのだが、スイの表情は変わらなかった。

 それどころか、さらに辛そうにスイは眉をひそめる。


「うぅっ……違うの……私は、そんな言葉かけられたくて言ったわけじゃ……私は、貴方に甘えたいわけじゃっ……! わ、私が……私の方がっ……!!」

「…………」


 ここまで動揺したスイを見たのは初めてな気がする。


 ――今はそっとしておいた方がいいか……


「……少し、外を歩いてくる。スイを頼めるか」

「あぁ」

「ん。任せて」


 力強くうなずくユミフィとセナ。

 リステルと戦った者同士――彼女達なら何か分かり合えるものがあるかもしれない。

 そう期待して、俺はテントの外に出た。

 少し歩いて携帯シャワーのある場所に行く。

 もうリステルはシャワーを浴び終えたのだろうか。カーテンで囲われた携帯シャワーのスペースの中からは、特に音はきこえてこない。


 ――いったい、リステルは何を考えて……


「あら、マスター。どうされたのですか」

「ん……」


 ふと、カーテンの中からリステルが姿を現してきた。

 その身は、メイド服ではなくネグリジェに包まれている。

 スイの荷物の中にあった予備のものだ。

 少し濡れた髪をタオルで軽くはたくリステルの姿は、妙に色っぽい。


「――なるほど。そういうことですか。お任せください。予習は完璧です」

「は?」


 言っている意味が分からない。

 やけに自身満々な表情を見せるリステルの前で固まっていると、彼女が優しく俺の手を引っ張ってきた。


「あの小さなカーテン中では少々狭いかと存じますが……このリステルにお任せください。至高の時間をお約束いたします」

「何を言って……ん?」


 携帯シャワーが置いてあるカーテンの中に俺を引っ張っていくリステル。

 そのままネグリジェをたくしあげ――


「おいおいおい! そういうわけじゃないって!」


 慌ててリステルの手を抑える。

 きょとんとした顔で俺のことを見つめてくるリステル。


「? では、一体何を……? あぁ、なるほど。スイのことですか」


 あっさりとそう言いきってスカートから手を離すリステル。

 あまりにも淡泊に言い切ったその態度に、俺は思わず後ずさりしてしまった。


「……わかってるのかよ」

「もちろん。マスターの一番の理解者は私です」


 片手を胸にそえて、にっこりと笑うリステル。

 ――可愛い。それも、とてつもなく。

 だが、俺が抱いている緊張感は、そのせいでうまれたものじゃない。


「それで……私へのご用は、なぜあんなことを彼女に言ったのか――それをきくこと、ですか?」

「…………」


 理解者を自称するだけあって、その程度のことはお見通しというわけか。

 だが、理解者という言葉には程遠い、心地いいとはいえない感覚が俺を包み込む。

 そんな俺の内心を見透かしたかのように、リステルが困ったように眉を八の字に曲げた。


「ふふふ。マスター、大変恐縮ですが、それは私の口から言うべきことではないかと」

「え?」

「ただ、私があぁいった方が、マスターのためになるかと思ったのです。マスターは、スイのことを大切にしているように見えたので」

「え……?」


 その言葉をきいて、俺は唖然としてしまった。

 一瞬、聞き間違いかと思ったが――そんなはずはない。


「おや? 勘違いでしたか? マスターは、随分とスイのことをご信頼されているようにお見受けしたのですが」

「…………」

「ふふ……分かっています。そんな警戒したような目をなさらないでください」

「お前……」


 リステルが何を考えているのか分からない。

 彼女に敵対心がないことだけは分かるのだが――


「ご安心を。私の行動の全ては、マスターのためにあります。マスターの望み、マスターの幸せ――それは、私の望みであり、幸せです。ですから……スイには、あぁ言った方がよかったのですよ」

「……分からないな」


 僅かに苛立ちを感じた。

 少なくとも、俺にはリステルの言葉と行動は一致していないように見えたから。


「そうですね。でも、私には分かるのです。私とスイは……同じですから」

「同じ?」

「えぇ。……少々妬ける気持ちもありますが、かまいません。これもマスターの幸せのため。マスターが最も信頼し、最も近い位置におくのは、この私ですから」

「リステル……」


 リステルの自信に満ちた表情は変わらない。

 数秒ほど見つめあう時間が続いた後、リステルは、そっと身を寄せてきた。


「さて……それよりもマスター。エネルギーの補給をお願いしたいのですが」

「補給? 何を言ってるんだ?」


 唐突な話題転換に頭がついていかない。

 すると、リステルは若干顔を赤らめて俺の首に手をまわしてきた。


「……? 何って、いつもしてくれているじゃないですか」

「え……? ちょっ!?」

「んっ――」


 抵抗する間もなく、リステルの顔が一気に近づいてくる。

 そして――


「っ――!!!!???」


 まるで、そうするのが当然と言わんばかりに唇をふさがれた。


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