419話 暴露
「お疲れ様です。何か得られたものはありましたか」
皆で手分けして地下空洞を捜索すること数時間。
地下空洞から出ると、レイツェルが出迎えてくれた。
どうやら律儀に待っていてくれたようだ。
「いやー……全然。収穫ゼロだぜ」
そう言いながら、セナが気まずそうに頭をかく。
「そうですか……無駄足をふませてしまったようで申し訳ございません」
「そんな。とんでもないです。むしろこっちこそ……こんな遅い時間まで、わざわざすいません」
恐縮したように、スイが頭を下げる。
既に、周囲は、かなり暗くなってしまっている。
いつからここで待っていてくれたのか分からないが、相当彼女を疲労させてしまったはずだ。
それでもレイツェルは、そんな疲労感など全く感じさせない笑顔を返してくる。
「お詫びといってはなんですが、マドゼラの居場所について聞き出してまいりました」
「居場所が分かったのですか?」
「はい。どうやらレイグッドにいるようですね」
「レイグッド……?」
怪訝な顔で首を傾げるユミフィとセナ。
「ここからさらに西に行くと、ハーフェスという山脈があるのですが、そのふもとにある小さな村のことです。今までギルドも把握していなかったのですが、そこにマドゼラの家族がいるようなのです」
「……そんな情報がどこから?」
「捕まえてくださった中に一人、ドルトレット盗賊団の幹部クラスの者がおりました。奴隷呪術を受けた以上、暫定的とはいえ私が主となります。奴隷は主の命令には逆らえません」
そう言って、にこりと微笑むレイツェル。
若干というか、明らかにその目が笑っていないのが気になるが――
「……なるほど。わかりました。では、次の目的地はレイグッドですね」
そこには触れず、スイも淡々とした声色で俺の方に振り返ってくる。
藁にもすがるような感じだが、やはりマドゼラに会うしかないだろう。
――それに、国と敵対しているマドゼラなら、もしかして俺達の心強い仲間になってくれたり……
「どのみち、この時間からレイグッドに行くのは無謀です。物資の整理もありますし、今日はここでお休みになられた方がよいかと。私達もここで一泊してからエクツァーに戻りますので」
「分かりました。今日は、ありがとうございました」
綺麗にお辞儀をするスイとレイツェル。
それにならうように、俺達も頭をさげた。
†
レイツェルと別れた俺達は、適当な場所でテントを張り休むことにした。
それを決めてから、ものの一分も経っていない現在。
俺と――リステルを除いた皆は、ただただ唖然と突っ立っていた。
「……凄い」
目の前には、完璧に張られたテントと、携帯シャワー用のカーテンがある。
それだけなら普通なのだが、問題はかかった時間だ。
俺達の荷物を持たせたラクダと合流し、テントを張る場所を決めてからテントを張り終えるまでの時間が――というか、リステルの動きがあまりにも早すぎる。
目にもとまらぬスピードで、たった一人で完璧にテントを展開し終え、俺の半歩後ろの位置で微笑んでいる。
「リステル……えっと……」
「はい、マスター。先にシャワーを浴びられますか? であれば、他の荷物につきましては私が整理しておきます。どうぞ、ごゆっくりなさってください」
「えっと……」
そういうことを聞きたいわけではないのだが。
リステルの満面の笑みを見ていると、そうは言えないというか。
「あぁ! 思い出しましたっ!!」
と、そんな時だった。
リステルが唐突に大声をあげる。
「な、なんだよいきなり」
「マドゼラッ! 私、その人と戦ったことがあります!」
――なんだ、そんなことか……
いや、それはそれで驚くべきなのかもしれないが。
スイが苦々しく笑う。
「……まぁ、やはり貴方ですよね……」
「と、いいますと?」
「ドルトレット盗賊団の人たちがメイドに怯えていましたから。大陸の英雄とすら呼ばれる彼女を倒せる人なんて……」
「英雄って、冗談でしょう? 別に大した強さではありませんでしたよ。頭も悪かったですし」
「…………」
呆気なくそう言い切るリステルに、スイは絶句してしまう。
だが、リステルは、むしろそんな反応をされることが予想外だと言いたげに首を傾げるだけだ。
「まぁ武器をいただいた手前、そう悪くいいすぎるのもよくないですか。よっ……」
と思いきや、リステルは、唐突にスカートをたくし上げた。
そのフリルの下から、可憐な白がひょっこりと――
「ちょっ! リステルッ!? 何をしているのですか!?」
慌てて、スイがリステルの手をつかむ。
……正直な話、手遅れだったのだが。そこには触れておかないようにしよう。
俺のせいでもあるし……
「なにか? ホルスターを外しているのです。寝る時、マスターにぶつかってしまうでしょう?」
「お、おいおいっ。師匠の隣で寝る気か!?」
「当然でしょう? 私はマスターの従者なのですから」
「なっ――オレだって、師匠の弟子だぞっ!」
くいかかるセナを前に、セナが不敵に笑う。
「なるほど……たしかにマスターは、弱者にも価値を見出し、導くことのできる優しき方です。しかし、貴方の弱さで、私を差し置いてマスターと寝ることが許されるとお考えなのですか?」
「なっ――ぐっ……」
それを聞いて、何も言い返すことができないセナ。
――リステルに悪意はないのだろうが、仲間の中に軋みがうまれるのはまずい。
こうなったらもう、リステルも仲間ってことになるのだろうが――どうしたものか。
「まぁいいです。とりあえず……」
そんなことを考えていると、リステルがまたスカートに手をかけた。
今度は俺が、その手をつかんで止める。
「リステル! た、たくしあげるなって!」
「えっ……? なぜ……?」
俺に対しても怪訝な表情を向けていることから、リステルは大真面目なのだろう。
それを察したのか、スイがおそるおそるといった感じで問いかける。
「あの……貴方は、恥じらいとかは、ないのですか……?」
「恥じらい? もしや、下着が見えることですか?」
「…………」
――自覚があったのかよ……
なおさら意図が分からない。俺も含めて、皆が絶句している。
だが、なぜかリステルは誇らしげに微笑んでいた。
「……呆れましたね。まがいなりにもマスターの仲間を名乗っておきながら、その程度のことも分からないとは。貴方は、マスターのことを何も理解されていないようですね?」
少なくとも今俺が困惑していることについては、まるで理解してくれていないのだが……そんな揚げ足取りは置いておくとして。
リステルの言葉に、スイが若干上ずった声で言い返す。
「なっ――そ、そんなことっ! 私だって、リーダーのことっ……」
「では、マスターの趣向を貴方は把握されていますか?」
「しゅ……趣向……?」
「左様」
不気味なほどにニコニコと微笑むリステルを前に、スイが一歩後ずさりする。
それにしても、趣向というのはどういう意味なのだろうか。
そんな俺の疑問に答えるかのように、リステルは不敵に笑って答えた。
「いいですか? マスターは――女性の下着を見るのが大好きなのです!」