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418話 架空

 そこから皆に日本でのことを話すのは、かなり骨が折れるものだった。

 そもそも、皆は俺がプレイしていたゲームを知らないのだ。この世界にはゲーム機もパソコンもないのだから彼女達には想像ができないだろう。

 俺が伝えられたのは、せいぜい俺が前にいた世界ではこの世界のことは架空のものであったということか。


「なるほど……なかなかイメージがつきませんが……うー……」

「ご、ごめん。正直全然分からなかった……」

「……ごめんなさい」


 やはりというべきか。彼女達の反応は芳しくない。

 我ながら突拍子もない話なのは分かっているだけに、なかなか歯がゆい。


「いやいや。こっちこそ……そりゃ、こうなるよな……」

「そうですね……正直、リーダーじゃなかったら聴く気も持てないような内容でした……でも、リーダーがスキルのことについて色々知っていた理由が納得できます」

「たしかに。オレにスキルを教えてくれた時も、妙に詳しかったもんな」


 ただ、信用してくれなかったわけではないらしい。

 どこかすっきりしたような表情を向けてくる皆を見て、胸をなでおろ――


「そんなっ!!」


 ……そうとしていたのだが。

 張り裂けるようなリステルの声がそれを許さない。


「そんなの嘘ですっ! では、私の記憶は作り物ということですかっ!」

「え……?」


 泣きそうな顔になりながら訴えかけてくるリステル。

 呆気に取られている俺に、ものすごい勢いで詰め寄ってきた。


「マスターは、私のことを救ってくれた! 私を愛して、私を育ててくれた! それは架空のお話だったということなのですかっ!!」


 地下空洞の空間は、音をよく反射する。

 そのせいか、リステルの声はより悲痛なものにきこえてきた。

 ――いや、空間のせいなんかじゃないのだろう。

 リステルの目からは、すでに涙がこぼれている。


「なら私の記憶は? 私は覚えています! あの時、私なんかより優秀な人はたくさんいて――でも、マスターは私を選んでくれてっ! クラスの相性なんて気にせず、いつも私をお傍においてくれたっ! 私を愛してくれたのが作り物の記憶だったなんて――私は、私は認めたくありません!!」

「リステル……」


 ……少し大げさな態度のようにも思える。

 でも、リステルの気持ちがまっすぐなものだということは、痛いほど伝わってきた。


「……いや、ごめん。伝え方が下手だったかもしれないけど……リステルと俺が一緒だったのは、確かだよ」

「っ……」


 俺の言葉に、リステルがびくりと肩を震わせる。


「本当だ。架空だろうとなんだろうと……少なくとも俺は『リステル』を大事にしてた。あの時の俺にとって、たった一人の仲間だったんだ」


 俺にとって、リステルは架空の世界の中のキャラクターだった。

 でも、リステルは、日本にいた頃の俺にとって唯一の仲間と言える存在だった。

 例え今まで一度も彼女と話したことがなかったとしても――いや、だからこそ。


「だからリステル……俺は嬉しいよ。こうして君と話すことができて」

「っ――」


 リステルの瞳が潤む。

 そして――


「うああああああん! マスター!! マスタアアアアー!!」

「っ――!?」


 唐突に、視界が金色に染まった。

 それがリステルの髪であることに気づいた時には、俺は腕ごとがっしりと彼女に抱きしめられてしまっていた。


「やっぱり貴方はマスターです! 私はずっと見ていました! その優しい瞳の光を! 愛してます! 愛します愛してます愛してます!!」

「わ、分かった……分かったから……リステ……」


 俺の胸に額をごりごりと押し付けるリステル。

 瞳の光どころか俺の顔を見ることもなく背中に回した腕の力を強めるリステル。

 急に身動きを封じられて、若干息苦しいのだが……どうにも払いづらい。


「愛して愛して愛して愛して愛してます!! 私のマスタアアアアーッ」

「分かった……分かったからそういうことするなって……」

「っ!? はっ……ひああああっ!? 大変申し訳ございませんっ! こんな不潔な体で、マスターに抱き着いてしまうなどっ」


 と、思いきや、またもやいきなり俺から離れるリステル。

 不潔どころか、ものすごくいい匂いがしていたのだが……そんな変態みたいな感想はさておき。

ため息をつきたくなるぐらい綺麗な姿勢で土下座をする彼女をとめなければ。


「ぅ……お兄ちゃん……」

「師匠……」

「そ、そんな目で見るなって!」


 ユミフィとセナの視線が痛い。

 そんな悲しそうな顔で黙るぐらいなら、むしろ責めてくれた方が楽だった。

 だが――


「リステル。お取込み中すいませんが聞いてもいいですか?」


 スイだけは、他の二人と違って冷静な声を出す。

 すると、リステルは、今まで土下座をしていたとは思えないほど、高圧的な表情で顔をあげてきた。


「はて――それは、私のマスターに対する忠誠を示すのを妨げるに値するものなのでしょうか?」

「…………」


 軽くスカートをはたきながら立ち上がるリステル。

 そんな彼女にむかって、スイは、ごくりと喉を鳴らして問いかける。


「貴方のレベルって……いくつなんですか?」

「?」


 質問の意図が分からないと言いたげに首を傾げるリステル。

 他方、スイは、若干顔を強張らせながら問い続ける。


「その……リーダーに抱き着くとことか、さっきの土下座をするまでの動きが全く見えなかったのですが……貴方は一体……?」

「おや、貴方は分かるのですか。格の違いが」


 そう言いながら、リステルは自慢げに微笑んだ。


「あの森に飛ばされてからというものの――それが分からない方が多くて困っていたのです。鬱陶しくて、煩わしくて……」

「リステル。答えていただけますか」

「なんて一方的な。なぜ私が貴方の質問に答える必要が?」


 吐き捨てるようにそう言うと、リステルが右手でスカートをたくしあげる。

 太ももにはレッグホルスター。そこから瞬時にハンドガンを手に取りスイの額へ突き付ける。


 ――って、何してんだこいつ!?


「リステルッ!」


 急いでリステルとスイの間に割り込んだ。

 俺がそうすることを分かっていたのか、そもそも攻撃する意思なんてなかったのか。

 リステルは俺が間に入っても特に驚いた様子を見せなかった。


「おいっ! お前、なにす――」

「大変恐縮ですが!!」


 セナが近寄ろうとしたところでリステルが叫ぶ。

 あまりに威圧的な声色に、セナはびくりと体を震わせる。


「……私に触るのは厳にお控えください。私に触れていいのはマスターだけですから」


 俺に銃を掴まれたせいだろうか。

 リステルは、あっさりと銃を下げた。


「むしろ私からお伺いしたい所存です。貴方達は……マスターをリーダーと呼んでいらっしゃいますね」

「そ……それが何か……」


 唖然とした表情で答えるスイ。

 ……スイは、リステルの動きに全く反応できていなかった。

 そうだとすれば、彼女のレベルは――


「なんという……憎らしい――妬ましいっ! 我がマスターの仲間を名乗るなど、おこがましいっ!!」

「お、おい……リステル……」


 声を荒げるリステルに、おそるおそる話しかける。

 すると彼女は、小さくため息をついて肩を落とした。


「……申し訳ございません。つい嫉妬が抑えられず……お見苦しい真似を……」


 苦々しく眉間にしわを寄せつつも、リステルは、綺麗にお辞儀をする。


「ご質問にお答えしましょう。私のレベルは200です」

「なっ――」


 ――やはり……


 スイ達は絶句しているものの、そのことは予想がついていた。

 俺は、リステルのレベルをカンストするまで上げていた。

 装備は消えているようだが、俺にとっては今更驚くようなことではない。


「何を驚いていらっしゃるのですか。私はマスターの武器であり、盾でもあるのです。このぐらいのレベルは、あって当然。いえ、むしろこれでも足りないくらいです」

「っ――」


 何も言わず唇をかみしめるスイ。

 ……沈黙が続いたせいだろうか。リステルは、スイから興味を失ったように呆気なく視線をそらすと、俺にむかって話しかけてきた。


「ところで……ラーガルフリョウトルムリン、でしたか。その痕跡は探さなくてもよいのですか。そのためにここに着たのでは?」

「それは、まぁ……」


 リステルに指摘されて皆が口ごもる。

 たしかに、色々と整理しなければならないことはあるが、まずは目の前の目的を達成することが先決だろう。

 例の黒いクリスタルが落ちていたりするかもしれない。


「そうだな……よし。とりあえずそれっぽいものがないか見て回ろうか」


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