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416話 アシストNPC

 日本にいたころ――俺は、一人だった。

 何もリアルだけの話じゃない。ゲームの世界でも一人だった。

 対人戦はしたことはある。ギルドに所属して皆で戦うことに興味もあった。

 でも――結局誰にも話しかけることもできず、話しかけられることもせず。

 気づけば一人で黙々とレベルを上げていたのが俺だ。


 ……それでも満足だったのだ。自分の努力が数値となって報われるのが嬉しくて、夢中になった。

 それに、俺みたいなソロプレイヤーでも、気の向いた時に気軽にパーティを組んだ気分になれるシステムがあった。


 それがアシストNPC。

文字通りプレイヤーの手助けをしてくれるNPCだ。

一人のプレイヤーに同時についてくれるのは一人のNPCだから、パーティといっても二人だけ。それでも、俺にとっては一緒に戦ってくれる心強い仲間だ。

アシストNPCには老若男女、クラスも様々なものがいる。

 そして俺が選んだのは――


「リステル……」


 今、俺に抱き着いている金髪サイドテールの髪型をしたメイドの少女――リステルだ。

 見た目は可愛らしい少女だが、その正体は人間ではない。


魔法生命体――ホムンクルス。


彼女の詳しいバックグラウンドは、まだクエストが実装されておらず明かされていない。

ただ、あるマッドサイエンティストが生み出した失敗作という設定だけが公開されていた。ゲームでは『ヴェルガン』という火山にリステルが廃棄されていて、動けなくなった彼女を助けると、アシストNPCとしてプレイヤーに同行してくれるようになる。


 そして、リステルは、その可憐な容姿から人気が高く、様々なプレイヤーがアシストNPCとして選択していた。

 ――もっとも、それは初期の話。

ゲームのアップデートが進むにつれ、萌え系のアシストNPCが増え始め、人気は分散。

 しかもリステルは銃士であり、誰とでもペアを組めるような汎用性のあるクラスではない。だから、彼女を選ぶ理由は愛くらいしかなくなっていった。


 だが俺は、ずっと彼女をアシストNPCにしていた。

 最初に選んだ相手だし、愛着があったのだ。


 ……そう。

この世界に飛ばされる直前まで、俺はリステルと一緒にゲームの中で狩りをしていた。

 おれが日本にいた時点で実装されている最高難易度のダンジョンフィールド――グラウディアで。


「本当に……リステルなのか……」


 彼女の肩を掴み、顔を見る。

 答えを待つまでもない。

この子はいつも、俺の傍で銃を撃ち、一緒に敵を殲滅していたかつての相棒――リステルだ。


「はい。マスター。勝手にお傍を離れてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 周囲の唖然とした空気などまるで感知していないのか。

 リステルが浮かべる満面の笑みに、若干気圧される。


「いや……俺のこと、覚えているのか?」

「え? どういう意味ですか?」

「…………」


 この世界は、ゲームとは違う。

 世界観としては『リステル』は世界に一人しかいなかったが、他のプレイヤーだって同じクエストをクリアすれば彼女をアシストNPCにすることはできた。つまり、プレイヤーに追従する『リステル』はあのゲームの中で何人もいたことになるわけで……

 もし、彼女がゲームの中からこの世界にやってきたのだとすれば――


「えっと……リステルは、俺以外にマスターっている?」


 他のプレイヤーもマスターになっているかもしれない。

 もし、彼女にその記憶があったら、そこから他のプレイヤーがこの世界に来た可能性を探れるかもしれない――

 そう思って質問してみたが、リステルはそれをきくと露骨に嫌そうな顔をした。


「……ご冗談を。私がマスター以外に仕えたことなど、あるはずがありません」

「いや……過去にそういうこともあったのかなって……」

「まさか。私に生きる意味を見出してくれたのは、貴方をおいてほかにありませんっ! もしや――もう私は不要なのですかっ!?」


 若干顔を青ざめながら俺に顔を近づけてくるリステル。

 もともと抱き着かれていることもあって、文字通り目と鼻の先にリステルの顔が寄ってきた。

 ……これは、香水の匂いだろうか。それともシャンプーだろうか。

 アロマのような、心が安らぐ匂いがする。

 そういう場合じゃないことは分かっているのだが――長い金髪のサイドテールを抱きしめたくなるような衝動が――


「あぁ……マスター!? 失礼しました。私、まだ体を清めておらず……不潔でしたよね。大変ご無礼をっ!!」


 俺が呆然としていると、リステルが慌てた様子で俺から離れていく。

 だが彼女の言っていることは意味が理解できなかった。

 不潔どころか彼女は清潔感の塊だ。砂だらけの風景の中、その存在が異様に見えるほどに。


「リーダー? えっと……どういうことですか……」


 と、スイが頃合いを見計らったように話しかけてきた。

 いつの間にか、見かけたドルトレット盗賊団はぐるぐるに捕縛されている。

 どうやらスイにまかせっきりにしてしまったようだ。


「あ……スイ。これは……」

「分かっています。そんな顔しないでください。事情があるのですよね?」


 そういってニコリと笑うスイ。

 ――若干、目が笑っていないような感じがするのは気のせいだろうか。


「……えと、もしよければ、きいてもいいですか……? その方は一体?」


 皆がリステルに視線を集める。

 ――こうなればもう、話すしかないだろう。


「そうだな……話すよ……色々混乱するかもしれないけど……まずは……」


 スイに縛られた男達の姿が気になる。

 まずは、彼らをどうするか決めてからの方がいいだろう。

 スイ達以外に聞かれたくないということもある。


 ふと、俺が考えていたことを察してくれたのだろう。

 スイがくすりと笑って答える。


「そうですね。とりあえず、彼らのことから片づけますか」

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