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406話 メイド?

「よし、これで全員か」


 ぎゅっとロープを縛りながら、セナがやれやれといった感じでため息をついた。


「あぁ。もう大丈夫だろ……」


 武器もすでに取り上げている。ひとまず安心といっていいだろう。


 俺達を襲ってきたのは三人の男達だった。

 どれも30から40ぐらいの年齢だろうか。

 ボロボロの黄土色の布で身を纏った彼らは、かなりみすぼらしくみえる。

 ――もちろん、それで同情なんてできるはずもないのだが。

 それでも、どこか弱いものいじめみたいな感じが出ていて若干気まずい。


「貴方達、まさか……いえ……」


 そんな彼らを前に、若干声をうわずらせるスイ。

 だが、すぐにスイは剣を抜くと落ち着いた様子で言葉を続けた。


「ドルトレット盗賊団ですか?」


 一人の男の首元に剣を突き付けるスイ。

 恐ろしいほどに冷えた声だ。

 ――相変わらず、スイは敵に容赦がない。

 すでに相手は動けていないし、そこまでやる必要はないと思うのだが……


 ただ、逆にこうも思う。

 スイのそれは演出だ。

 いつもの穏やかで優しい、控え目な性格を隠さないと生き残れない。

 ここはそういう世界なのだろう。


「くそ……」

「はぁ~……ついてねぇ……なんでこう、化け物みたいな女に負けつづけるかねぇ……」

「あの女のせいだ……あのクソメイド……」


 スイの言葉に答えずぼやき続ける男達。

 若干、スイの眉が痙攣したように動いた。


「なにを言っているのですか。質問に答えていただけます?」

「……はっ、そうだよ! だからなんだよ!!」


 投げやりな感じで叫ぶ男達。

 するとスイは、あっさりと剣を男から離して剣を鞘にしまった。


「クソメイド……? どゆこと?」


 ユミフィが怪訝に首を傾げる。

 たしかに、ユミフィの言う通り、男達の言っていることも少し気になる。

 この男達はメイドさんに負けたということだが――それはいったいどういう状況なのだろう?


「……化け物じみた強さのメイドが俺達のアジトを壊滅させたんだよ」

「リーダーも奴に負けたんだ……ドルトレット盗賊団は終わりだ……」

「――なんですって?」


 と、スイが動揺した様子で声をあげた。


「ドルトレット盗賊団のリーダーというと……マドゼラですか?」

「そうだよ……」


 不貞腐れたような感じで答える男達。

 そんな彼らを煽るつもりではないのだろうが――あっけらかんとした様子でセナが口を開く。


「なんだ、マドゼラって強いんだろ? 英雄なんじゃないのかよ」

「そう聞いています。会ったことはありませんが……少なくとも私より強いはず……」


 やや深刻そうに口元に手を添えるスイ。

 マドゼラは大陸の八英雄の一人――そう聞いている。

 はっきりとは分からないがそのレベルは100以上なのだろう。

 それを倒すことができる者の心当たりといえば……


 ――まさか、レシルの仲間か……?


「分からねぇよ……とにかく、くそ強ぇメイドがいきなりやってきて……アジトをことごとく壊していきやがった。マジで意味が分からねぇ……素手なのに、マジで強ぇんだ……」

「とにかく奴から逃げまくって……気づけば砂漠でよ。そこらへんにいた行商人とか襲ってなんとか逃げ切ってきたんだ……」

「リーダーは蒸発しちまうし……最悪だぜ……」


 だが、メイドという単語がレシル達と繋がらない。

 今まで出会ったメイドといえばミハと――強いて言うなら、アーロンか。


 ――あれ、もしかして本当にアーロンさんが……


 あの人なら盗賊団を素手で壊滅させるぐらいの逸話の一つや二つ、あったとしても俺は驚かない。

 しかし、アーロンのレベルを考えると、さすがに大陸の英雄をボコボコになんてできないと思うのだが。


 ――いや、そもそも、アーロンがメイドなのだとしたら『メイド』なんて一言で彼らがまとめるはずがないか……


「そうですか。それは災難でしたね……」


 若干冷めた様子でスイがそう言い放つ。

 彼らがドルトレット盗賊団だというのであれば、マドゼラの居場所をききだすことができるとも思ったのだが――どうやら、そういうわけにもいかなそうだ。

 と、そんなことを考えていると、男達はやや怯えた様子で話し続ける。


「お、俺達のせいじゃないんだ……あのメイドがいなければ、俺達は……」

「今も楽しく、人を襲って暮らしていた――ですか?」


 剣の柄に手を当てながらスイが男達をにらむ。

 ――まるで、今かその首をはねようとしているかのような鋭い表情で。

 男達の表情が凍り付く。


「……スイ」

「分かっています。いくらなんでも殺しはしません。しかるべき人に引き渡す――それだけです」


 そうは言うものの、一瞬でも気を緩めれば本当に殺しにかかってしまうのではと疑いたくなるほど、スイの目は冷たいものだった。

 その迫力に、俺も――他の皆も誰もが声を出すことができない。

 そんな時間が数十秒ほど流れると、スイは興味を失ったように剣の柄から手を離す。


「……とりあえず出発しましょう。今日中にもう少し進まないと。あまりモタモタはしていられません」

「あ、あぁ……でもさ、ラクダ……」


 マントを翻し、男達から離れようとするスイの手をセナがつかむ。

 ――驚くべきことに、ラクダ達はまだ水をガブ飲みしていた。

 さっきまでの騒動など、まるでなかったかのようにひたすら湖に口を突っ込んで喉を鳴らしている。


「……はぁ。ラクダって、結構マイペースなんですね……」


 歴戦の戦士を連想させるようなスイの覇気が瞬時に消えていくのを見て。

 俺も思わず、頬が緩んでしまった。

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