402話 スカウト
馬車を預けた俺達は、ログエッド大橋街の中を歩き続けていた。
石畳の上をひたすらに歩き続けること数十分。
皆の顔にやや疲労が見え始めたころ、スイがおもむろに足を停めた。
「んー……宿屋が見つからないですね……自力で探すのはやめましょうか」
その言葉に、ユミフィもセナも、どこか安堵の表情をうかべる。
今の俺達にはトワがいない。馬車に詰めていた荷物は全て手荷物にするしかなかった。
戦闘に使う装備はもちろん、着替えにキャンプグッズ少々……旅に必要な多々の物を一気に持って歩き続けるのはさすがにこたえる。
「私、ここの地図を買ってこようと思います。少しの間、ここで待ってもらってもいいですか?」
「あぁ……わかった。すまないな。荷物、置いていきなよ」
「はい。すいません……」
申し訳なさそうにバッグをおろすスイ。
ふと、ユミフィが心配そうに眉をひそめてスイのことを見上げた。
「大丈夫? 拉致……」
そんなユミフィを見ると、スイはくすりと笑う。
「大丈夫です。レシルならともかく――普通の人相手に私が負けると思いますか?」
「……ん。わかった。待ってる」
「気をつけてな」
ユミフィとセナにそう言われると、スイはにっこりと笑って頷いた。
そのまま颯爽と人の中へかけていくスイ。
彼女の背中が見えなくなると、セナが俺のコートの袖を引っ張ってきた。
「な、なぁ……あの牢に入っている人たちって……」
セナが指さす方向には大きな馬車があった。
荷台の部分には牢が乗せられており、その中には首輪をつけた人々がみすぼらしい恰好でうなだれている。
「なんで、閉じ込められてる……?」
ややひいたようなユミフィの声。
牢の中にいる人たちの表情はいうまでもなく――あまり見ていて気持ちの良いものではない。
――もしかして、あの人たちは拉致されて……?
どういった人が奴隷になるのか、俺には正確には分からない。
だが、さっき「拉致」なんて言葉をきいてしまった手前、やはり警戒はしておかなければならないだろう。
「……師匠? なんか怖い顔してるぜ。大丈夫か?」
「あ、あぁ……まぁ、そうだな……」
「あんま気を張りすぎるなって。オレ達だって何もできないまま連れてかれるほど弱くないぜ」
「あぁ……でも……」
セナの言うこともわかる。皆のレベルを考えれば、普通の相手には負けないだろう。
だが――相手が「普通」の戦い方を仕掛けてくるとは限らない。
街中でやることではないと思うが、インティミデイトオーラを使っておくか――?
「やぁやぁやぁ! 君、君!」
そんな物騒なことを考えていた矢先のことだった。
聞きなれない陽気な男の声が俺の耳に飛び込んでくる。
声の方向を見ると、ローブをまとった金髪の男性が手をふりながら俺の方に近づいてきている姿が確認できた。
「……俺ですか?」
「そうそうそう! 随分と可愛い子達を連れているじゃないか」
「――っ!」
……嫌な予感がする。
少なくとも、皆が可愛いからとかいう理由で近づいてくる男の中に、まともな奴がいた記憶がない。
だが、その男は、そんな俺の警戒心など全く察知していないのか朗らかな声で話しかけてくる。
「どうかな。その子たち、僕に貸してみない?」
「……は?」
なんの悪びれもなく、その男は、あっさりとそう言ってきた。
驚きと呆れに耐えきれず絶句していると、男は目を細めてユミフィとセナを見る。
「あれ、君たち――あらら、隷従の首輪がないね。もしかして、奴隷じゃないの?」
「違うっつの。いきなりなんなんだよ……」
不快感を露にするセナ。
だが、男は笑顔を崩さない。
「いやさ、君結構かわいいじゃん。だからスカウトしようかと思って」
「スカウト?」
「そ。なんか才能ありそうなんだよね。君たち」
「……私も?」
怪訝に首を傾げるユミフィに、男は満面の笑顔で何度もうなずく。
「そうそう。ってこと、どう?」
いきなりそんなことを言われてイエスと答えるはずもないのだが――この男にとってはそうではないらしい。
じっと俺達に向き合って返事を待っているところが妙に律儀で、より不気味さを増している。
――と、男は、オーバーに手をたたくと、目をキラキラとさせながら話を続けてきた。
「あ、そうかそうか! 最初に僕が誰か話さないとね。あっはは、ごめんごめん。別に怪しい者じゃないんだ。ちょっと二人に、ストリップをやってもらおうかと思ってて。適性のありそうな子をスカウトしてるんだよ」
「なっ――!?」
男は、純粋さすら感じるほど悪気のなさそうな笑顔を見せている。
若干狂気が透けて見えるのは気のせいなのか――
「ストリップ……? なんだそれ」
「スキル?」
セナとユミフィには何のことだかよくわかっていないらしい。
まぁ、そんなことを知る環境にいなかっただろうし、それはそれで納得なのだが――
「おや、意外に純なんだな。君に結構仕込まれてると思ってたんだけど」
「えっ……」
「二人の表情だよ。特級クラスの性奴隷が見せるようなものだったから。すでに調教済みなのかなって思ったんだけど」
「ちょっ――」
――何言ってるんだこいつ!?