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399話 手本

 銃声というには激しすぎる、空間そのものを爆発させたかのような衝撃音。

 マドゼラの銃口から放たれたのは、火竜の吐息を連想させるような轟々たる炎。

 リステルの額に密着した状態では放たれたそれは、彼女の体を大きく後方へ突き飛ばす。



「……で、それだけですか?」



 ――だが。

 リステルの言う通り。

 マドゼラのスキルがリステルに与えた影響は『それだけ』だった。


「なっ――」


 炎に焼かれるリステルを前に、マドゼラが絶句する。

 自らの銃口から放たれた炎はたしかにリステルの身を襲っている。

 その額からは僅かな血が垂れており、リステルの受けたダメージを存在を――リステルの受けたダメージがその程度であることを証明している。


「なんですか、そのスキルは。急所に当ててその威力ですか?」

「ばかな……アルティマブラストの直撃で、その程度だと……!?」


 ――驚愕。

 ただただ、純に。目の前に起きていることへの驚愕がマドゼラを唖然とさせる。


 アルティマブラストは、決して威力の低いスキルなどではない。

 それどころか、レベル100を超えないと扱うことができないような最上位クラスのスキルだ。

 無論、リステルはそれを知っている。

 知った上で、わざとらしく、呆れたようにため息をついて歩きだす。


「まったく……本当にお頭が悪い。私の影の位置がずれただけであっさりと拘束が解除されてしまうなら、そんな威力の低いスキルを使うべきではないでしょう」

「っ――!」


 そう言いながら、リステルは矢が突き刺さった地面を指さす。

 アルティマブラストでリステルの体が飛ばされる前には、確かにそこにリステルの影があった。

 だが――今は、違う。マドゼラの放った矢は、リステルの影を捉えていない。


「せっかくなので」


 拘束から解放されたリステルが一気にマドゼラの懐に潜り込む。

 あまりに瞬時のことに棒立ちになるマドゼラの手から強引に銃を奪い取った。


「私が手本を披露いたしましょう。銃というものは――こうやって使うのです!」

「――ッ!?」

「ワンショットキル!」



 ――轟音。


 リステルの放った銃の弾がマドゼラの顔を横切った直後、青白い螺旋状の光が部屋の全体を切り裂いていく。

 マドゼラが座っていた玉座も、その横に置かれていた豪華な食事も、装飾も。

 全てが光に切り裂かれるように粉々となり、残ったのは二人だけ。


「……は?」


 刹那という言葉でもなお、表現として不適切ではないかと思えるほどの一瞬の間。

 がらりと部屋の模様を替えられたマドゼラが、唖然と周囲を見渡した。


「ばかな……拳闘士が、なんでこんなスキルを……」

「誰が拳闘士と名乗りましたか。誰が」


 銃口から出ている煙を軽く息で吹き飛ばした後、澄ました顔で銃をくるくると回すリステル。


「私のクラスは銃士です。武器が無いので仕方なく拳で戦っていただけのこと」

「……銃士? ばかな……銃士だと……!?」


 呆けた様子で、零れるたような声を出すマドゼラ。

 他方、リステルは淡々とした様子でマドゼラに近寄り、拳を放つ。


「フッ――!」

「ゴッ――!? ぐあっ……」


 無防備なマドゼラの腹に一発を決める。

 マドゼラの体は、まるで塵のように後方に吹っ飛ばされ背後の壁に叩きつけられた。

 その直後、距離を詰めてきたリステルの手がマドゼラの首を絞める。


「ついでです。さほど期待はしていないですが少しご質問させていただきますね」

「なっ、なにを……」


 必死にマドゼラの手をおさえ、逃げようとするマドゼラ。

 しかし、その手は動かない。


「グラウディアはどこですか。私は、そこでマスターと一緒に戦っていたのです。私は、そこに戻らなければなりません」

「グラ……ウディア……? あ、あの魔境で……戦っていた、だと……!?」

「魔境だか秘境だか存じ上げませんが。大量の魔物がいたのは確かですね」


 苦悶の声をあげながら、マドゼラがリステルの手首をつかむ。


「な……なんでそんなトコ……お、お前はいったい……」

「私はリステル。我がマスターの至高かつ最強――そして最愛の従者兼パートナー」

「な、なんだそれはっ……」


 リステルがふざけてなんかいないことは、マドゼラは分かっている。

 だからこそ、マドゼラには、余計にリステルが不気味に見えていた。

 淡々とした様子で、リステルがさらに問いかける。


「で、グラウディアはどこですか? といいますか、ここはどこですか? 私は今焦っているのです。我がマスターから、無断で離れてしまっているので。何卒、迅速なお答えをお願いいたします」

「が……あ……」


 だが、その問いかけにマドゼラが答えることはなかった。

 不意に、彼女の体から力が抜ける。


「……え? ちょっと。ちょっと!」


 それを見て、リステルの顔が一気に青ざめた。

 慌てた様子でマドゼラの首に指をあて、脈を確かめる。

 ――鼓動はある。どうやら、ただ気絶しているだけのようだった。


「はぁ……焦りました。私が人を殺したとあれば、マスターが悲しみますからね……」


 ほっとため息をついて、リステルはマドゼラの体を地面に投げ捨てた。

 マドゼラがから奪い取った銃を手に取りスカートをたくしあげるリステル。

 露出された太ももにはレッグホルスターが装着されていた。

 そこに銃をしまいこみ、何事もなかったかのように澄まし顔で部屋を去る。


「まぁ、仕方ないですね。とりあえずシャワーを探しますか……いい加減、水浴びをしないと、しかるべき時にマスターに体を捧げることができません……」


 サイドテールに結んだ自身の金髪をいじるリステル。


「ふふ、待っていてくださいマスター。貴方のリステルは、より美しく、清らかになって会いにいきますっ……ふふ……うふふふふふっ!」


 そんな風に笑うリステルの瞳は、どこか狂気の色に満ちていた。


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