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398話 シャドウシャランガ

「スパイラルカット!」


 マドゼラがナイフを横に薙ぐ。

 そこから放たれる衝撃波。

 切り裂くような風を纏い襲い掛かるそれを、リステルはあっさりと回避する。


「――おや」


 僅かに眉をひそめるリステル。

 自分がかわした衝撃波が背後の壁を破壊する様をちらりと見る。


「なるほど。さすがに今までとは格が違うようにお見受けします。それも――格段に」


 埃を払うようにスカートを払い、姿勢を整えた後、リステルは飄々とした表情でマドゼラを睨む。


「……ふーん、あっさりかわすかい。やるねぇ」

「心外です。この程度の威力、牽制としての役割すら持てないのでは。控えめに申し上げて――ゴミかと」

「はーん、そうかい」


 リステルの言葉を受けても、マドゼラは全く動じない。

 軽く数度ジャンプして肩をまわし、挑発的に笑って見せる。


「アタイはねぇ、お前さんみたいな奴は好きだよ。ただし、アタイの味方ならの話だけどねぇっ!」


 と、次の瞬間。

 マドゼラがコートの下に手を伸ばしたと思いきや、その下からナイフを取り出し瞬時に投げる。


「ほぅ――」


 一直線に飛んでくるそれを拳で払うリステル。


「自棄になられましたか? ナイフは投げるものではなく、斬るものかと思料いたします」

「バカがっ! これはこういう使い方なのさっ!」


 次々にコートの下からナイフを投げるマドゼラ。

 対するリステルは、自分に飛んできたナイフの一つを拳で突き返し、一つは蹴りで弾き、一つは体を横にずらして回避する。

 ダメージを与えることなく次々とナイフが落ちていくを前にリステルは失笑してみせた。


「そうですか。ですが少々、遅す――」

「スパイラルカット!」


 その直後、大きくジャンプしたマドゼラが、体を数回転させながらナイフを振るう。

 360度の方向に放たれる衝撃波。

 通常であれば逃げ場を失い、無抵抗にそれに刻まれるのであろうが――


「はぁっ!」

「――っ!?」


 リステルは、あっさりと拳によってそれを弾く。

 しかし、リステルがつけた白の長手袋には傷一つついてない。

 それは、彼女の『通常攻撃』が、マドゼラのスキルを打ち砕くほどに強力であることを証明している。


「おや、どうされたのですか。先ほどまでの見るに堪えない緩んだ頬が多少引き締まったようですが」

「……いちいちうるさいガキだねぇ」


 ふと、マドゼラの声が低くなる。

 リステルは、サイドテールを手で払い余裕を見せつけるように微笑んでいる。そんな彼女に対して、マドゼラは露骨に嫌悪感を示していた。


「なるほど。ただのガキじゃない。それは認めてやるよ。異常な身体能力だ」

「フケにも劣る価値しかない貴女の太鼓判など謹んでお返ししたい所存でございます」

「口の減らないクソガキだね」

「結構。つきましては――」


 一度、わずかに腰をおとすリステル。

 その直後――


「速やかに地べたに這いつくばることを希望いたします!」

「チッ――クソみたいな言葉遣いしやがって!! 気持ち悪いんだよ!!」


 瞬く間もなくマドゼラの懐に潜り込むリステル。

 ねじ込むように放たれたリステルの拳を短剣の腹を使って受け流し、今度はマドゼラが裏拳。

 リステルは、素早く上半身を反らしてそれをかわすと、そのままバック転をするように地面に手をつき、体を回転させながらかかとをマドゼラの顔に叩きつける。


「グッ――ハハッ、久しぶりだねぇ。ここまで強い拳闘士と戦うのはっ!」


 一撃を受けてもマドゼラの余裕は変わらない。

 それどころか、より覇気を増してリステルを蹴り返す。


「……」


 そんなマドゼラの反撃にも、リステルは淡々としていた。

 自分の蹴りの反動を利用して、リステルは素早く体を引いて回避する。

 その勢いを利用してバック転を何度か繰り返し、距離をとった。


「はて。おかしいですね。貴女ごときのレベルでは、今の一撃で事足りると思料いたしましたが」

「そりゃそうだろう。お前さん、ちゃんとアタイの装備の性能をわかっているかい?」

「……?」


 マドゼラの問いかけに、リステルは全くピンときていない様子で首を傾げる。

 するとマドゼラは、大きなため息をついて短剣を構えなおした。


「いくらなんでも驕りだね。ま、その年でそこまでの身のこなしを得られるなら仕方ないか」

「おや。この期に及んで私と対等を気取るおつもりですか。そちらの方が驕りでは」

「……」


 マドゼラの顔つきが変わる。

 だが、それはリステルの挑発への怒りではない。

 その表情は、リステルへの敬意すら感じるほどに真摯なものだった。


「お前さん、アタイに挑むってことがどういうことか分かっちゃいない」


 それでも、マドゼラの声から自信は失われていない。

 マドゼラはコートの下――腰の後ろあたりに手を伸ばした。

 そこから取り出したのは、黒い小型のボーガン。


「お前さんはね、今、盗賊団の親玉を相手にしているんだよ?」

「存じております。それがなにか?」

「分からないかい? フフフ……スネークショット!」


 そのボーガンに矢をセットし、放つ。

 だが、その矢はあさっての方向に飛んで行った。


「ん……?」


 自分とは全く異なる方向に飛んで行った矢を怪訝に見つめるリステル。

 すると、その矢は、途中で軌道をぐにゃりと変化させリステルの方に飛んできた。

 だが――


「どこを狙っているのですか? 大変失礼ながら、貴女は射撃のセンスがないのでは」


 その矢はリステルの足元付近の地面に突き刺さり、結局彼女の体を貫くことはなかった。

 リステルはその場から全く動いていないし、二人の距離はそれほど離れたものではない。

 ゆえに、リステルはあきれ返った表情をみせていた。


「『シャドウシャランガ』。かつて、ロイヤルガード一番隊隊長が愛用していた伝説の武器を知っているかい」

「は?」


 手に持った黒いボーガンを上にかざして、マドゼラが微笑する。

 余裕を見せつけるマドゼラに、不快感を露にするリステル。


「コイツの放った矢はね、一つ、特殊な力を得る。それは――」


 そう言いながらゆっくりと歩きだすマドゼラ。

 直後、リステルの表情が一気に強張った。


「影を撃ち抜かれると、動くことができなくなるのさ!!」

「っ……!?」


 殴打を頬に受け、リステルがわずかに呻く。

 あまりに大振りなそれは、本来であれば簡単に回避することができたものだっただろう。

 しかしリステルは体を動かさない――否、動かせない。


「……不勉強でした。そんな強力な武器が存在するなんて」


 ぐっと唇をかみしめるリステル。

 初めて見せた焦りの表情。それを見て、マドゼラが露骨に口角をあげた。


「そうかい。でも、もう遅いよ。お前さんは少々、調子にのりすぎた。まぁでも、ちゃんと代償を払えばチャラにしてやるよ。アタイをなめた代償は――」


 ボーガンを腰に戻し、今度は銃を手にするマドゼラ。

 艶々と輝く黒の拳銃をリステルの額に押し付けてほくそ笑む。



「お前さんの命さっ! くらいなっ! アルティマブラスト!!」

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