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395話 急成長

「え?」


 だが、カミーラが放った言葉はトワの心配とは対照的なものだった。

 怪訝な顔でカミーラを見上げるトワ。

 他方、カミーラは視線を反らすことなく二人の攻防を見続けたまま言葉を続ける。


「アイツ、クレスの視線と手甲の大きさを利用したのさ。死角になる位置でチャージすることで大技の発動を悟らせないようにした。……わざわざ攻撃を受けて、クレスの油断を誘ってね」

「え……?」


 意外――と言いたげに二人に視線を移すトワ。

 アイネが徐々に押し込まれてはいるものの、クレスは思い切った攻撃に出ていない。

 それが、先の大技を受けた心理的プレッシャーに基づくものであることは誰の目から見ても明らかだ。


「ククク、面白い。アイネとかいったか。レベルはまだまだ未熟だが、思った以上に策士じゃないか。それでいて大胆な戦法をとる。アタシ好みだねっ……!」




 †



「ラアアッ!」

「づっ……!?」


アイネの拳がクレスの手甲を撃つ。

 一歩、足を下がらせるクレス。


「ぐっ……はーっ……はーっ……」


 アイネの肩は上下に激しく揺れている。

 対するクレスは、息こそ少し切れてはいるものの、疲労感はまだ顔に出ていない。

 だが――追い詰められた表情をしているのはクレスの方だった。



 ――こいつ、この短期間でっ……!



「はーっ……はーっ……さ、さすが……強いっすね……でも、まだウチ、やれるっすよ? そんなんで、いいんすか……!」


 クレスの攻撃の手が止まったのを見て、アイネが不敵に笑いながら挑発する。


「ふん、何をしようと――! ラアアッ」

「くっ――」


 クレスの拳を拳で食い止めるアイネ。

 その動作は、まるで鏡合わせのように対照的になっていた。


「螺旋旋風脚!」


 アイネの足元から風が舞う。

 ふわりと浮かびあがるアイネ。


「ハッ、そこでその技は――」


 待っていたと言わんばかりにほほ笑むクレス。

 ――読み通り。そう宣言するかのように、クレスの拳は、アイネの蹴りの先に放たれていた。


「『迂闊』、でしょ! 分かってるっす!」

「なっ……」


 だが、クレスが狙った先にアイネの蹴りは来ない。

代わりに打ち込まれたのは裏拳だ。

 回し蹴りを放つ体勢から無理矢理体をひねってクレスの頬を狙った一撃。

 当然、さほど威力は出ないがクレスの不意をついたその一撃は、彼の体勢を大きく崩す。


「いよっ……」


 半ば地面に倒れそうになるアイネを螺旋旋風脚によって発生した風が支える。

 技としては、ほぼ不発のような形だが――好機はアイネの方にあった。



 ――この野良猫、確かに前より……!



 歯を食いしばるクレス。

 眉間に皺を寄せ、大振りに手甲を振るう。


「ふざけるなよ! この野良猫があああっ!!」

「えっ――?」


 一瞬、驚いた様子を見せるものの、アイネは軽やかにバック転をしてクレスの攻撃をかわす。

 それを確認すると、クレスは軽く舌打ちをした。


「……ここはサンダーブロウがくると思ったんすけどね。手加減してるんすか?」

「ハッ、うぬぼれるなよ野良猫。貴様ごとき、魔道具に頼らなくても勝てる」


 といかけてくるアイネに、吐き捨てるような言葉をかけるクレス。

 すると、アイネが若干眉をひそめて言葉を続けた。


「……頼るって。別に、そういうんじゃないっしょ」

「は?」


 気の抜けたような声を出すクレス。

 そんな彼にむかって、アイネは淡々と話し続ける。


「その魔道具を使いこなすのはクレスの力。ウチは、そう思ってるんすけどね」

「何が言いたい」

「だってほら、その……魔道具ってやつ? 簡単に使えるものじゃないっすよね。見てたら分かるっすよ。並大抵の努力で扱えるようなものじゃない」


 そう言いながら、クレスの手甲を指さすアイネ。

 目を細めて、クレスが問いかける。


「……ナメてるのか。お前は?」

「全然。むしろ尊敬してるんすよ」

「くそがっ――どこまでもムカつくヤツ……!」


 すると、クレスは、何を考えたのかいきなり手甲を外し始めた。

 目を丸くしてその様子をアイネが見つめていると、クレスが刺すような目つきでアイネを睨んだ。


「バカにするなよっ! 装備の差なんかなくたってな、オレが勝つことなんてできるんだよっ」

「……クレス」


 どこか憐れんだような表情を見せるアイネ。

 そんなアイネを見て、クレスは余計に顔を歪ませた。


「行くぞ、野良――」

「気功縛!」

「っ――!?」


 と、アイネが急に前に手をかざしたことで、クレスが一歩後ろに下がる。

 その瞬間――


「ラアアアッ」


 アイネの蹴りが、クレスの顔面を穿つ。

 ――フェイント。

 アイネは、なんのスキルも使っていない。

ハッタリで叫んだだけ。

 だが、そのハッタリでクレスは動きを封じられたのだ。


「貴様――ふざけやがってええええっ!」

「剛破発勁!」


 激昂するクレスの顎をアイネの掌底が押し上げる。


「ごっ――ぐっ……」


 青白い光が吸い込まれ――爆発音のような音が響く。

 大きくのけぞるクレス。


「おー! すっごい! アイネちゃん、押してるぞー!」

「黙れ羽虫! 余計な水をさすな!!」


 そう怒鳴りながら素早く体勢を立て直して裏拳。

 だがそれは、勢いが乗る前にアイネの腕で防がれる。


「……余裕、無いっすね」

「あぁ!?」


 それはアイネを威圧するつもりで放ったのだろう。

 だが、アイネが返すのは恐怖ではなく憐れの表情だ。


「クレス……カミーラさんの言う通りっす。やっぱりウチと、アンタは似てる」

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