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383話 意外な答え

「ラグナクアって……前に言ってた砂漠のことですよね?」


 相変わらず、アーロンの部屋は、完璧すぎるほどに整えられていた。

 座り込むのに恐縮してしまうほどピカピカに輝く床に置かれたいくつかのクッション。

 それに皆が座ったのを確認して、俺は改めてアーロンに問いかける。


「えぇ。皆が戦ったラーガルフリョウトルムリン……アレが昔、暴れてたところよ」


 日本にやっていた頃にやっていたあのゲームの世界は広く、レベル上げばかりしていた俺はその全ての世界観を知っているわけではない。

 それでも、ラーガルフリョウトルムリンとかいう、あんな気持ち悪い敵を見たら少なからずプレイヤーの間でも話題になっているはずだ。俺がやっていたゲームには未実装の敵と考えて良いだろう。

 やはり……結局のところ、俺はこの世界のことを殆ど知ることができていないのだ。


「それにね」


 と、アーロンが立ち上がり奥にある机の方に向かう。

 皆の視線が集まる中、アーロンは、ある物を持ってきた。


「それはっ――いつの間にっ!」


 それを見た時、思わず息を呑んだ。

 アーロンが差し出したのは、レシル達がよく使っている――あの黒いクリスタルだったからだ。


「あの後、ヴェロニカがいた場所にもう一回行ったのよ。スイちゃんと一緒にね」

「なっ……」


 驚いてスイを見ると、彼女は淡々と補足してくれた。


「アーロンさんの護衛でご一緒させていただきました。そこでそのクリスタルを見つけたんですよ」


 あっさりと言うスイに、言葉が詰まる。

 たしかにヴェロニカ達は、あの洞窟から逃げて行った。

 だが、もしも万が一、彼女達があの場に戻っていたら――


 俺が引きこもっていた間にも、彼女達はリスクを顧みず情報を集めていた。

 それが情けなくて――恥ずかしい。


 だが、今はそんな反省よりも、アーロンの言葉をきかなければ。

 そう思って視線を向けると、アーロンは一度頷いて言葉を続けた。


「私なりにアナライズした報告を言うと、このクリスタルにはラグナクア砂漠のものと思われる砂が付着していたわ。ヴェロニカは、少なくともラグナクア砂漠に行ったことがある――ということになるわね」


 差し出されたクリスタルを見ながら、スイが頷く。


「なるほど……もともとラーガルフリョウトルムリンの出現報告があったところとも一致しますね。これから先、彼女達の後を追うにも手がかりがないですし……となると、ラグナクアを調査する、というわけですか。……ただ」


 スイは、そこで言葉を切って、沈黙してしまう。

 怪訝に首を傾げるアーロン。


「あら、どうしたの。何かあるの?」

「いえ、何か具体的にあるというわけでは……ただ、ミハさんのことも少し気になっていまして……」


 ――やはり、スイも気にしてくれていた。

 ミハは、スイのために本気で怒ってくれた恩人であり、そして自分の妹達のために懸命に働いている優しい女の子だ。

 借金のこともそうだが、以前トラブルになった店主から嫌がらせとか受けていなければいいのだが――


「そっすよ。前にきいた借金の話し……全然解決できてないんすよね?」

「うん……ミハさんは私の恩人だし、それに妹さん達も……」


 と、そんなことを話していると、セナが怪訝な顔を見せてきた。


「んと、困っている人がいるのか?」

「そう……ですね。困っているとは思います。でも、私達に何ができるかといわれると……」


 そこで言葉を切って、俺を見てくるスイ。

 なんとなく、言いたいことはもう分かっている。


「リーダー、どうしましょうか。無策でミハさんのところに戻っても邪魔になるだけでしょうし……私としては、ラグナクアを調査した方がいいと思うのですが」

「……うん。そうだな。気がかりではあるけど……」


 カミーラに歯向かったことで、俺達が国からどう思われているのか、まだはっきりと分かっていない。

 そんな状況で下手に接触したらかえってミハに迷惑をかけることになる。

 ……毎度、後回しにしてしまっていることに後ろめたさはあるが仕方ないだろう。


「何か事情があるなら、ラグナクアの件は無理に優先することじゃないわよ。特に何か得られると決まっているわけじゃないし。別に調査隊を組むこともできるわ」

「調査隊ですか……」


 苦い表情を見せるスイ。

 その理由は、俺にもはっきりと分かる。


「カーデリーに行ったとき、俺達の前に先行した調査隊が全滅したみたいなんですよ。それに、あいつらに出会ったとしても、並大抵の実力じゃ……」

「……そうね。たしかに、言う通りだわ」


 俺の言いたいことを察したのか、悔しそうに眉をひそめるアーロン。

 レシル、ルイリ――そして、その二人の上にいるヴェロニカ。

 彼女達に勝つことができるのは、俺の知る限り俺一人だけだ。

 だとしたら、俺はこの問題に立ち向かわなければならない。


「後ろ髪はひかれますが……一応、ラグナクアの調査を優先しませんか。一応、あたってみたい人にも心当たりがありますよね」


 そんな俺の内心を代弁するかのように、スイがそう提案してきた。

 だが、心当たりとやらが思いつかない。

 すると、俺の内心を呼んできたのかスイが俺にむかって話しかけてくれた。


「あのラーガルフリョウトルムリンは召喚獣でした。召喚獣は、魔物の魂をクリスタルに封印したものです。そして、魔物の魂は、魔物を倒した時に得られることがある。……であれば」

「なるほど。そのラーガルフリョウトルムリンを倒したことのある人物――マドゼラ・ドルトレットに話しをきいてみるってことね。それは確かに貴方達じゃないとできなさそうね」


 アーロンの言葉に、スイがこくりと頷いた。


「まぁ、盗賊団のリーダーですから、そう簡単に見つかるとも思えませんけどね。ただ、エクツァーで情報の収集はできるかと」

「ふむ……」


 ――なるほど。

 そこまで具体的に方針が固まっているなら、やはりそちらをとるべきか。


「……よし。じゃあ次の目的地はラグナクア砂漠にしようか。皆はどう思う?」


 ここまできたら、形式的な質問にしかならないと思うが。

 皆の意思を改めて言葉にして集めることも大事だろう。


「私、お兄ちゃん、ついてく」

「あぁ。オレも」

「アハハッ、そんなのいちいちきくー?」


 俺と同じように思ってくれたのか、皆も即座に首を縦に振る。

 だが――



「……ウチはいかない」



 全く予想していない答えが一人だけ返ってきた。


「えっ――」


 声の主――アイネに、皆の視線が集まる。

 僅かに顔を強張らせて、それを受け止めるアイネ。


「ウチは、ここで別行動させてもらうっす」


 はっきりと答えるアイネの声に。

 しばらくの間、皆はなにも喋ることができていなかった。


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