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366話 狂気の猛攻

 ふと、ヴェロニカが強く唇をかみしめた。

アーロンの方へ振り返り、にらみつける。

 だが、アーロンも負けじと肩を回して不敵に笑い返す。


「あら、もしかして図星? 図星なの? だったら教えてあげてもいいわよ。この拳でね」

「……ウゼェ」


 一度舌打ちを挟んでからヴェロニカは金切り声を挙げる。


「やっぱ……そうね、テメェら、うざいわ。強い男に守られて、包まれて……うざい、うざいっ、うざいぃいいいいっ!!」


 頭を抱え込んだと思いきや、腰のあたりに手を当てて何かを取り出す仕草をする。

 ――何かをやるつもりだ。そう直感的に悟った皆の顔に緊張が走る。

 

「くそ気持ちわりぃムサマッチョがぁっ! しょんべんくせぇガキどもがぁっ!! テメェらが愛されるなんておかしいだろぉおおおっ! いつも、いつもいつもいつもっ! なんで他のヤツが愛されてるのっ! なんで恵まれてるのっ!!」


 若干涙声になりながら、ヴェロニカが叫ぶ。


「ヴェロちゃんが世界で一番可愛いのっ! ヴェロちゃんだけが愛されてればいいのっ! ヴェロちゃん以外が満たされて、幸せなのはおかしいのっ!!」

「――あわれね」


 そんなヴェロニカに、アーロンが諭すような声を放った。


「いい? 真の乙女というものはね、誰かに愛される前に、誰かを愛するものなのよ」

「あぁああああああっ!?」


 だが、それは逆効果だった。

 ヴェロニカは余計に怒り狂い、唾を吐き散らしながら怒鳴り続ける。


「うるせぇっ! テメェ、マジでうぜぇえっ!! ヴェロちゃん、絶対許さねぇっ!!」

「あっ……あれ……」


 ヴェロニカの手には、いつの間にか黒いクリスタルが握られていた。

 それに気づいたユミフィが、はっと息をのんだ瞬間――


「お前が話すな! お前が語るな! 言うな喋るな口を開くなっ!!」


 ヴェロニカの持っていた黒いクリスタルが光を放つ。

 その光はヴェロニカの体を覆い、鎧のような物体へ変化していった。


「乙女は私! 姫は私! 世界で一人、強き者に愛されるのはこの私っ! テメェみたいに醜くてっ! 穢れたおっさんが愛を口にするなんて、無理無理無理無理絶対無理っ!」


 光に包まれたヴェロニカの体が変形していく。

 蛇の尾に変化した尾が巨大化し、上半身は蒼い肌へと変化する。

 体のあちこちから吹き出るように触手が現れ、下半身は完全に人のシルエットを失った。


「可愛いのは私だけっ! 愛されるのは私だけっ! 綺麗なのは、素敵なのは、羨望されるのはこの私! ヴェロちゃんじゃなきゃだめっ、それ以外は認めないっ!」

「これは――」


 僅かに人と呼べるような箇所は上半身だけだが――その上半身も光が変化した禍々しい鎧によって殆どが隠されている。


「あぁ、魔王様、魔王様っ! 貴方の愛するヴェロニカが嘆いてます! 怒っていますっ! 貸して――力を貸してくださぃいいいいい」


 触手まみれのそれは、おそらく手だった部位だろう。

 それを上にかざしてヴェロニカが叫ぶ。


「じょ、冗談でしょ……いくらなんでも、今までとは違うんじゃない……?」


 トワのひきつった声に返事をする者は誰もいない。

 ――というか、できなかった。

 今、この異形から目を離すことが、どれだけの愚行か。

 それを直感できない程、この場にいる者は弱くはない。


「うふふふふふふ。ほーら、ほらほらほら、ほーら、ほらっ! ヴェロちゃん強い、ヴェロちゃん可愛いっ! ヴェロちゃんは絶対愛されてるっ!」

「うぐっ――これはっ!?」

「うわあああああっ、セナちゃん、助けてっ!」

「くそっ……」


 ヴェロニカの体から放たれる豪風。

 それに吹き飛ばされないように必死にトワがセナにつかまる。

 その横ではユミフィが弓を構え、矢を添えていたが――狙いがつけられない。

 アーロンもあまりに強烈に放たれる風に、体の動きを封じられていた。


「見せてあげるわ、教えてあげるわっ! 愛されるっってのはどういうことかをっ! 貴方達の命と引き換えに――ルナティックドライブッ!」


 ヴェロニカがそう叫んだ瞬間、彼女の触手が肥大化していった。


 ――殺される。


 全員が悟った。

 たしかに『彼』の薬の効果はまだ残っている。

 だが、それでも超えられない――圧倒的な力の差。


「くっ――なにこれっ!? ボクのマナが……跳ね返されるっ! やっぱだめっ、転移魔法が……」


 最後のあがきと言わんばかりにトワが腕を振りかざすも、転移の光は現れない。


「あっひゃっひゃはははははっ! あひゃうへ、うひょぇえええっ! ほらほら、貴方達にはいる? いるのかしら? いないわよね!? そうよ、貴方達に守ってくれる人はいない。王子様は助けにこないっ。だから貴方達は乙女じゃないっ、愛されてないっ!!」


 勝ち誇ったように高笑いを続けるヴェロニカ。

 そのまま、肥大化した多数の触手を振り下ろす。


「決まりよ、決まりっ! ヴェロちゃんの勝ちぃぃぃいいいいいいっ! とっとと死ねぇ、醜い男に、ザコの女ァアアアッ」



 ――だが。



「……俺は、王子様じゃないけどさ」

「あ?」


 結局、その触手は途中で全て動きを止める。

 ――というか、彼女の体から『切断』された。


「お、お兄ちゃんっ!」

「アハハ……遅いよ……リーダー君……」


 だが、そんなヴェロニカに生じた異常よりも。


「もう、やっぱ罪な男っ」

「さすが師匠……へへっ」


 トワが、ユミフィが、セナが、アーロンが。

 真っ先に目を奪われた存在がそこにあった。



「悪いな。もう――大丈夫だ」


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