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365話 愛(?)の力

「らんららーん、らんららーん」


 ゆらり、とヴェロニカの体が左右に揺れる。

 決して早くはない動き。

 ヴェロニカの体は陽炎のように揺らぎ、不気味な雰囲気を醸し出している。

 相手からの攻撃を誘うように、余裕の笑みで歌い始めるヴェロニカ。


「スパイラルカット!」


 セナの短剣は空を切る。

 特に反撃することもなく、ヴェロニカは歌い続ける。


「らーらーらららーん、らららららーん」

「ジェネレディレチェラ!」


 手に持った矢を一振りするユミフィ。

 その軌道に緑色の光が出現。枝のように分かれていく光がヴェロニカを襲う。


「ブラッディリフレクションッ!」


 その光を全て受け止めるヴェロニカ。

 体から血が吹き出す。


「えっ……?」


 あっさりと――というか、自ら攻撃を受け、しかも傷を負うヴェロニカを前に、セナは一瞬呆然としてしまった。

 しかし、その次の瞬間、ヴェロニカの体から出た血が黒い炎となってセナとユミフィを襲う。


「めいでんこーてぃんぐっ!」


 だが、ユミフィとセナは巨体の影に隠された。

 ヴェロニカに背を向け、炎からセナとユミフィをかばうアーロン。

 ほぼ裸体に近い上半身は、赤い光に包まれている。


「ふふっ……乙女の愛は、邪悪には屈しない。反撃の時よ」


 全ての炎を背中で受け止めると、アーロンは背中越しにヴェロニカを睨む。

 おそるおそるアーロンの顔を見上げるユミフィとセナ。


「ぷりてぃいいいいんぱくとぉおおおおお!」


 般若のごとく顔をしわくちゃにさせて、アーロンがジャンプする。

 足を振り上げ、体をひねり、遠心力を最大限にして。

 全体重を力をかかとに込めて、ヴェロニカの頭に打ち付ける。


「シャアアアッ!」


 そのアーロンの一撃をヴェロニカは両腕をクロスさせて真っ向から受け止めた。

 衝撃でヴェロニカの立つ地面に大きなヒビが入る。

 それどころか、洞窟の天井さえも強く揺れ、いくつか岩が落ちてきた。


「……強いっ……私達の力、倍以上にあがってるはずなのに」

「もともとがザコだからでしょぉーん。魔族の力、ナメてる?」


 着地するアーロンをヴェロニカがあざ笑う。

 だが――


「プータルウンバラ!」

「っ――」


 ヴェロニカの体を覆う黒いオーラ。

 セナの影から放たれたそれが、ヴェロニカの表情に苦悶の色を混ぜる。


「……ハハッ、その割には簡単につかめたな。ユミフィッ!」

「テアライアラ!」


 セナの呼びかけに答えるように、ユミフィがさっと手をあげる。

 直後、ヴェロニカの足元が盛り上がり、土が竜巻のように宙を舞った。

 ヴェロニカの体は押し上げられ、洞窟の天井に叩きつけらえる。


「ぢっ――」


 軽く舌打ちをするヴェロニカ。

 天井で受け身をとりつつ左腕を大きく振る。

 振り払われる黒いオーラ。

 ヴェロニカの蛇の尾に変化した足が、突き刺さるように地面に向かう。


「私も続くわ! いくわよっ! らぶ・さてぃすふぁくしょんっ!!」

「ちょっ――」


 そこに両腕を大きく広げたアーロンが突進する。

 ヴェロニカが着地すると同時に、思いっきり抱き着くアーロン。


「ぬぅううううううっ! 思い知りなさいっ! 全力で抱きしめてあげるわっ」

「うげぇええええっ!?」


 両腕をばたばたと振り回しもがくヴェロニカ。

 そんな彼女を見て、セナがぼそりと呟く。


「……いや、絶対アレ、別の意味で苦しんでるよな」

「アハハッ、セナちゃんって結構常識人だよねっ」

「はぁ……とりあえずもう一回やっとくか。プータル――」


 セナがそう言いながら腰を落とした瞬間だった。

 ヴェロニカが張り裂けるような声をあげ、アーロンを突き飛ばす。


「テメェ……気持ちわるい技、つかうんじゃねえぇえええええええっ!」

「うごっ――」

「アーロンッ!」


 アーロンの巨体が、質量を疑いたくなるほどに軽々しく飛ばされる。

 何バウンドもしながら壁に叩きつけられ、倒れこむアーロン。


「あー……本当にいらつくわ。特にお前。さっきから何なの、乙女って」


 唾を吐き捨てながら、ヴェロニカはそんなアーロンを蔑む。

 よろよろと立ち上がりながら、不敵にほほ笑むアーロン。


「ふ……ふふ……見て分からない? 私は乙女。愛に生きる存在よ」

「愛……ですって……?」


 その言葉をきいて、ヴェロニカがぴくりと眉を動かした。

 不快そうに顔をしかめながらアーロンを見つめる。


「愛に生きる乙女がこれで値を上げると思ったら大間違いよ。彼から貰った秘薬は、まだまだ効果を消してない。――感じるわ、彼のぬくもり、息遣いをっ!」

「……いや、それはないだろ」


 荒く鼻息を出すアーロンに、ぼそりとセナが呟く。

 するとユミフィがきょとんと首を傾げて口を挟んだ。


「そう? 私、感じる。お兄ちゃんの力、体の中……うずいて……んっ……」


 そう言いながらお腹に手をあてて、ぼーっと俯くユミフィ。

 トワが慌ててユミフィの頬をつつく。


「ちょっとユミフィちゃん、赤くなってる状況じゃないよっ!?」


 だが、そんなトワの注意喚起も虚しく、セナもユミフィと同じような表情を浮かべる。


「んー……まぁ、言われてみたらそうか? オレもなんか師匠が中にいるみたいで……」

「え、え? そうなの? ボクも飲んでみたかったなぁ、リーダー君のお薬~」

「――ふざけてるわけ?」


 そんな彼女達を前に、ヴェロニカがとてつもなく冷えた声をあげた。

 びくりと体を震わせて、三人がヴェロニカの方に振り返る。


「心外ね。私達は大真面目よ。私達は今、『彼』に守られている。貴方は誰かに愛されたことはないのかしら?」

「――っ!?」


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