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361話 結界を歩く

「……ねぇ、貴方はどうしてそんなに強いの?」

「は?」


 洞窟のような結界の中を歩ていると、背後からルイリが話しかけてきた。

 ふと、足を止めて振り返る。


「おかしいでしょ……その強さ。なんでヴェロニカ様にも勝てるのよ」


 抱きかかえるように鎌を持ちながら、俺のことを見つめてくるルイリ。

 その横で、じっとレシルも俺のことを見つめていた。


「今の状況は勝っていると言えるのかな。閉じ込められてるし……」

「でも……」


 視線を泳がせながらルイリが口ごもる。

 ――まぁ、言いたいことは分かる。少なくともステータスでは俺が圧倒していることはたしかだ。


「まったく……自分のことは話さないのに俺のことはきくのか」

「そうね……フェアじゃないわね……ごめんなさい……」


 しゅんと声をすぼませるルイリ。

 やけにしおらしい。それだけこの空間に飛ばされたことで絶望しているということか。

 さすがにそんな相手につんけんするほど、割り切れた態度をとれる精神は俺にはなかった。


「一応答えると、俺にもよく分からないんだよ。なんでこういう力があるのか」

「……どういうこと?」


 眉をひそめるレシル。


「いつの間にか手に入れた。本当にそうなんだ。信じるかどうかは任せるよ」

「なによそれ……ずるいわね。絶対嘘じゃない」

「本当なんだけどな。本当の俺は弱い人間だよ」

「嘘」


 はっきりと言い切るルイリ。

 大真面目な顔でそんなことを言うルイリに、少しだけおかしくなってしまった。


「はは、随分信用無いな。俺」

「だって……だって、強いじゃない……貴方は……こんな状況でも、諦めてない……」


 泣き出しそうな顔でルイリが俺のことを見つめてくる。

 少し胸が痛い。いったい何が彼女をそうさせるのか。

 全く得体のしれない彼女達に、そんな感情を持ってしまうのは自分が甘いせいなのだろうか。


「……そうかもな」


 ――久しぶりに、日本にいた時のことを思い出す。

 何も出来ず、しようともせず。ひたすらゲームで現実逃避してきた日々。

 その自分が俺の人生の殆どを構築してきた。


 ――でも。


 この世界に来て、皆が俺を認めてくれて、信頼してくれて、居場所も作ってくれて。

 そして、チートみたいなレベルが俺にはある。

 そんな俺が真っ先に諦めるというのは、そりゃおかしな話だろう。


「まぁいいや。それよりコアをちゃんと探せ。どっかに隠されてるかもしれないんだから」

「分かったわよ……」


 少し時間をとってしまった。

 状況が状況だ。俺は再び洞窟を歩き始める。


「ねぇ」


 だが、ものの一分も経たないうちに、ルイリが後ろから話しかけてきた。

 振り返るより前に、腕に手をかけられる。


「もし私が、貴方の仲間になりたいって言ったらどうする?」

「え――」


 ――何を言っている?


 そうきいてみたかったが、声が出てこなかった。

 ルイリの表情が真剣なものに見えたからだ。

 すぐさま、レシルの鋭い声が響く。


「ちょっとルイリ! 本気!?」

「嘘よ。でもきいてみるだけならいいじゃない」

「貴方ねぇっ――」


 ルイリの手を掴んで、俺から引き離すレシル。

 わざとらしく唇を尖らせてルイリが不満をアピールする。


 ――ったく、さっきまで泣いてたのになんて顔だよ……


 こうしてみると、二人はスイと同い年ぐらいの可愛い女の子だ。

 ……なんでこんなふうに敵対しなきゃいけないんだろう。


「別にいいよ」

「えっ――」


 気づけば、二人がきょとんとした顔で俺のことを見つめてきた。

 なんとなく口にした言葉だが――その表情を見ていると、まるで俺に期待しているように見えてくる。


「お前達が今まで何をしてきたか知らないけど。これからは俺達に協力してくれればそれでいい。でも、今までのことは正直に話してもらう。お前達が何でこんなことをしたのか、ヴェロニカのことも全てな」


 そんな二人の顔を見たせいか、自分でもびっくりするぐらい、すらすらとそんな言葉が出てきた。

 目を丸くしながら俺の言葉をきく二人。

 もしかして、今なら彼女達のことを知ることができるのではないだろうか。


「……今までもヴェロニカに、ああやってやられてたのか」

「そうね……ずっと、物心がついたときから」

「なんでそんなことをする?」

「それは――」

「ルイリ、止めて。こいつに頼ってどうするの。あたし達の今まで全部、否定する気?」


 だが、レシルの言葉でその希望は砕かれた。

 あと少しで彼女達のことを知ることができそうだったのだが――

 

「…………そうね。そうなるわ。それは嫌ね」


 どうやら今はまだ、彼女達との間にある壁を壊すことはできそうにない。

 ――まぁ、当然といえば当然なのだが。少し寂しい気もした。


「お前達が今までどういう事情を抱えてきたかしらないけどさ。それはそんなに大事なものなのか」


 ふと、二人が俺の言葉を理解しかねているのか、きょとんと首を傾げる。


「ヴェロニカのこととか、今までみたいに魔物を使って人間に脅威を与えたりとか。そういうことがお前達のやりたいことだったのか」

「なによ、説教するつもり?」

「違う。お前達のことを知りたいんだよ」


 全てを話してくれないにせよ、何か事情があって俺達と敵対せざるを得ないのら――

 仲間にはならないにせよ、せめて敵対することは止めてもいいのではないだろうか。


「……何よそれ、貴方、本気で私達に興味があるの?」

「あたしはお断りよ。誰があんたのハーレムに加わるもんですか」

「あのなぁ……そうじゃなくて」


 だが、そんな期待も、うまく二人にはぐらかされてしまう。

 ……だから、少し焦ってしまったのかもしれない。


「あんなにひどいことされて、なんでお前達はヴェロニカに従うんだよ。それがお前達のやりたいことなのか」

「随分と残酷なこときくのね」


 強い拒絶の意思のこもったレシルの声。

 まるで喉元に刃を突き付けられているかと錯覚するほどの鋭いそれに、俺は思わず喉を鳴らした。


「ねぇ、あんたさ。弱い人の気持ち――考えたことある?」

「え……」

「やりたいか、やりたくないか。そんなこと言えるのは――貴方が傲慢だからよ」

「っ……」


 意外だった。

 レシルの口からそんな言葉が出てくるとは。


 ――いや、待て。


 たしかレシルは最初であったときも似たよなことを言っていた。

 そう、たしか――エイミーの挑発に対して。



 †


『そうですよぉ。やりたいことをやれないなんて生きてる意味なんてないでしょぉ? ほんっと可哀そうなガキんちょですぅ』

『くだらない、くだらないわっ! 女の幸せ? やりたいこと? バッカじゃないの!?』


 †



 あの時も少し違和感があった。

 レシルは強い。俺の仲間の中で最強のレベルを誇るスイですらかなわないぐらいに。

 それだけの強さを持ちながら、エイミーの挑発に対して余裕がなさそうに反応するのは――



 もしかして。

 レシル達は、本当は――


「……そうか。ごめん」

「は?」


 と、レシルが気の抜けた表情を見せた。


「いや……ちょっと配慮が足りない言葉だったなって……」


 事情は全く分からない。

 だが、なんとなく察することはできる。

 それに――胸が痛かった。やりたかったことができなくて、やりたいこともみつからなくなって、苦しんでいた日本での記憶。

 それを自分が忘れて、しかも他人に指摘されるなんて。


「……なによ、気持ち悪いわね。なんでそこで謝るの」

「ふふっ、そうね。ほんと、意味わかんないわ」


 素直に謝ったせいだろうか。

 二人の表情が少しだけ柔らかいものに変化する。

 すると、ルイリがクスリと笑って俺に一歩歩み寄ってきた。



「ねぇ、貴方の仲間にはなれないけどさ、もし愛人にするなら、私ってありかしら?」


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