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359話 幽閉結界

「うっ――」


 視界が戻る。

 周囲を見渡す。

 特に異変は見当たらない。

 先ほどまでいた場所と特に何か変わったようなところはない。


 だが、ヴェロニカの姿がどこにもない。

 ラーガルフリョウトルムリンとの戦闘で生じた荒れ跡もきれいさっぱり消えている。



 ――まさか、転移させられたのか……?



 よくよく見れば、洞窟のような雰囲気は似ているものの、先ほどとは違う空間にいることは判別できた。


「あんた……馬鹿なの? 何やってるのよ……」


 ふと、背後から声が聞こえてきた。

 レシルだ。呆れた様子で俺のことを見つめている。

 その隣で、ルイリがぺたりと尻もちをつきながら顔を手で覆っていた。


「ここはどこだ?」

「うっ……ひっ、うぐっ……そんな……うぅ……」


 それは初めてきく、ルイリの弱気な声だった。

 恥ずかしがることもなく、ただひらすら泣きじゃくるルイリ。

 俺の存在などどうでも良いと思っているような投げやりな雰囲気だ。

 この状況では、ルイリに質問を投げかけても無意味だろう。

 俺は、レシルに視線を移し、彼女に向かって問い詰める。


「おい、どういうことだ。説明しろ」

「うっさいわね! あんたの都合で振り回さないでよっ!」

「俺の都合って……」


 どちらかというと俺の方が振り回されている気がするのだが。

 ここで口論なんかしても意味がないことぐらいは分かる。


「もうだめ……もう、私はだめ……やっぱ無駄だった……! 無駄だった! 結局何もできないままっ……」

「…………」


 何度も嗚咽しながら、泣きじゃくるルイリ。

 ――どうも、ただごとではなさそうだ。

 俺達は今、どういう状況にあるのだろう。


「おい、説明しろ。今俺達はどうなってるんだ」

「…………」


 そう問いかける俺に、レシルが一歩後ずさりをした。

 沈黙を貫くつもりか、俺と目を合わせようとしない。


「レシルッ! 今は敵対してる場合じゃないだろっ! お前達だってこのままじゃまずいんじゃないか。今起きてる状況ぐらい説明しろよっ!!」


 だが、それに付き合って俺まで無言になってしまっては埒が明かない。

 なんとか元の場所に戻らなければ。皆の安否だって心配だ。

 ふざけたヤツだが、ヴェロニカの強さは普通じゃない。レシルとルイリより強いのであれば、なおさら放置するわけにはいかない。


「……はぁ」


 そんな俺の内心を知ってかしらずか、レシルが大きくため息をついた。

 そのまま、諦めたように俯きながら話し続ける。


「あんた、フルト遺跡のこと覚えてる?」

「あ、あぁ……」


 フルト遺跡はレシルと初めて出会った場所だ。

 ついこの間のことだし――忘れるはずがない。


「ここはあれと似たようなところね」

「どういうことだ?」

「黒いクリスタル、見たことあるでしょ? ほら、あたし達が転移とかする時に使うやつ。マナクリスタルってあたし達は呼んでるんだけど」


 無言でうなずき答えると、レシルもうん、と小さく頷いた。


「あれには魔王様のマナがこめられているの。それを解放することで空間魔法が使えるようになるわ」

「それで転移してるってことか?」

「そうよ。でも、転移魔法は空間魔法の中では下位レベルの魔法ね。マナの消費は激しいけれど、マナクリスタルを持つ者なら魔族じゃなく誰でもできることよ。上位の魔族は、マナクリスタルを使って新しい『空間』をつくることができるの。あんた達と初めて会った場所も、魔王様のマナで作り出した空間よ」


 ……そういえば。

 フルト遺跡の中で、レシルと戦ったところだけやけに外観が真新しくなっていた記憶がある。

 新しい『空間』を作り出す――あながち、嘘をついているわけではなさそうだ。


「つまり、俺達が今いる場所は、ヴェロニカがマナクリスタルを使って作った空間だということか」

「そうよ。ヴェロニカ様はマナクリスタルを使って幽閉結界を作り出した。あたし達はそこに閉じ込められたの」

「幽閉結界?」

「その名の通りよ。魔王様のマナを借りて、対象者をその結界に閉じ込める。相手を生きたまま殺す――ヴェロニカ様の切り札」

「っ――」


 レシルの声はいつもより低く、冷たい。

 声こそ発しているものの、その瞳からは光が失われているように見えた。

 どうやら、本当に諦めきっているらしい。


「出る方法は無いのか?」

「ま、あんたなら出られるかもしれないわ」


 俺の問いかけに、レシルがおもむろに壁を指さす。


「その壁、殴ってみたら? 貴方の力しだいで、この結界は壊せるかもしれない」


 ――おかしい。


 彼女の言い方にはなんとなく違和感がある。

 ここから出られる方法があるのなら、何故、こんなにも彼女達は悲壮感をあらわにしているのか。


「……お前達はどうなる?」

「どうなるって?」

「魔王のマナで特別に作り出した空間を無理矢理壊したら、お前達は無事ですまない――そんなこと、さっきいってたよな」

「そうね。マナ崩壊の衝撃で死ぬんじゃないかしら……でも、それが貴方に関係あるの?」

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