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356話 金切り声

 その行動は全く読めていなかった。

 手に持った鞭を使い、急に攻撃をしかけるヴェロニカ。

 その対象は、俺ではなく――レシルとルイリだったから。


「うがっ――」

「――!?」


 二人は、その鞭を避けようともしない。

 無抵抗の少女二人に、ヴェロニカの鞭が刺さるように叩きつけられる。

 あまりに唐突な、そしてあまりにも執拗なその攻撃に、俺は一瞬我を失った。


「お、おいっ! ちょっとまてよっ!」

「っ――!?」


 だが、いつまでも呆然としているわけにはいかない。

 すぐに気を取り直して、俺は二人の前に移動する。

 ヴェロニカの鞭をつかみ、そのまま彼女の腕をおさえこんだ。

 もがくように追撃をしかけようとするヴェロニカの肩を突き飛ばして、レシルとルイリからヴェロニカを離す。


「ちょっと! なにしてくれてんのよ!! なんでテメェがコイツらをかばうわけぇ!???」

「いやいやいやっ! お前こそ何してんだよっ! この二人はお前の仲間なんだろ!?」

「仲間? ふざけないで! こいつらは私の糧よ! ストレスは美容の敵! 即発散、即霧散! これが鉄則なの! だったら私にぶっ殺されても、ニコニコ笑うべきでしょお!?」


 支離滅裂な言葉を吐きながらヴェロニカがもう一度鞭をかまえる。

 そのまま俺ではなく、二人の方に走ろうとするヴェロニカ。



 ――なんだこいつ?



 何故、ヴェロニカは俺を攻撃せずに二人を攻撃しているのか。

 もう何を考えているのか俺にはさっぱり分からない。


「だから止めろって!」

「おげぇえええっ!」


 もう一度ヴェロニカの肩をつかんで突き飛ばす。

 そこまでやるつもりはなかったのだが――ヴェロニカは体勢を崩し顔を思いっきり地面に叩きつけてしまった。


「……何? なんで貴方が二人をかばうの?」

「っ……」


 地面と擦れたせいだろうか。

 ヴェロニカの化粧が少しだけはがれている。

 それを見て、改めて確信した。



 ――こいつ、人間じゃない……



 ヒビが入ったような不気味な鱗。それがヴェロニカの顔にいくつもある。

 どうやら、あの派手な化粧はこれを隠していたようだ。


「逆におれがきかせろっ! なんでお前が二人を襲うんだよっ!」

「さっきも言ったでしょ! ストレスはお肌の天敵! だから――はっ! そうか! だから貴方は邪魔をするのねっ!!」

「いや、だから――」

「きぃぃぃぃいいいいいいいっ! 卑怯! 卑怯すぎるわ!! いくらなんでもそれはひどい! 敵だからって、さすがにそれはラインを超えているわっ!! なんて卑怯なのっ! 猛烈、卑劣、心に亀裂!! 貴方に心ってものはないわけぇええええ!?」

「っ……」


 思わず耳を塞ぐ。

 金切り声とはこういうことか。

 頭の内側を直接ハンマーで殴られているかのような不快感だ。


「はぁーっ……はぁーっ……まぁいいわ。ヴェロちゃん、細かいことは気にしないタイプだから。だってヴェロちゃん、優しいもん――ねっ!」

「うぐっ……」


 と、俺が隙を見せたせいだろうか。

 再びヴェロニカが二人に向かって鞭を振るい始めた。


 ――狂ってる……


 どうせなら俺の方を攻撃すればいいのに、何をやっているのだろうか。

 というか、何故そこまで二人に対して憎悪に満ちた表情を向けられるのだろうか。


「おっ、おい! 大丈夫かっ!」


 さすがに見ていられない。

 二人の顔の皮膚が鞭で抉れていくのを黙って見続けていられるほど、俺は割り切れた性格の持ち主ではない。

 半ば考えずに、俺はレシルとルイリを両脇に抱え、一気にヴェロニカから距離をとった。


「えっ――」


 俺がそのように動いたことを、数秒おいて三人が理解する。

 三人が唖然としている間に、俺はレシルとルイリを地面におろし、ヒールをかけた。


 ――こいつらの傷、アイツがやったのか……


 どおりで、不自然な傷が残っているわけだ。

 今までのことはともかく、この状況に限れば二人は完全な被害者だ。

 であれば、ヒールぐらいかけてあげてもいいだろう。

 この二人に戦う気はないみたいだし。


「……どういうこと? なんで貴方が、この子達を癒すの?」


 と、背中の方からヴェロニカが静かに声をあげた。

 ヴェロニカの冷たい声が不気味に響く。


「もしかして……ねぇ、レシル、ルイリ? 貴方達、裏切ったの?」

「っ――!? 違いますっ! 私、私はっ!」

「ひっ――」


 顔の前に手をかざし、目をぎゅっとつむるレシルとルイリ。

 ほぼ同時のタイミングで、背後からヴェロニカの鞭が飛んでくる。


「なるほどな。事情は分からないけど、とりあえず察したよ……」


 それを手の甲で弾いて、俺はヴェロニカの方に振り返った。

 ピンクの髪を激しく振り回しながら、ヴェロニカが狂ったように叫びだす。


「なんで――なんで止めるのよっ! つーか――さっきから、なんでなのっ! なんで私の鞭を止められるのよっ!!」

「そりゃ、お前の鞭が遅いからだよ」


 ――嘘だ。


 ヴェロニカの動きは、今まで見てきた誰よりも早く、鋭かった。

 いくらレシルとルイリが無抵抗だとはいっても、何のスキルも使わず、ただ鞭を振り回すだけで、あんなに無惨な傷を二人につけられるなんて――


 間違いない。この女の強さは尋常ではない。

 少なくとも、今まで敵対してきた者の中では最強格と断言できる。



「ヴェロニカって言ったな。まずは――」



 ――だが。

 それでも、俺には圧倒的なレベルがある。

 だから、恐れることはない。



「その金切り声、静めさせてもらうぞ」


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