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353話 レシルとルイリ

「ふぅ……これで最後ね」


 洞窟の入り口にいたゲテモノ達を沈め、中にいたゲテモノも粉砕し、撃ち殺す。

 そんなことを繰り返していたアーロンとユミフィがすっと肩をおろしたのは、洞窟に入ってから十分程が経過したころだった。


「お兄ちゃん、ほら。私、倒せた」


 そう言いながら俺のことを見上げてくるユミフィ。

 その顔はいつもの無表情に近いものに戻っていたが、褒めて欲しいと訴えかけているのがはっきりと分かる瞳。

 実際、俺は松明を持っているだけで殆ど何もしなかったし、俺が気持ち悪がっているのを察してユミフィは倒した魔物の死骸が視界に入らないようにしてくれていた。

 そのことで大きく助けられたのは事実だし、俺はユミフィの頭を撫でてお礼を言う。


「あ、あぁ……ありがとう、助かったよ」

「ん……顔色、悪い? 大丈夫……?」


 少し声が震えてしまっていたせいだろうか。

 ユミフィが心配そうに俺のことを見上げてくる。


「いや、本当に助かった。大丈夫だよ」

「そう? ……ん」


 それでも頭を撫で続けていると、ユミフィは気持ちよさそうに目を細めてきた。

 ……横でセナがジト目になっている気がするが、とりあえず気づかないふりをしておこう。


「ほーら、先に進むわよ。まだまだ私の乙女モードは終わらないわ。もし隠れている敵がいたら愛の押し売り、しちゃうわよ……!」


 そんな俺達を置いて、アーロンが肩を回しながら歩き出す。

 魔物の体液や血を周囲に飛ばし、足もとにある魔物の死骸を蹴り飛ばしながら先にすすんでいくアーロン。

 そのあまりに豪快な歩き方は――どうみても乙女のそれではないのだが。異世界ファンタジーの世界ではこれは乙女の歩き方なのだろう。多分。


「――まって」


 と、その瞬間、ユミフィが張り詰めた声を上げる。


「ん、どうした。ユミフィ」

「……この先、誰かいる。それに、マナが……変?」


 少し首を傾げて指先を唇に当てるユミフィ。

 同時に、セナも俺に対して目配せをしてきた。

 俺のシャツの内側からトワが首を出し、声をあげる。


「誰かって……まさか――」

「あら、察しがいいわね」


 それを遮ったのは、俺達が何度かきいたことのある声だった。

 少し高飛車な感じで、それでいてどこか愛らしく――そして恐ろしい声。

 声のする方に振り返ると、大剣を背負った少女と、大鎌を掲げた少女がいた。


「あんらぁ! なんてかわいい子たちなの! ちょっと、知り合いなわけ?」


 その二人――レシルとルイリに真っ先に反応したのはアーロンだった。

 両手を胸の前で握り、ぴょんぴょんと跳びあがりながら、二人の方に近づいていく。


「……うふふ。私、貴方達にちょっとききたいことがあるのよね。ちょっとお時間、いいかしら?」

「え、嘘……貴方、こういう人が趣味なの?」


 そんなアーロンを見て、二人は呆れた視線を俺に向けてきた。


「な、なんだよそれっ!」

「だってあんたの仲間って女ばっかでしょ。いくら性欲まみれの男とはいえこんなのにまで手を出すなんて……ほんとあんたって、なんでもいいわけ?」

「おい! 変な誤解をするな!!」


 そう叫んではみたものの――スイ、アイネ、トワ、ユミフィ、セナ……俺の仲間は皆、本当に可愛らしい美少女ばかりだ。

 我ながら説得力はないだろう。



 ――いや、でもやっぱりアーロンは違うって分かるだろ!



「いいかしら? 貴方が、レシルとルイリってことでいいのよね?」


 そんな俺の心の訴えなど知る由もなく、アーロンがニタニタと笑いながら二人に問いかける。

 その薄気味悪さを感じる邪悪な笑顔に――いや、これがアーロンの普段の笑顔だからアーロンには悪いのだが。

 ともかく、そんなアーロンの表情を見て、レシルが一歩後ずさりをした。


「ん……そうだけど。やる気なわけ?」


 あのレシルが警戒している――?

 いや、単純に嫌悪感を示しているだけか。顔を見ればわかる。

 アーロンは良い人なのだが、つくづくこういうところがもったいなぁと思ってしまう。


「そっちの態度次第ではね。彼らから話しはきいているから」


 ウィンクをしながら俺をちらりと見るアーロン。

 とりあえず、なんとなく、気まぐれでアーロンと目を合わせたくなかったので、俺は真っ直ぐレシル達を見つめていた。


「私の愛するトーラに何かしたというのなら……貴方達、乙女として失格よ。罰として愛の拳を浴びせないといけないわ」


 そう言いながら拳で投げキッスを行うアーロン。


 ……正直、ドン引きだ。

 でもなぜか妙に迫力がある。

数秒後には、アーロンは二人を殺してしまうのではないかと思ってしまうほどの。


「ふーん……」


 レベルという意味では、まず間違いなくアーロンは二人には勝てないだろう。

 だが、その独特の雰囲気に二人は押されているようだった。

 戸惑いの表情を隠せないまま、レシルは言葉を続ける。


「……別にそれに付き合ってあげてもいいけど。やめとくわ。私達じゃ勝てないのは知ってるし」

「あら意外。往生際がいいのね」

「調子に乗らないで。貴方はただの雑魚よ」


 舌打ちをしながら、レシルはアーロンを睨む。

 だが、それも一瞬のこと。すぐにレシルは体を別方向に向けてすたすたと歩きだした。


「ちょっと! どこに行くつもり! 私のラブリーおしおきタイムは始まってすらないのよ!」

「別に逃げないわよ。話が早くなるからついてきて」


 大きくため息をつきながら、ルイリがレシルに続いて歩き出す。

 そんな二人を見て、トワが俺の服から飛び出し、俺の顔を覗き込んできた。


「ねぇリーダー君、大丈夫かなぁ。罠じゃない?」

「その可能性はあるけど……前みたいに転移の罠をしかけるなら、不意打ちのタイミングはあったよな」

「たしかに………でも師匠、気を付けた方がいいぜ」


 歩き出そうとした俺の前に、セナが腕を差し出して止めてきた。

 それに続くように、ユミフィも俺のコートの裾をひく。


「何か、ある。前の時みたいな……」

「ここ――ファルルドの森だっけ。あんまよくきこえないんだよ。森の声が。だから多分……前と同じで『魔』がこの先にいるんじゃ……」


 警戒するような声を出すセナに、ルイリが自嘲気味に笑いながら振り返る。


「『魔』……ね。貴方達がそう呼ぶのって、バジリスクディスペイアーのことかしら」


 バジリスクディスペイアー――ジャークロットの聖域で俺が戦った魔物のことだ。

 だがあの時、俺だけがルイリに転移されて別の場所にいた。皆がピンときている様子はない。

 そんな空気を察したのか、レシルが小さくため息をついて言葉を続ける。


「貴方達が何を『魔』と呼んでるかしらないけど……いるわよ。この先にも、強力な魔物が。……失敗作ではあるけどね」

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