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340話 リーダーの素質

「なるほど……」


 なんとなく分かる。

 俺には何故自分がスキルを使えて、何故スイがスキル使えないのか、その理由が全く分からない。

 自分の感覚もスイに伝えらず、スイの感覚も理解できない。

 そんな俺には――いくらレベルが高くてもスイにものを教えられるような能力は無いということだ。


 ……気づけば俺は、歯を食いしばっていた。


「なんかアインベルさん、師匠っぽいこというね!」

「おい、トワッ……」


 と、そんな空気を全く読まず、トワがおちゃらけた様子で笑い始めた。

 割と真剣に話してくれた相手に失礼ではないか――そんなことを考え、おそるおそるアインベルの方を見る。


「ナッハハハハハ! そうであろう。ワシも弟子を持つ身として、そこは頭を悩ませているところよ」

「…………」


 もっとも、それは杞憂だったようだ。

 豪快に笑うアインベルに、胸をなでおろす。

 と、そんな時、アインベルがぐいっと自分の顔を俺に近づけてきた。


「……だが、な。仮にそんなことができなかったとしても、お前に師匠としての資質が無かったとしても……ワシにはお前に、スイの――いや、あのパーティのリーダーになる資質があるとみている」

「……どういうことですか?」

「ナッハハハ、ワシを信用していないのか?」


 そう笑いながら肩を叩いてくるアインベル。

 意味が分からず呆けていると、アインベルはぎゅっと、俺の二の腕を掴んできた。


「感覚の言語化とはいったが――それよりももっと、大事なことがある。それはな、過程を見てやることだ」

「過程……?」

「結果が出ない。人と比べて劣っている。そんな悩みを受け止め、見守ること。どんな結果であっても、最後に受け止めてもらえる者がいる。そんな安心感を与えてやることが、上に立つ者の務めだとワシは思う。それさえあれば、少なくとも自分で立ち上がる気は起きるだろうからな。……お前にはそれが出来ている。まるで、才無き者の苦しみを知っているかのように」


 ……驚いた。

 まるで過去の俺を知っているかのような言いぶりに。

 過去に、俺が何を求めていたかを見透かしたかのような言葉に。


 アインベルは俺が日本にいた時のことを知らない。

 だからこそ、その言葉が強く俺の中に響いてきた。


「スイもワシの娘みたいなもんだし、できればその役はワシが担ってやりたかったが……まぁ、アイネも含めて、その役はお前に任せるとしよう。それが彼女達にとっての幸せだろうからな」


 そんな俺の内心を知ってかしらずか、アインベルが頭を撫でまわしてきた。

 がくん、とテーブルに突っ伏しそうになるほどの力。

 だが、そんなことよりもアインベルの言葉の方に、俺は揺さぶられていた。


「……勉強になります。人にものを教えるのって、やっぱり難しいんですね……」

「ナッハハハ。お前さんは、もう少し気楽に構えた方がいいかもな。その方がスイも、アイネも喜ぶだろう」

「アハハ、そうかもね。リーダー君はすぐに考えすぎるから」

「うむ。そもそもスキルの習得なんぞ、そう簡単にできるものではないのだ。たかが数日てこずるぐらい、むしろ普通だ。そんなに焦る必要はないのだと言ってやれ」


 そう言いながらカラカラと笑う二人。

 スイが焦っているように見えるのはレシルという敵が出てきたせいだろうが――それを言っても仕方ないか。

 たしかに二人の言う通り、スイやアイネは俺が考え込んでいる姿を見るのは嫌がりそうだ。

 気分を変えるため、俺は目の前の食事に手を伸ばした。


「それはさておき――だ。どうなんだ? アイネは。その……アレの方は」

「アレ?」

「大事なことだろう。つまりその……床上手かどうかと聞いておる」

「ぶっふぉっ!?」


 丁度、物に口を含んだその直後にとんできた質問に、むせ返りそうになる。

 なんとか落ち着いて咀嚼をし、飲み込んだ後、俺は裏返った声で返事をした。


「な、なに言ってるんですか!? この真昼間に!」

「それについては俺達も気になっていたところだ」


 ……と。いつの間にこんなことになっていたのだろう。

 俺の周りには、トーラギルドでよく見る冒険者達がずらりと並んでいた。


「よぅ新入り。お前もひょっこり帰ってくるんだな。ところでスイとはデキたのか?」

「結局両方に行くんだよな! アイネだけじゃないよな! その答えによって今週ただ飯が食えるかどうかが変わるんだがっ!!」

「つーかお前、増えてね? 嫁が増えてね? なになに、お前そんなキャラだったっけ」


 ――あ、これ割とめんどくさいやつ?


 むさくるしいおっさん達の視線が、一点に俺に向かって集中している。

 ふと、それを見たトワは慌てた様子で上に向かって飛んで行った。


「アハハ、リーダー君人気者だねー。ボクは邪魔みたいだから消えるねー」

「お、ちょい待て! トワッ!!」


 俺の言葉など耳に入っていないかのように、トワは金色の鱗粉を飛ばして姿を消す。

 後に残されたのは上に伸ばした俺の腕だけだ。


「ほれ、どうなんだ! アイネは……ちゃんとできているのか!?」

「何馬鹿なこと言ってるんですかっ!」

「何を言う! 大事なことではないか!! お前も男だろうっ!」


 鬼気迫った表情で俺の両肩をつかんでくるアインベル。

 そのままゆさゆさと体を前後に揺さぶられた。


「あのかわいこアイネちゃんが女になってる様子が……想像ができねぇ! 大丈夫なのかっ!?」

「大丈夫もなにも、だから俺は――あばばば」


 頭がぐらぐらと揺れているせいで舌をかみそうだ。

 あまりうまく喋れそうにない。


「あいつも14だからなぁ……もう成年するというのに、そういう相手というかな……経験というか、知識というか……教えてやる機会が無くてな……ワシは心配なのだっ!」

「不要ですっ! その心配は不要ですって!! 俺だって別に……」


 アインベルの両手を掴んで動きを止める。

 だが、すぐに周囲の男が肩に手を回してきて追撃を仕掛けてきた。


「なんだ新入り。お前もしかして、まだアイネとヤッてないのか!?」

「まぁまぁまぁまぁ。いいか、よくきけ。猫の獣人族の女はな。実は喉よりも――腹の方が弱いのだ……こうっ!」

「うわぁあっ!?」


 何が悲しくてこんなことになっているのか。

 アインベルに腹を愛撫され、反射的に声が出る。

 そのとてつもなくいやらしい手つきは、恐怖を感じるほどに全身に鳥肌を立たせてきた。


「「「ふぅぉ~~~~う!」」」


 そんな俺の様子を見たせいだろうか。

 周囲の男達が奇妙な声をあげて盛り上がっている。

 そんな周囲の様子を見て、何故かアインベルは嬉しそうにしながらさらに俺に向かって手を伸ばしてきた。


「いいか新入り。こうだ……こう撫でてみろ。絶対に……悦ぶっ!! ワシの経験談だ。アイネもアイツの娘なのだ。絶対に通じる! 必ず……盗めっ!!」

「ぶはっ!? ちょっ、くすぐった……あははははっ!!」

「「「ふぅぉ~~~う!!!」」」


 泥酔しているのかと疑う程に訳の分からないテンションで舞い上がるおっさん達によって、何か大事なものを失った気がした。


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