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337話 特訓!

 外側から内側に、円を描くように撫でてくる手は、容赦なく俺に鳥肌を立たせてきた。


「おっ……おい、スイ?」

「あ、もう一度お願いできますか?」

「い、いやいや……皆っ!」


 当然だが、スイは自分のやっていることの異常性に気づいていない。

 そこで俺は他の皆に周囲を移すものの――


「何やってるのリーダー君。早くやってあげなよ」

「そっすよ。とりあえず先輩が我に返るまでは淡々と続けてほしいっす。その方が面白いし」

「はは……師匠も男だなぁ。あ、別にオレは軽蔑したりしないから。気にしなくていいぞ」

「おいっ!」


 助け舟は全く期待できそうにない。

 我が体の正中線にある紳士の象徴たるクリティカルポインツは無事だが、この様子ではいつ絶対障壁が突破されてもおかしくないのではなかろうか。

 そんな俺の葛藤などいざ知らず、スイは淡々と言葉を投げかけてくる。


「リーダー? もう一度お願いできますか? 多分、ここの力の入れ方が分かれば……」


 そう言いながらお腹を撫でまわしてくるスイ。

 もうなんかくすぐったくて気持ちよくて色々訳が分からなくなってきた。


「あー、もうっ! ソードイグニッションッ! ――うおっ!?」

「ひゃっ!?」


 半ば咄嗟にスキルを使ったせいだろう。

 うまく制御がきかず、剣先が地面に触れた瞬間、そこに巨大な穴ができた。

 僅かな時間をおいて吹き出るように炎が渦を巻いて発生する。

 剣の衝撃で揺れる地面、炎で掻き出される土。霧のごとく周囲を包み込む大量の煙。


 ――やりすぎた……


 後悔の念を感じたまま唖然とすること一分弱。

 ソードイグニッションによる炎や煙がおさまり、なんとか周囲の景色が見えるようになってきたころ、スイがとたんに大声をあげた。


「……凄い。やっぱり、リーダーは凄いです! ソードイグニッション……極めればこんなに威力が出るんですねっ!」

「アハハッ、ほらほら! もうまごうことなき荒野じゃん! こりゃアインベルに怒られるねーっ」

「うっ……やっぱまずいか……これ……」


 今の一撃で、訓練場の地形はもはや原型をとどめていない。

 小さな焼け野原と化した訓練場。嫌な汗が背中を流れる。


「…………」


 と、呆然と目の前の光景を眺めていると、前方からユミフィが俺にしがみついてきた。


「……ん、どうした? ユミフィ」

「ずるい。スイばっか。なんで、だっこ?」

「え?」


 背中から聞こえる頓狂なスイの声。

 数秒の間を置いて、スイが悲鳴のような声をあげる。


「ひょわーっ!? ごめんなさいっ、リーダーッ!」

「うおっ!?」

「ひゃ――」


 その瞬間、半ばスイに突き飛ばされるような形で背中を押された。

 目の前のユミフィをかばうようにななめに倒れこむと、スイが手を伸ばして俺の体を支えようとする。

 だが、自分で突き飛ばしたこともあって反応が遅れたスイにそれができるはずもなく――俺達は三人で仲良く訓練場の地面に突っ伏すことになった。


「あ、わわ……ち、違うんです。えっと、これは……これはですね……」

「む。スイ、痛い。そんなに寝ながらだっこ、したい?」

「ち、ちがーっ!?」


 上半身を起こして、スイがビシリと指を突き立てる。


「か……勘違いしないでくださいっ! わ、私、別にそういうつもりでやってたわけじゃないんです! リーダーの体が気になってたからやってただけで――違うっ! 言葉が変ですっ! そういう意味じゃなくて――」

「落ち着けスイ! な、なんか腕踏んで――いだだだだだ」

「別にだっことか、そういうことがしたかったわけじゃないんですっ! ただ、貴方がどうやって体を使ってたのか気になっただけで……貴方のこと、そんな目で全然見てなかったですからっ! 本当なんですっ!!」

「んなこといいながらリーダーから離れないじゃないっすか。せーんぱい」

「いっ!」


 からかうようなアイネの声とともに、右腕に重みを感じた。

 見えたのは俺の腕に抱き着くような形で倒れこむアイネの姿。

 俺の体を挟んで反対方向にいるスイが、思いっきり声を裏返らせる。


「ちょっ、アイネ!! ずるっ――じゃなくて、何やってんの!?」

「んー、なんかウチも疲れたし。先輩ばっかくっついているのはずるいっしょー」

「ん。私、疲れた。休む」

「こ、ここじゃなくたっていいだろうっ! おいっ!!」


 俺の上に寝そべるユミフィを払おうとするが――少し力を入れただけで吹き飛んでしまいそうな小さくて柔らかい体に対する不安がそれを止めさせる。

 ……いや、まぁたしかに、三人の体の感触が心地いいってのもあるんだけれども。

 そんな俺の葛藤を見透かしたかのように、セナがしゃがんで俺の顔をのぞきこんできた。


「そーんなこといって。師匠ってもしかして……ていうか、やっぱり女好き……?」

「ち、違う! セナッ、見れば分かるだろっ!」

「分かるよー。両手塞がれて、上からユミフィにだっこされて。そんで、顔真っ赤にして嬉しがってるスケベ男の顔がな」


 いーっ、と口を結びながらクスクスと笑うセナ。


 ――コイツ、キャラが読めねぇっ……!


「んあーっ! 違うっ! 俺は――」

「だから私はっ! 別にだっことかそういうのじゃなくて真面目にスキル習得のために――」

「うごっ――」


 スイの声とともに視界が完全にふさがった。

 顔の上に乗っかるのは、妙に甘い匂いのする柔らかいもので――


 ――あ、これもしかしてスイの……


「アハハハハハッ、もうこの状態だと説得力ないからさ。どうせなら皆でだっこしようよ! ということでボクも混ぜてー!」

「だからだっことかじゃなくて私は――きゃああああっ!? リーダーッ、どこに顔つっこんでるんですかっ!!」

「た、助け――セナッ! たす……」

「やーなこった。オレは先に帰ってるからさ、あんまり遅くなるなよー」

「セナァアアアアアッ」


 なんとか絞りだした必死の叫びもむなしく。

 セナが遠のいていく足音が、淡々と俺の耳に届いてくるのであった。


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