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333話 アイネの母親

 トーラギルドでは、薬草は樽に詰められ倉庫に保管されている。

 大量の薬草を見ると物資不足とは到底思えない気がするが――まぁ、1日、2日ですぐに底をつくという話しではなかったし、そのようなものなのだろう。

 その中から一つの樽を持ち出して、再びアインベルの部屋へ移動。

 俺達がそれをしている間に、アーロンはいくつものポーション瓶をテーブルの上に並べてくれていた。



 ――なんか、失敗できそうにない雰囲気だな……



 皆が向けてくる期待に満ちた表情にプレッシャーを感じながら、俺は樽から一つの薬草を取り出した。


「ファーマシー」


 ファーマシーは調薬師の基本スキルだ。

 薬草とポーション瓶を基本の材料としてポーションを作成する。

 ゲームではチュイーンという効果音と共にポーション瓶の絵が頭の上に出てくるエフェクトだったが……


「あっ、なんか薬草が……」

「これが調薬師のスキルっすか! ウチ、初めて見たっすよ!」


 どうやらこの世界では、魔法と違ってゲームのような見た目にはならないらしい。

 俺がスキル名を詠唱すると、手に持っていた薬草が淡く光始める。

 そしてそれが宙に浮き始め、くるくると回転しはじめたと思ったら今度は薬草の形が崩れていく。


「おぉ、これは……!」

「凄いわね……」


 皆がやや緊張した面持ちで薬草を見つめているのが分かる。

 妙な緊張感の中、じっと形の崩れた薬草を見つめていると、それはいくつもの水玉に変化していった。

 そして、その水は吸い込まれるようにポーション瓶の中に入っていく。


「……すごい綺麗な水だな。これがポーションってやつか?」


 宙に浮いていた水が全てポーション瓶の中に吸い込まれた後、セナがため息まじりにそう言った。

 セナの言う通り、ポーションの中には透明な水が入っている。

 ゲームでは、ポーションには色がついていたのだが――これは成功したといえるのか?

 不安になってきたので鍛冶師のスキルであるアイテムアナライズを使ってみることにする。


「……やっぱりポーション……みたいだな。体力の回復効果はちゃんとあると思う」


 そう俺が言うと、アーロンが怪訝な顔を見せる。


「みたいって……本当なの? ちょっと飲ませて――っ!?」


 と、アーロンはポーション瓶に軽く口をつけた瞬間、一気にそれを離した。


「なっ……なにこれ!? 体力が削られてなくても分かるわっ! コレ、とんでもないポーションじゃないっ!」

「とんでもないって……つまりどういう?」


 そう言いつつも、スイは半ば察したように苦笑いを浮かべている。

 俺も良く分からないが説明するより実際に使ってみてくれた方が、説得力があるだろう。

 もう一回ファーマシーを使ってポーションを作り、スイにそれを手渡す。


「っ……なるほど。素人でも分かりますね。明らかに普通のポーションじゃありません。ものすごい力が湧いてくるのが分かる……」

「そっか。よかったよ。初めて作ったから不安だったんだ」

「初めて……ふむ……」


 と、アインベルが難しい顔で腕を組んだ。

 次々に出来上がっていくポーション。

 その一つに手を伸ばすと、アインベルは目を見開いた。


「しかし見事な調薬スキルだな……ここまでのものはアイラでさえ……」

「……アイラ?」


 ふと、唐突に聞こえてきたその名に、俺は特に考えず半ば反射的に問いかける。

 するとアインベルはやや眉をひそめてきた。


「ん、あぁ……そんなヤツが昔にいてな。このギルドの調薬師をやっていたのだ……」


 俺を見ているようで、別のところを見ているような複雑な眼。

 その意味を理解しかねていると、アインベルは唐突にアーロンの方へ視線を移した。


「あぁそうだアーロン。明日は陽の日だったろう。状況が状況だ。結界の確認をしにいくぞ」

「あっ、そうだったわね。頼んでおいて悪いけど……ここら辺の薬草、できる限りポーションにしちゃってくれないかしら」

「えぇ。いいですよ。任せてください」

「悪いわねっ!」


 そう言いながらウィンクをすると、アーロンはアインベルと一緒に部屋の外に出て行ってしまった。

 急に取り残された俺達の周りを、唖然とした空気が包み込む。


「……なんか、微妙な顔してたな。変なこと言っちゃったか?」


 特に意識はしていなかったのだが。

 どこか逃げるように部屋を出て行った二人を見ると、やはり気まずさを感じてしまう。

 そんな俺に、アイネが苦々しく笑いながら声をかけてきた。


「別にそんなことないっすよ。ただ――」


 と、アイネはそこで言葉を詰まらせてしまう。

 一瞬の沈黙の後、アイネはにぱっと笑って言葉を続けた。


「ううん、リーダーは全然悪くないっす。全然気にすることないっすよ」

「な、なになにその言い方! すごく気になるから言ってよっ!」

「お、おいおい……」


 飛び回りながらアイネにくってかかるトワの前に、手をかざす。

 どうも興味本位でつっこんでいい話しではなさそうだが――こういうところで、トワは相変わらず空気を読めない。


「アイラは……ウチの母ちゃんの名前っす。先輩がトーラに来たぐらいの時に死んじゃったんすよ。病気で」


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