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326話 戻ってきて

「おぉ、神っ! よくぞお戻りくださいましたっ!! そして――ありがとうございますっ!」

「「「ありがとうございますっ!!」」」


 俺がルイリと戦った場所を皆で軽く見た後、俺達はトワの転移魔法でガルガンデュールに戻ってきた。

 昨日も来た大広場。そこにたどり着くと真っ先にむさ苦しいドワーフの男達の雄叫びのような感謝の言葉が出迎えてくれた。

 それを代表して、ブルックが俺達に向かって深く頭を下げる。


「先ほど、わたくしめの方で結界の強さが回復しているのを確認いたしました。これも全ては神のおかげでございますっ!」

「「「おかげでございますっ!」」」

「我らがドワーフ、全ての者が神のご活躍に感謝と、感激と、敬服の意を禁じえませぬっ! ここは是非――」

「神っ! 神っ! 神っ!」

「神いいいいいいいい」


 こちらが何か返事をする前に新たな言葉が耳を貫く。

 昨日も見た、踊り狂うドワーフ達の舞い。

 それに皆が苦笑いを浮かべていると、セナが呆れた様子でブルックに向かって話しかけた。


「……まーた、うるさいことやって。ひかれてるのが分からないのかよ」

「セナッ! 貴様も感謝せよっ。神々の働きに同行させて頂く経験を今生でさせていただいたのだ。これがいかに――」

「分かった。分かったって!」


 詰め寄るブルックをセナが両手で押しかえす。

 そんな彼女に助け船を出すかのように、スイがブルックに向かって話しかけた。


「……でもブルックさん。セナさんの力は本物ですよ。彼女は本当に私達を助けてくれました」

「おぉ! ありがたきお言葉っ! 何をしているセナッ! 貴様も誇り高きドワーフの戦士を名乗るなら、頂いた配慮の言葉に対し地に頭を伏せ神の威光を――」

「いやいやいや! そんなの大丈夫っすから! ほんとにっ!!」


 セナの頭を無理矢理下げようとするブルックの手をアイネが掴む。


「そうですね……皆さんのお気持ちは嬉しいのですが、ちょっと休みたいかもしれませんね……」

「むおっ!? これはこれは配慮が足りず申し訳がございませぬっ! では神々が心置きなく静寂と安寧をお楽しみ頂けるように手配しますぞっ! 皆の者っ! 神々を案内するぞっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「神っ! 神っ! 神っ!」

「神っ! 神っ! 神っ!」


 ……と。静寂と安寧を楽しませる気があるとは全く思えないようなむさ苦しい男達の行進に、俺達は顔を合わせ、ただただ苦笑し続けるしかなかった。




 †




「うーっ! 皆、お疲れ様ーっ!!」


 昨日、寝泊まりした部屋に戻るや否や、トワはぐっと背伸びをした。

 アイネとユミフィもつられたようにリラックスした仕草をしはじめると、スイがそれをたしなめるように張り付いた声を出す。


「お疲れさまです。それで、これからのことなのですが」

「もうその話題っすか!? トーラに戻ることは決まってるし、ちょっと休んでてもいいんじゃ……」

「それはそうなんだけど……前のゴールデンセンチピードみたいなこともあるし。やっぱり師匠達が心配だよ……」

「ぅ……」


 スイがそう言うと、不満げに唇を尖らせたアイネも言葉を詰まらせてしまう。

 若干の沈黙が流れた後、居心地が悪そうにしていたセナがゆっくりと声をあげた。


「……もしかして皆は、またレシルみたいなやつと戦うつもりなのか?」


 その問いかけに、スイ達はしばしの沈黙を置いた後に答える。


「そうですね……私達ではまだリーダーに頼らないとダメそうですけど、もしかしたら戦うかもしれません……」

「ウチの故郷っすからね……頑張らないといけないっす」

「…………」


 暗く、重い沈黙が再び訪れる。

 レシルは強い。それこそ、頑張ってなんとかなるようなものではないのだ。

 この沈黙は、皆がその事実をはっきりと認識していることの証明だ。


「……あの、さ。オレも力になれないかな」

「え?」


 そんな沈黙の中で、セナがさっと手をあげた。

 皆の視線がセナに集まる。


「師匠は――皆は、オレの故郷を助けてくれた。皆が困ってるなら、オレも力になりたいっ」


 その発言はなんとなく予想していたし、皆も多分そうだったのだろう。

 驚いた反応はそれほど強くなく、皆が黙ってセナに続きを促す。


「最後の感覚……あれがあれば、多分足手まといにはならないと思うんだっ! だから……!」

「セナがそう言ってくれるなら私は断る理由がありません。トーラに戻るとして私達はファルルドの森の中へ行くのですから……重要な戦力としてむしろ来てほしいぐらいですよ」

「ほ、本当かっ!」


 ぱっと明るくなるセナの顔。

 それに水をさしたくはないが、俺は彼女に気になったことをきいてみることにした。


「そういえば森の加護って、違う森に行くと力の内容が変わったりするのか?」


 セナの森の加護が素晴らしい性能を有していたとして、ファルルドの森でしかそれを発揮できないというのであれば話しは別だ。


「んー……オレはなんとも……こっから出たことなんてないし……」

「心配ない。マナ、違っても、具現化の方法、同じ。森あれば、できる」

「ふむ……」


 ユミフィは俺達に会うまで、たった一人で逃げ続けていた。

 その彼女が、ここまできっぱりと答えるのだからその点についてはあまり心配しなくてもよさそうだが――


「やっぱり転移のこと考えてるっすか?」


 アイネが心配そうに俺の顔をのぞきこんでくる。

 彼女のいうとおり、俺はそのことが気になってしかたがなかった。

 フルト遺跡に続いて二度目のレシル達との戦闘――今回も運よく俺が介入することができたが、こんな綱渡りなんてそうなんどもしたくない。

 と、そんなことを考えているとトワがらしくもなく表情を曇らせた。


「そうだよね……ボク、今回何もできなかったし……」

「そんなことはない。トワのおかげで帰りも楽だったしな」


 そう言ってフォローするとトワがきょとんとした顔になった。

 少しの間を置いて、トワが照れくさそうに笑顔を返してくる。

 そんな中、スイがぼそりと呟いてきた。


「そもそも、レシルが言うには空間に魔王のマナを作用させたから空間魔法が使えなかったということですが……魔王っていったい……」

「うーん……それは全然分からないっすけど。相手側もこっちの分断対策をさらに対策してるってことはたしかっすよね……」

「私達が森の聖域に来るのが分かっていた……? んー……」


 ふと、考え込む仕草をしていたスイだったが、急にはっと目を見開いた。


「って、すいません。脱線させちゃいましたね。話しを戻しましょうか。リーダー」


 スイの視線に俺は頷いて答える。


「セナ、俺達についてくる気があるってことでいいんだよな?」

「あぁ。師匠から――それに皆からも。いろいろ学びたいことがあるんだ」

「心の底からそう思ってくれてるのか?」


 すぐに首を縦に振るセナ。

 ……問うまでもなく、顔を見れば分かる。

 セナは本気だ。


「分かった。じゃあセナ。ブルックさんと話しにいこう」


 であれば、ここだけで話していても仕方がない。

 皆は、一瞬きょとんとしていたがすぐに頷き、俺についてきた。

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