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321話 レシル再び

「ハアアアアアアアッ!」

「やあああああああっ!」


 最初に森の聖域の空気を震わせたのは覇気のこもったスイとレシルの声だった。

 互いに一直線に相手に向かい、その剣をぶつけ合う。

 反動で弾け合う二人。スイの方が大きく後ろに飛ばされる。

 一度、足を地面につけた後にバック転。勢いを殺して剣を構えなおすスイ。

 レシルも、足を一歩下げて大剣を掴みなおした。


「ウイレンチャファルームッ!」


 その隙を、ユミフィが突く。

 緑の光を纏い、剣に形を変えた矢をレシルの肩に突き刺した。


「っ……!」


 だが黒金の鎧は貫けない。

 不適に笑うレシル。


「ふーん、少しは出来るじゃない。クソガキ!」

「ヒートストライクッ!」

「っ!?」


 反撃を仕掛けようとしたレシルに、スイが赤く輝く剣を叩きつける。

 とっさに大剣の柄で受け流すも、レシルの体勢が崩れた。


「サロインペトゥム!」


 そこに襲い掛かるのはユミフィの剣だ。

 残像を発生させる程の高速の突きが、一瞬の間で何十も行われる。


「ぐっ――なにこのガキッ! 剣士なわけっ!?」


 レシルが驚くのも無理はない。片手には弓、背中に矢筒をしょいこみ、いかにも前衛で戦うには不向きそうなゴスロリドレスを着た少女が、急に剣を振りかざしてきたのだから。

 大剣のような小回りの利かない武器では、ユミフィの攻撃を全て防ぐことはできない。

 バックステップをしながら回避を試みるも、ユミフィの剣がたしかにレシルの頬を切る。


「……やっぱり、声、きこえない……でも、ここのマナ、まだ死んでいないっ! 森のマナ、使えるっ!!」


 自分を鼓舞するように強く言い放ち、ユミフィが背中の矢筒に手を伸ばす。


「イーチェサジータッ!」


 放たれた一本の矢が地面に刺さった瞬間、その中心に青い魔法陣が展開された。

 その中心から、大量の氷の礫がレシルに向かって放たれる。


「このっ……」


 大剣を前にかざし、顔をその陰に隠す。

 防戦に回るレシルを見て、セナが感嘆のため息を漏らした。


「凄い……あんな小さい子が……」

「ウチも驚いたっすよ。森の加護を使ったあの子は、マジで先輩並なんじゃないっすかね……でも、ウチも何もできないわけじゃないっすよ」


 拳と足、そして胸の辺りに青白い光を纏うアイネ。

 全ての錬気をかけ終えた彼女がふっと笑うと、トワが思い出したように手を叩いた。


「あ……もしかして、アイネちゃん達、昨日遅かったのって――」

「さぁ、ウチも戦わないとっ! トワちゃん、もし転移魔法が使えるようになったら、その時はお願いっ!」

「あっ! うんっ!!」



「このっ――調子に乗るなあああっ!」



 剣を振り払い、レシルが叫ぶ。

 いくつも襲い掛かる氷の礫をまともに受けつつも、その突進の勢いは殺せない。


「させませんっ――!」


 しかし、すぐさまスイがユミフィの前に立ちふさがった。

 ユミフィが剣を握りなおしている間に、スイが地面に剣を叩きつける。


「ブレイズラッシュ!」


 スイとレシルの間に炎の壁が出現する。


「ちっ……小賢しいっ!」


 瞬時にそれに反応し、レシルが大きく跳躍する。

 数メートルに伸びた炎の壁の上をとり、大剣を振り上げた。


「ジェネレディラチェラ!」

「なっ――」


 その瞬間、ユミフィの鋭い声が響く。

 レシルが見たのは剣を一振りしたユミフィの姿。

 その軌道が緑色に輝き、その場所から大量の枝のようなものが現れた光景。

 そしてそれにブレイズラッシュが着火して――


「うそっ――!?」


 ブレイズラッシュの炎の勢いが増した。

 急激に伸びてきた炎に、レシルの体が押し戻される。

 着地をしようと空中で体勢を変えようともがくものの――


「気功弾っ!」

「ぐっ!?」


 その体を、青白い光が貫いた。

 防御力を無視する拳闘士のスキルは、レシルの顔に僅かながらも苦痛の色を浮かび上がらせた。

 うまく着地ができず体を地面に叩きつけるレシル。


「このっ……随分ナメた真似してくれるわねっ!」


 大剣を地面に突き付けながら立ち上がるレシル。

 炎の壁の勢いが弱まり、互いの姿が確認できるようになった。


「私達、練習、したっ! 戦えるの、お兄ちゃんだけ、違うっ!」

「一人で勝てないなら――皆で勝ちますっ! 貴方にっ!!」

「あんまナメない方がいいっすよ!!」

「このっ――」


 歯を食いしばるようにレシルがスイ達を睨む。

 アイネの気功弾が命中したころに軽く手を当てて武器を構えなおすレシル。


「フォースピアーシングッ!」


 そこを、スイに狙われた。

 自分の気力を剣に乗せ直線状に放出することで、例え離れた相手でも貫く剣技。

 青白い光が一直線に自分の心臓に向かってくる中、レシルは大きく息を吸った。


「ふーん……なるほどね。前回とは連携の質が全然違うわ。随分、信頼しあっているのね……」


 ため込んだ息を、一気に吐く。

 その光が自分の胸に到達する瞬間、レシルは不敵にほほ笑んだ。


「でも残念。あんた達、個人個人が弱すぎるのよっ!!」

「っ――!」


 大剣を前にかざし、フォースピアーシングを真っ向から受け止める。

 そしてそのまま腰を落とし――


「ソードアサルトッ!」

「えっ――!?」

「させないっ!!」


 レシルの大剣がユミフィを襲う。

 それを寸前で食い止めたのはスイの剣だった。

 一瞬で詰められた距離。あまりの速さに、ユミフィとアイネが唖然と目を見開いた。


「うぅっ――あ、貴方は……何故っ!」

「あ?」


 腕を刃に添えて体全体を使いレシルの大剣を食い止めるスイ。

 他方、レシルは片手を空けていた。

 その空いた手に注意を向けながら、スイが時間稼ぎに口を開く。


「貴方は何故、こんなことをっ!」

「ふんっ――!」

「きゃっ!」


 スイの体を襲ったのはレシルの手ではなく足だった。

 横腹を抉られるように蹴られ、スイが横に倒れこむ。

 追撃の剣を振り上げるレシル。

 それにユミフィとアイネが反応しようとした瞬間――



「スイッ! くそっ、オレも――スパイラルカット!」



 セナが風を纏った短剣をレシルに向かって突いた。

 しかし、それはいとも簡単にレシルに躱され――


「ひっこんでろ、雑魚っ!!」

「ぐあっ!!?」


 カウンターの回し蹴りが完璧なまでにセナの頭部に決まった。

 顔から地面に叩きつけられ、ワンバウンドしながらセナが後方へ吹っ飛ばされていく。


「セナッ! 貴方は出口にっ! こ、ここは三人で抑え込みますっ!」

「頼むっす!」


 瞬時の攻防で壊滅的な打撃を与えるレシルの圧倒的な体術。

 それをスイとアイネは知っていた。

 だが、それを初めてみたセナは動揺を隠せなかった。


 ――なんだこの強さ……師匠と同じくらい……?


「セナちゃん。ここは三人に任せてっ! リーダー君と合流できる方法、考えようっ!」

「あ、あぁ……」


 トワに言われて、セナはハッと息をのむ。

 そして、三人の背中を見つめながら。

 セナは頭からこぼれる血を拭いて、ぎりりと歯をかみしめた。



 ――クソッ、やっぱりオレは足でまといかっ……!



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