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316話 露骨な演技

 森の聖域――すなわち、さっき俺達の目の前にそびえ立っていた巨大樹の中へと入ってきた俺達は、その光景を見るや否や息をのむ。


「わぁ、綺麗……」


 ぼそりと聞こえてくるトワの声。

 眼前に広がるのはたくさんの蒼い光の粒子。

 周囲には管のように張り巡らされている薄緑に輝くたくさんのツル。


「凄いですね……私達、木の中に入ってきたと思ったのですが」


 そう言いながら、スイが感嘆のため息を漏らす。

 木の中というかウロの中というべきか。

 どちらにせよ、この広々とした空間の景色には圧倒されてしまう。



「そうね。さすが、この森の中で一番長く生きただけのことはあるわ」



 そんな時だった。

 聞きなれない少女の声が俺達の耳に飛び込んできたのは。


「っ!?」


 俺がその声の方向に振り向いた時には、既にスイが剣を抜いてその主を睨みつけていた。

 その先に居たのは見たことのない少女。

 皮のようなつやのある素材をしたノースリーブの服。背中からは翼のような形をした羽飾りが飛び出しており、腕には肘まである刺々しい装飾のついたグローブ。

 おかっぱのような髪型をしているが、首の後ろから一つに結ばれた髪が胸の方に伸びているのをみると、結構髪は長そうだ。


「あらら。私達、初対面のはずだけど。なんでこんなに睨まれているの?」


 少し眉を八の字に曲げて少女は悲しそうにほほ笑む。

 するとアイネは耳と尾を立てながら、ビシリと指を彼女に突き付けた。


「って! んな物騒な武器持ってたら誰だって警戒するっすよ!」

「あら、そう? ごめんなさい。私、世間知らずで」


 くすりと笑い手元を見る少女。

 ……そう、その少女は身の丈を超えるような巨大な鎌を持っていたのだ。

 この幻想的な空間の中には似合わない、禍々しく紫に塗られた刃。


「お前っ! なんでここにいるっ! ここは森の聖域――ドワーフ以外が入れない場所だぞっ!」


 セナが声を荒げると、少女はからかうように笑いはじめる。


「ふふっ、そうなの? じゃあ私、ドワーフなのかしら」

「ふざけるなっ!」

「そんなに怒らなくていいじゃない。随分好戦的なのね」


 落ち着いて、と言いたげに片手を前に出す少女。

 特に戦意を感じさせるような仕草では無かったが――この場にいる全員、緊張を解く様子は全く見せない。


「……単調直入にききます。貴方、レシルの仲間ですか?」

「レシル? 誰それ。そんな人知らないわ。私はただの通りすがりよ」

「見え透いたことをっ!」


 セナが短剣を少女の方向に突くように向ける。

 だが、少女は動じた様子を見せず淡々と言葉を続けた。


「本当よ。私はただの冒険者。ただ、偶然貴方達を見かけて……なんか面白そうなことしてるから後からついてきたのよ」

「後からボク達に? なんでそんなことするのさ」

「決まってるでしょう。好奇心よ。冒険者なら、誰だって気になるでしょ。特に貴方達みたいに、とんでもない召喚獣を連れているパーティの行方とか、ね?」


 そう言って少女は俺の方にウインクを投げてきた。

 ……正直、可愛い。あざといと分かっていながら、ちょっぴり胸が高鳴ってしまうのは悲しき男の性というべきか。

 そんな俺の内心を見抜いたかのように、少女はくすりと笑うと一歩、足を前に出した。


「ね。何かここ、面白いところとかあるの? よかったら私も連れて行ってくれない? それなりに戦力になるわよ」

「無理だよ。そんなの」


 ――だが。

 不意にあげられた冷たい声に、少女の足が止まる。


「何かしようとしてるでしょ。こっちに来て」

「トワ……?」

「ボクには分かるよ。君の悪意。だからそれ以上――『こっちにこないで』」


 ――忘れかけていた。

 トワが時折見せる、この異常に冷たい目を。

 恐ろしく強い拒絶の意思は、強い声と鋭い表情にこれでもかという程にのせられている。

 そんな彼女に、少女も表情を冷たくしながら問いかける。


「……えっと、どういうことかしら?」

「こっちが聞きたいくらいだよ。ボク達に、何するつもり?」

「おかしいわね……私をうさん臭く感じるのは分かるけど、そこまではっきり認定をされるような行為をしたかしら?」

「行為じゃないよ。においだよ。ね、リーダー君」


 まっすぐと俺の方を見つめてくるトワ。


「……あぁ。分かってる。こいつは敵だな」

「…………」


 一度頷いて少女の方を睨むと、彼女は小さくため息をついた。


「まぁ、仕方ないわね。もともと、そんなにうまくいくとも思ってなかったし……」


 そう言って鎌を握り、口元を上げる。


「っ!?」


金の双眸が、不気味に輝く。

 もとより怪しい雰囲気を放っていた彼女だが――

 いざ、明確に敵意を表に出されると、緊張が体にはしってしまう。

 

 だが。それでも。

 馬鹿正直に前口上に付き合わなければならないほど、体が動かせないわけでもない。


「そこまで完全に読み切ってるなら、これ以上の茶番は無用ね。多分だけど、貴方達がここにやってきた原因は私にあると思うから」

「やっぱり、貴方はレシルの――」

「ハァッ!」


 スイが何かを問いかけようとする前に。

 この女が何か不穏なことをする前に。

 俺は少女に向けて一直線にかけていく。

 そして拳を振り上げて――


「……あら。意外にけんかっ早いのね。予想外だけど、助かったわ」

「なっ――!?」


 少女の腹に拳を打ち込もうとしたその瞬間。

 俺は少女の手に、黒いクリスタルが握られていることに気が付いた。

 そして――


「特別な貴方には特別な場所を案内するわ。デートなんて初めてだから楽しめるかどうか分からないけど……ふふっ、よろしくね?」


 目の前を包む白い光。

 すぐに気づく。これは転移の光だと。



「リーダーッ!」

「まずっ――リーダー君っ!」



 だが、それに対してどうすればいいか――俺は全く分からなかった。


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