314話 セナとグリフォン
ガルガンデュールを出てしばらくした後。
俺は頃合いを見て、絆の聖杯を使いセナをパーティに入れた後、召喚獣を召喚した。
スレイプニル、ディーヴァペガサス、キンググリフォン――セナ達に会う前に俺達が乗っていた召喚獣だ。
「これが召喚術か……へー……」
呼び出した召喚獣を、おそるおそると言った感じで見渡すセナ。
しばらくすると、セナは一匹の召喚獣に視線を固定した。
「やっぱり……このグリフォン、普通のグリフォンじゃないよな」
キンググリフォンに近づき、セナが感嘆した様子でため息をつく。
そんな彼女に、アイネが体を傾けて声をかけた。
「あれ、セナさんはグリフォンさんのこと知ってるんすか?」
それを聞くと、セナはくすりと笑って答える。
「セナでいいよ。神様を前に言葉を正さなきゃいけないのはオレの方かもしれないけど、あんまそういうの慣れてなくてさ。許してくれ」
「むぅ。だからウチらは神様じゃないっすよー」
「はは、悪い悪い」
手のひらをパタパタと振って、セナはキンググリフォンの顔を見つめる。
「話しを戻すと、グリフォンと会ったことはないよ。でも、ドワーフとグリフォンは、昔は友好的な関係を築いていたらしいんだ」
「そういえば森の守護神とか、皆さん言ってましたよね」
スイの声に、セナはこくりと頷く。
「あぁ。本当に森の守護神なのかは知らないけど……でも、改めて見るとそう信じても仕方ないかな……」
「まぁたしかに。リーダーの召喚獣は規格外なのばかりですからね……」
「うん。大きな竜、出せる」
「竜!?」
ユミフィの言葉をきいて、セナが目を丸くした。
そのまま俺の方にゆっくりと視線を移し、ひきつった顔で言葉を続ける。。
「……オレさ、神だ神だって崇めるのは違うとは思うけど……でも師匠は本当に神様かもしれないって思ってるよ」
「いや、そんなこと……」
尊敬されているのか、ひかれているのか分からない複雑な表情を前に、思わず視線をそらしてしまう。
すると、トワがそんな俺をからかうように笑いながら声をあげた。
「アハハッ、でもその神様はムカデとかワームが苦手なんだよっ」
「え、そうなのか?」
「あぁ……まぁ少なくとも好きじゃないよ。気持ち悪いだろ……」
「へぇ、師匠が……」
じろじろと俺のことを見つめてくるセナ。
まるで珍しいものを見つけた子供のようなその視線に居心地の悪さを感じていると、丁度よいタイミングでアイネが話しかけてきた。
「えっと……今更なんだけど、ちょっときいてもいいっすか?」
「ん、なんだ?」
半ばすがるような気持ちでアイネの方に振り返る。
だが――
「リーダーが師匠ってのは……えっと、リーダー、いつの間にそんなに仲が進展してたんすか?」
「たしかに……その、リーダーに弟子入りされたってこと……?」
半目になりながら俺のことを見つめてくる二人。
……どうも状況はかえって悪くなっているようだ。
「いや……、そんなたいそうなことは教えてないよ。いくつかスキルを教えただけだって」
「たいそうなことだよっ! 師匠はオレの可能性を見つけてくれたんだっ! ホント……感謝してるぜっ!」
「っ!??」
しかも最悪なことに、顔を赤らめながら手を握ってくる青髪の少女が追い打ちをかけてきた。
アイネが露骨にため息をつく。
「……まーたライバルの登場っすかぁ。はぁー……」
「いっ、いや! 別に何もないからっ! ほんとに何もないからっ!」
「えー、なんか怪しいなぁ」
「トワッ! お前は一緒にいただろっ!」
「あれ、そうだっけーっへへへ」
意地悪く笑うトワ。
そんな彼女を前に、歯をくいしばることしかできずにいると、さすがにセナも察したのか苦笑いを浮かべて話しかけてきた。
「それにしても師匠達はこれからこの……?」
「あ、あぁ……そうだな。スイはペガサスに、俺はスレイプニルに乗るとして……ユミ――」
「シルヴィはスレイプニルですか? でもアイネ、大丈夫?」
「あ……あぁ、そうだな。うん……」
さりげなくだが、瞬時に言葉を遮られ思い出す。
セナは大丈夫そうな気がするが――まぁ、正直スイ達との間でそこまで信頼関係を築けているわけでもないのだ。
万が一のこともあるし、ユミフィがエルフだということは名前も含めて隠しておいた方がいいだろう。
「あ、あれ? なんかオレのこと、見てる……?」
と、そういった思考をよぎらせていると、セナの怪訝な声が耳に入ってきた。
見ると、あのキンググリフォンがセナに向かって頭を下げているような体勢をとっている。
「おっ、グリフォンさん。今日は素直じゃないっすか。やっとウチの――」
だがアイネが近づくと、キンググリフォンはプイとそっぽを向いてしまった。
その露骨な態度の違いに、アイネは不満そうに頬を膨らませる。
「キンググリフォンが……セナを認めたということでしょうか?」
「いや、俺もなにがなんなのか……」
ドワーフは昔、グリフォンと友好的な関係を築いていたとセナは言っていたが――それが関係しているのだろうか。
スイの言う通り、キンググリフォンはセナに対してどこか敬意のこもった視線を送っている気がする。
「でも大丈夫っすか? セナ、グリフォンさんに乗るのは初めてっすよね?」
「あ、あぁ……こういう生き物に乗るってのは、無かったな……」
少し怖そうにキンググリフォンに触れるセナ。
対するキンググリフォンは、特に抵抗することもなく、むしろ自分に乗ることを促すように首を振る。
セナがごくり、と喉をならす。
「ライディングスキルが無い二人を一緒に乗せるのは少し危険かもしれません。リーダー、ここはリ――」
「いよっと」
「リ……リーダーと一緒にって言おうとしたのですが……」
自分の杞憂を恥ずかしがるように苦笑するスイ。
アイネの時のように嫌がる素振りを全く見せず、キンググリフォンは静かにセナを乗せ、佇んでいる。
「うわ……なんか不思議な感覚がする……グリフォンがオレの体の一部になったような……」
「……セナ。もしかして、ライディングを習得しているのか?」
「ライディング?」
俺の問いかけに、セナは全くピンときてない表情で首を傾げる。
クラスのことも知らないぐらいだ。当然と言えば当然だろう。
「えー、なんかずるいっすよぉ。なんでセナは会ったばかりなのにグリフォンさんに好かれてるんすかー」
「好かれているのか? オレが? なんで?」
「そんなのウチが知る訳ないっす! グリフォンさん、ウチものせてよーっ!」
地団太を踏むアイネに対し、グリフォンは露骨に嫌そうに顔を反らした。
とはいえペガサスは二人が乗るには少し小さすぎるし――ユミフィをセナと一緒に乗せると、ふとした拍子でエルフだということがバレそうで、めんどうなことになりそうだ。
やはりここはグリフォンにあきらめてもらうしかないのだが……
――俺、絶対キンググリフォンとの親密度低いよな……
「ま……まぁ、なんか大丈夫そうだし、このままいくか。セナ、アイネはちょっと危なっかしいからよろしく頼む」
「えっ? あ、あぁ……! 任せろっ!」
それはさておき。
俺達は召喚獣に乗り、森の聖域を目指すのであった。