30話 黄金蟲の牙
「さて……どうしますか、これ……」
彼が去ったのを確認すると、アイネは手に持った薬草を捨てる。
回復の効果が切れてしまった薬草は邪魔なだけだ。
──まだ傷は残ってる……回復しないとマズイ……
新たな薬草を取り出そうと、彼が投げてくれた袋に手を伸ばす。
「なんとかウチも逃げないと……薬草は……うわっ!」
しかし、その狙いは魔物に読まれていたようだった。
背後からアーマーセンチピードがアイネの腕に不意打ちをしかけてきた。
なんとかアイネは反応し回避するも、薬草の入った袋を手放してしまう。
その直後、ゴールデンセンチピードが炎を吐いてきた。
──って、このムカデ、炎も吐けるのっ!?
思わず、アイネは目を丸くする。
「最悪っ……!」
炎によって薬草が入った袋が燃えてしまう。
とはいえそれで万策尽きたわけではない。
アイネは懐に入れておいた緊急用の薬草を取り出すと腕に当てた。
同時に手持ちの薬草の数を手探りで数えておく。
──やっぱり四枚しかないか……かなりきつい……
魔物達から視線をそらさないまま練気・拳と脚を使い攻撃の準備を整える。
──まずは、数を減らさないとっ!
「剛破発剄!」
ゴールデンセンチピードの前で壁になるように立ちふさがるアーマーセンチピードに攻撃を仕掛ける。
この魔物であればアイネが単独で負けることは無い。
しかし一撃で倒せるような相手ではなかった。
「あーもーっ、しつこいっすね! ラァッ!」
回し蹴りを使いながら一旦、距離を置く。
近づいてきた相手に拳を突いてカウンター。
アーマーセンチピードが噛みついてこようと牙を向けてくるが逆にそれを粉砕した。
「せぃっ! ラァアアアッ!!」
ひるんだ相手に膝蹴りで追撃する。
横から攻撃してくるもう一匹のアーマーセンチピードの牙はしゃがんで回避。
直後に顎にアッパーでカウンターを仕掛ける。
上にふっとんだ魔物に追撃の回し蹴り。
アイネの猛攻を受けた二匹のアーマーセンチピードの鎧のような装甲が割れた。
「おしっ、二体撃破! 次っ!」
アイネを逃がさないようにしているのか、退路を二体のアーマーセンチピードが塞いでいる。
アーマーセンチピード相手では負ける要素が無いが反対側には奴らのボスがいる。
アイネは耳をぴくりと一回動かして、アーマーセンチピードに突進した。
「ラアアアアアッ!」
先にアイネが二匹を倒しているせいか、前のアーマーセンチピードはアイネが突進してくるのを見て、ひるんでいるように見える。
──このまま一気に突破して……っ!?
「うおっと!」
空気が吸い込まれるような音をきいて、アイネは思いっきり横にジャンプする。
倒れこむように着地し、ぐるりと体を回転させてひざをつきながら静止。
直後、後ろから自分がいた方向へと炎が飛んできた。
そのまま前にいたアーマーセンチピードに炎が直撃する。
「うへぇ~、容赦ないっすね……文字通りのフレンドリーファイアじゃないっすか……」
炎をまといながら断末魔をあげるアーマーセンチピード。
アイネは素早く腰をあげ逃げる準備を整える。
……その瞬間。
「うぁああああああああっ!?」
アイネは背中に激痛を感じ、悲鳴をあげた。
アイネの体が宙に舞う。
それでも、アイネは瞬時に理解した。
──まさか、さっきの炎は誘導?
ゴールデンセンチピードの吐いた炎は雑草に燃え移りしばらくの間、残り続けている。
これはアイネが予想した光景だ。
だからこそアイネは草が禿げている場所を選んで回避しようとしていたのだから。
その考えを読まれ、攻撃をかわしたつもりがゴールデンセンチピードの尾がある場所の近くにきてしまったようだ。
いつのまにか、敵が体をUの文字に曲げているのを確認する。
──呼び出した味方を犠牲にしてまで、確実に仕留めるために……?
その邪悪な知性を目の当たりにし、アイネは身の毛がよだつのを感じた。
「し、しまっ……うぐっ!? うあぁあっ!?」
地面に叩きつけられ、倒れこむアイネに最後のアーマーセンチピードが襲い掛かる。
とはいえ、これではアイネにとどめをさすには力不足だった。
アイネはアーマーセンチピードをなんとか蹴り上げて地面に手をつき、急いで立ち上がろうとする。
だが──
「うぅ、なんて重さっ……このっ! ……え?」
起きた瞬間、アイネの表情から色が消えた。
──いつのまに、こんな近くに?
「ぃ……あ……いや……」
黄金の牙がアイネの首をきりさこうと襲い掛かる。
──だめっ、かわせないっ!
「イヤぁあああああっ!」