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303話 トワと散歩

 もう外の日は落ちたのだろうか。

 当然ながら、洞窟の中で日が落ちているかどうかを確認する術はない。

 しかし、体感的にはそろそろ寝る準備をとりはじめるべき時間帯だとは思う。


「あ、リーダー。おかえりなさい。どうでした? 温泉は」


 ブルックが俺達に用意してくれた部屋は、ここが洞窟の中であることを忘れさせるぐらいに煌びやかな装飾が置いてある部屋だった。

 彼いわく、神を宿泊させるにふさわしい部屋はここには無いということで深々と謝罪をされたが――まったくもって恐縮極まりない。


「結構よかったよ。悪いな、先に行かせてもらって」

「いえいえ。リーダーのせいじゃないですから」


 手を横に振って軽く笑うスイ。

 ここガルガンデュールには各々の自宅の中に風呂は無いらしい。

 ただ一つだけ、ガルガンデュールの中には温泉が湧いていた。

 その温泉を、男女が交代制で入っていく。それがここでのルールとのことだった。



 ――しかしドワーフって……立派だったな……



 とても同じ男とは思えない。うん……



「じゃあユミフィ。ウチらも入ろー、そろそろ自分で髪洗えるようになったっすかー?」

「ん。分からない……」


 物凄くどうでもいいことを思い返す俺にユミフィが不安そうな視線を向けてくる。

 それに対して罪悪感を覚えないわけではないが、それでもドワーフの女性達が裸をさらしている中に特攻することが許されるはずがない。

 ……いや、ブルックは許していたが。そういう問題でもないだろう。

 ユミフィには悪いがここは俺抜きでお風呂に入ってもらうしかない。


「あー……俺はちょっと散歩してこようかな。結構面白い街だし」

「それもいいと思いますけど、大丈夫ですか? 迷ってしまったら……それに、結構目立ってしまうんじゃ」


 そう言いながらスイが苦笑いを浮かべる。

 たしかに彼女の言う通り、神・神・神と崇め奉られるのは困りものだ。

 だが――


「結構あそこから離れてるし大丈夫だと思うよ。そんな遠くにはいかないから」

「そうですか。では私達、入ってきますね」

「迷子になっちゃだめっすよ。リーダー」

「ん。また、後で」


 ちょっと寂しそうな顔を浮かべて手を振ってくるユミフィに後ろ髪をひかれる思いはするが、とりあえずそれには目を瞑って手を振り返す。

 浴場までついていってもいいが――まぁ、いいだろう。


「んー、じゃあボクはリーダー君についていこうかな。迷子になったら大変だしねっ」

「なんだよそれ。信用無いなぁ……」

「そんなことないよ。明日は一人で行っちゃうもんねー、寂しいから今のうちに居ておきたい乙女心よ。ヨヨヨ」


 ともかく、せっかくゲームに出ていない街に出会えたのだ。

 もしかしたら将来的に実装される予定だったのかもしれない。

 そう考えると、もっとよくこの洞窟街の雰囲気を味わいたくなってきた。



「って、ちょっと! 無視しないでってばーっ!!」




 †




「それにしてもここって明るいよねー。本当に洞窟の中?」

「そうだな……ずっと明かりもついてるみたいだ」


 トワと共に、ガルガンデュールを歩く。

 ぽつぽつとすれ違うのはドワーフの女性達だ。

 おそらく、今は女性が温泉を利用できる時間帯だからだろう。

 彼女たちは俺達のことを珍しそうに遠目で見てくるはするものの、男達のように何かするわけでもなく淡々とすれ違っていく。

 まぁ、戦闘の場にいたわけでもなし、俺達がここにいる事情も良く知ってはいないのだろう。


「けっこー道とかデコボコしてるけどさー。リーダー君、大丈夫なの?」

「ん、そうだな。特に支障は無いな」

「アハハ、無理しないでねー」


 こうして改めて散歩をしてみると、やはりここが洞窟だということを実感する。

 トワの言う通り、このあたりの道は、お世辞にも整備されているとは言えない状態で歩きやすいとは言い難い。

 それでも、炎に照らされている岩肌に包まれたこの空間はどこか神秘的で美しく、あまり早く帰りたいとも思わなかった。



「……ねぇリーダー君。なんでさっき、一人で行くって言ったの?」

「え?」



 ふと、トワにしては珍しく真面目な声色が耳に入ってきて、俺は足を止める。


「いや。なんかちょっとだけ、らしくないかなぁーって思って」

「そりゃ俺だって一人で何かできないとまずいだろ」

「そういうことじゃないよ。分かってるでしょ」


 じっと俺のことを見つめるトワの瞳に縛られて、俺は沈黙を返すことしかできなかった。

 そんな俺に、トワはどこか儚げさを感じさせる微笑を見せながら言葉を続けた。


「皆は多分、リーダー君についていきたかったと思ってるから」

「……」


 それは――まぁ、そうなのだろう。

 さっき俺が一人で森の聖域に行くと言った時、皆あからさまに不満げな表情を浮かべていたのだから。

 しかし、そうはいってもフルト遺跡での事がある。


「でも、死んだらおしまいだろ」

「でも、リーダー君がいれば……」

「前みたいにいきなり転移させられてバラバラになったら? トワの転移魔法が使えなくなったら?」

「っ……」


 やや声色が強くなってしまっただろうか。

 目を見開いたトワの表情には僅かな恐怖と、悲しみが浮かび上がっている。

 だが、それでも今回に関しては皆を連れていく気にはなれなかった。

 レシルとどのような戦闘を行ったかは直接見たわけではない。

 だが、彼女の使ったスキルを考慮すればそのレベルは150以上ある可能性がある。

 どう考えたって、皆が太刀打ちできる未来は見えてこない。

 冷静に今思い返してみても、フルト遺跡での出来事は肝を冷やすべきものだった。


「皆のことは足手まといだとか思ってないし、思いたくない。ただ……ただ俺に、皆を守る自信が無いだけだ……」

「…………」


 いたたまれなくなって、思わずトワから目を反らす。

 俺の視界に飛んでくることは、彼女なら容易にできただろう。

 だが、トワは俺の顔が向いている方向とは逆の肩に座り、視界に入ってこなかった。


「ねぇ、アイネちゃんがドン・コボルトと戦った時のこと覚えてる?」

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