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301話 ドワーフの族長

「オレだって命を助けられたんだ。感謝はしてる。ありがとな」

「……あぁ。うまくいったようでよかったよ」

「お姉ちゃん、無事。よかった」

「ん」


 唇を閉じたまま小さく声をあげるセナ。

 ……トワの言う通りになってしまうが、なるほどたしかに、セナという少女は可愛らしい顔つきをしている。

 さばさばとした笑顔がとても健康的で、見ていると爽やかな気分になる。


「まぁ、アレだ。悪いけど付き合ってやってよ。オレは他にやることがあるからさ」

「マジっすかぁ? 神はリーダーだけで十分っすよぉ」

「お、おい……俺だけに押し付けるなって……」

「でもお兄ちゃん。すごく尊敬されてる。私、嬉しい」

「あ、あのなぁ……」


 ユミフィの場合、冗談で言っているわけでもないし悪意も無いからタチが悪い。

 ふと、セナがいたずらっぽく口角を上げてきた。


「あーあー。お熱いこって。見てらんねーから消えるわ。じゃあな」

「セナッ」


 男に名を呼ばれると、セナは一度歯を見せて笑せて一目散に逃げて行った。

 そんな彼女の背中を見ながら、男は深くため息をつく。


「申し訳ございません、神よ。あの子は未だに斧も持てない子供でしてな」

「いえいえ、えっと……あの子は……」


 スイが少し気まずそうに目線を送ると、男は深く頭を下げた。


「あぁっ! 重ね重ね失礼を。あの子はセナ・バルエダ。わたくしめの娘でございます」

「娘さんですか……ということは……」

「はい。わたくしめはブルック・バルエダ。ここ、ガルガンデュールに住むドワーフどもの族長を務めさせていただいております」

「族長さんっすか! な、なんか緊張しちゃうっすね……」


 アイネがピンと背筋を伸ばす。

 この豪華な装飾がつけられた椅子に座っている時点で今更な気もするのだが。


「何を仰います。神々の一行の前ではこんな肩書など意味も無いも同然。どうぞごゆるりとなさってください。さぁ、さぁっ!」


 そう言いながら果物が大量に乗った皿を出していくブルック。

 とりあえずそれを受け取って、各自少しずつ口の中に運んでいく。

 すると、唯一食事をとっていないトワが、かまってほしげに声をあげてきた。


「それにしても凄いねーっ。洞窟の中なのに、本当の街みたいだよっ」

「ガルガンデュール……こんなところがあるなんて不勉強でした」

「とんでもございませんっ! こんな辺鄙な場所の集落など、目に入らぬのがむしろ普通でございましょう。我らも人族から隠れて生活しておりましたゆえ、どうぞお気になさらず」


 ゲームのジャークロット森林の中にはこんなところはなかった。

 そもそも、ゲームにはドワーフが居なかった。正確には実装されていないだけだったのかもしれないが。

 だから俺も、この洞窟街に来てかなり驚いていた。


 ――ていうか、案外女性のドワーフって見た目普通なんだな……


 確かに背は小さいが、男達と違って何か大きな特徴があるかといわれるとそうでもない。


「ところで神々よ。恐れ多くもおききしたい。何故、このような場所にお御足を運ばれたのですか?」


 皆が皿に手を伸ばすのを止めたのを見計らって、ブルックが声をかけてきた。


「あぁ、えっと……」


 さて、どうやって答えるべきか。

 ユミフィの森の声とか、そういうことを言っても通じないだろうし――


「ジャークロット森林に強い魔物の気配を感じまして。その魔物を討伐できないかと森をうろついていたのですよ」

「おぉっ! それはそれはっ!」


 などと考えていたらスイがうまくまとめてくれた。

 さすが実質的なリーダー。俺が十秒思考を有するところを瞬時にやってのけてしまう。


「心当たりがあったらボク達に教えてほしいんだけどさ。そういう強い魔物が急に現れたとか、そいういうことって今までにあった?」

「心当たりなんてものではございませんっ! まさに今、その異常事態に見舞われているのです」

「ってことは……」


 ブルックの言葉でなんとなく察しがついた。

 スイ、アイネと無言で視線を交わしブルックの言葉を待つ。


「本当にここ最近……数日前からでしょうか。ジャークロットに住まうアナコンダクをはじめとした蛇の魔物が急増したのです。しかも数だけでなく、今まで戦ってきた魔物よりも強いときている……このままではガルガンデュールが侵される日も遠くないでしょう」

「うん。森の声、どんどん小さくなってる。ここにある森の加護、多分あと三日ぐらいで消えちゃう」


 と、ユミフィがそう言った瞬間、ブルックの目が大きく見開かれた。


「……む。さすがは神っ! 森の声を聴けるのですかっ!!」

「貴方も、きける?」


 きょとんと首をかしげるユミフィ。

 するとブルックは膝を折ってユミフィの前に頭を垂れる。


「おそれながら。神の前で申すのもなんですが、一応わたくしめは古代ドワーフの王族の末裔でして」

「私、神じゃない。ただのエル――」

「あっ! ところで、魔物が一番増えている場所ってどのあたりか分かりますか?」


 ふと、スイが唐突にユミフィの口を抑えて言葉を遮った。

 ブルックが頭を上げた瞬間、スイはユミフィから離れもとの位置に戻る。


「おぉ。もしや神々が?」

「はい。私達が討伐します。心当たりのある場所を教えてください」

「なんという――なんたる僥倖!! 少々お待ちください、すぐに地図をお持ちいたします」


 そう言うや否や、俺達が言葉を返す前にブルックは踊り狂っている男達の中へ姿を消していく。


「……スイちゃん? どうしたの?」


 ブルックが俺達の視界から完全に消えたことを確認した後、トワがスイに首を傾げた。

 それに続きアイネも、そして俺もスイの方を見る。

 するとスイは、少し眉を八の字に曲げてユミフィに顔を向けた。


「さっきはごめんなさいユミフィ。でも、貴方がエルフだということはここでは言わないでくれますか」

「そうなの? 分かった」


 特に理由も聞くこともなくユミフィは首を縦に振る。

 その反応はスイ自身も意外だったのだろうか。

 少し目を丸くした後、スイは俺とアイネに向けて視線を移した。


「ドワーフとエルフは昔から仲が悪いときいたことがあります。詳しい理由は知りませんが……ユミフィの耳当ては外さない方が面倒にならないと思いますよ」

「なるほど……」


 ドワーフは俺がやっていたゲームにはいなかったが、それでも一般的なファンタジーの知識は俺にもある。

 スイの言う通りドワーフはエルフと仲が悪い。この世界でもそれが同じなのかは知らないが、敢えてこちらからリスクを踏みに行く必要もないだろう。

 彼らはどうも思いこみが激しいタイプのようだし――神扱いからどう転じるかも予想が不可能だ。


「ところで……」


 と、スイの言葉を俺の中で咀嚼していると、アイネがやや声を低くして手をあげてきた。

 それを見て、スイがこくりと頷く。


「うん。魔物が急増したっていう日時からすると……かなり怪しいね」

「ってことは……また?」


 おそるおそると言った感じでトワが声をあげる。

 皆、はっきりとした言葉を出したがらない。

 なんとなく分かる。潜在的な恐怖が、その名前を出すことを拒絶しているのだ。


「はい。またレシルと戦うことになるかもしれません……」


 それに負けてたまるか、と言わんばかりに。

 覇気のこもった声を、スイは静かにあげるのであった。


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