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284話 強制検証

「ひゃーーひゃっっひゃ、いかにもバカな剣士らしいなぁ! ……でもよぉ、こいつ、見た事もねぇぐらい上物じゃね? なぁ!!」


 また別の男が、下品な笑い声をあげながら舌なめずりをする。

 他の者を煽るように周囲を見渡すその男の声で、他の男達も歓声のような声をあげてきた。


「湧き出るリビドー! 突き刺さっちまうぜ、俺のBI-I-SHIKI!」

「まぁ……マワしてもいいかなって程度には可愛いんじゃね? マジで」


 今までだるそうにしていた男もギラリと目の色を変える。


「はぁ……」


 そんな彼らを見てスイは額に手をあてて俯いた。


「おいコラ、何だそのため息は。ナメてんのか?」

「いえ……」


 眉を八の字に曲げながら、半ば茫然とした様子でスイは返事を返す。


「言っておくがな。こっちは全員、ルベルーンの中で選ばれた魔術師なんだからな?」

「その証を今から見せてやるよ! うっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


 ふと、一人の男が高らかに笑いながらオレンジ色のクリスタルを掲げた。

 それに続くように、他の男達も同じ色のクリスタルを掲げ始める。


「……?」


 そんな彼らの様子を怪訝な顔で見つめ続けるスイ。

 彼らが掲げたクリスタルは、彼らの興奮を示すように輝きだし、そして――


「来い、オークどもっ!!」


 展開される数々の魔方陣。

 その中心から、彼らの呼びかけに応えるようにその魔物が現れる。

 荒々しい息を吐き、しゃくれた顎から牙を伸ばし、肌は汚れた緑色。

 手には無数の棘が左右から伸びた金棒。その顔が直視することを躊躇う程に歪んで見えるのは、その目が上物の獲物を見つけた野獣のごとく血走っているせいだろうか。


「オーク、ですか……」


 そう呟いて、スイはふと目を細める。

 このオークという魔物は、二足歩行という点でシルエットは筋肉質な男性に近いが、その力は一般的な人間と比べて遙かに強い。

 だが彼らが恐怖の対象となっている原因は別のところにあった。



 オーク達は自らの性欲、そして繁殖のために人間の女を襲う。



 この特徴を有するがゆえに、オークが出現するとギルドは真っ先に討伐依頼を出す。

 人と比べれば知能は低いが、群れをなし、積極的に人を襲ってくるオーク達は特に女性にとって恐怖の象徴となっていた。


「ひゃっひゃっひゃ!! 今なら自分で服を脱ぐかどうかぐらいは選ばせてやるぜえええっ!!」


 男達は、勝ち誇った表情で高らかに笑っている。

 そんな彼らとは対照的に、スイは無表情のまま淡々と声をあげる。


「スクロールも使わずに召喚獣とは……あなた方、全員ダブルクラスだったのですか? てっきり、魔術師の方々だと思っていました」

「あ?」


 と、スイの言葉に一人の男が眉をひくりと動かす。

 そしてその直後、その男は大げさに背中を反らしながら笑い始めた。


「うっひゃっひゃっひゃっひゃ、こりゃやっぱバカな剣士だ! カミーラ様と同じように英雄と呼ばれてるのはマジなのかぁ??」

「まぁまだクソガキだし、英雄の中じゃ最弱らしいからな。こんなもんだろ、マジで」


 見下したような男達の発言に、スイが眉をひそめる。


「どういうことですか?」

「さっきも言ったろ! 俺達は召喚器を貸されているんだよ! スクロールなんてかさばるもんに頼らなくてもいいってわけだ。こんなことも知らないなんて、やっぱり魔力を持ってないやつはバカだなぁ!!」

「失礼しました。自力で魔法の発動ができない人に会ったことがないものでして」

「あ……? 煽ってんのか、お前?」

「失礼しました。私のリーダーは普通に魔法を使っているので……単に疑問に思っただけです」


 冷めた声でそう言いながら剣の柄を叩くスイ。

 それを見て、一人の男が苛立ったように眉をひそめた。


「……いいか、選択肢を与えてやる。一つは降参して俺達に遊ばれるか、もう一つはオークどもに犯されるか」

「どういうことですか?」


 半ばあきれ顔になりながら答えるスイ。

 そんな態度を示す彼女に、男達は露骨に嫌みな顔を見せてきた。


「ヘイ、ガールッ! さっさと降参、するのが得策! 女の剣士はオークに勝てない、これいわゆるOYAKU-SOKU!! 覆せないHOU-TEI-SHIKI!!」

「オークと触手は女剣士にとって天敵ですからな! 逆らわない方が身のためですぞ。ヌポポポポポ」

「リアルで即オチ2コマが見れるなんてサイッコーだぜ、うっへへへへへへへへ」

「オラオラ、テメェも女だろ? こんだけのオーク相手にビビってんじゃねぇのか? あぁん?」

「…………」



 ――最っ低……



 ただ一言、心の中で呟いてスイは剣を抜く。


「なんだテメェ、この数相手に本気でやる気かよっ!」

「英雄って呼ばれて調子にのってんじゃね? マジで。最弱の英雄のくせに生意気じゃね? マジで」


 一人の男がつばを吐きながら手を上げる。

 すると、それに続くように男達は一斉にオークに対して指示を出した。


「さぁオークども! この女をひんむいてや――」

「フォースピアーシングッ!」


 その瞬間。彼らの指示に従い、オーク達が足を一歩前に出そうとしたその瞬間に、スイの剣が三体のオークを貫く。

 正確には、オークの体を貫いたのはスイの剣というより、スイの剣から伸びた青白い光だったが。


「――へ?」


 無言のまま地面に屈し、光の粒子となって消えていくオーク達。

 それを冷たい眼差しで見つめながら、スイは剣先を男達に向ける。


「女の剣士がオークに勝てない……ですか」


 スイが一歩前に出ると、オーク達が一歩後ずさりした。

 おそらく、オーク達は認識したのだろう。

 今見せたスイの一撃。それは自分達が勝てる相手が出すような攻撃ではないことに。

 そんなオーク達の態度を見て、男達の一部も僅かにおびえた顔をみせる。


「面白い説ですね。是非、検証に協力させてください」


 だが、そんな彼らの表情など――内心など、関係ないと言わんばかりに、スイは剣を振り上げた。


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