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283話 対峙

 ――翌日。

 まだ日も昇っていないような時間帯に、俺達はトーラギルドの広間に集まっていた。

 まだクエストを受ける人どころか、職員すら誰もいない。

 そんな静まり返ったギルドの中で、アーロンが心配そうな表情で話しかけてくる。


「もう行くの? いくらなんでも早すぎないかしら?」

「そうですね。でも、あまりこっちに長居できないので」

「久しぶりに家でゆっくりできて楽しかったっすよー。よく眠れたっす」


 軽く頬を叩いて、アイネがぐっと背伸びをする。

 いつも寝起きが悪いアイネだが――今日ばかりは気合の入れ方が違うようだ。

 そんなアイネを見て、アインベルは優しげにほほ笑むと俺に話しかけてくる。


「お前には色々と助けられたからな。本当はもっと、もてなしてやりたいところだが……」

「また戻ってきます。解決しなきゃいけない問題もあるみたいですし」

「ナッハハハハ。心強いことだ。少なくとも、前より自信に満ちた顔をするようになったな」

「えっ……そ、そうですか?」


 ……自覚は無い。俺はそこまで自分に自信のあるタイプの人間じゃない。

 だが、前と比べてと言えば――心当たりはあった。

 トーラを出た後、俺がどんな人間だったのか、皆に知ってもらった。

 その上で皆、俺の事を信頼してくれている――もし、アインベルの言う通り、俺に自信が出てきたというのなら、それ以外にどんな原因が考えらえるだろう。


「あぁ。お前ならアイネを安心して任せられる。親子の誓いをする日もそう遠くはないかもしれんなっ! ナッハハハハハ」

「っ!?」


 豪快に笑いながら俺の肩を叩いてくるアインベル。

 その言葉に、胸が大きく鼓動した。


 ――それって、アイネと俺が……


「アハハッ、そうやってすぐにおどおどした顔するのもリーダー君らしいよねっ」

「うっ、うるさいな……」


 と、トワが俺の肩でニヤニヤと笑っている姿が目に入る。

 それがかなり照れ臭くて、ほぼ反射的に彼女から視線をそらしてしまった。


「え、えへへっ、そーゆーリーダーもウチ好きだから。大丈夫っすよ!」

「っ……」


 顔をあげなくても分かる。

 この場にいる人間の殆どがニヤニヤとしながら俺に視線を送っていることが。

 そしてスイだけが、なんか妙に怖いオーラを出していることが。


「とっ、とにかく行こうか。ユミフィが森の声をきいてないから大丈夫だとは思うけど……間に合わなくなる前に行かないとっ」


 なるべく皆と視線を合わせないように、俺はトワにそう話しかけた。

 するとトワは、少し呆れたように笑みを浮かべ、俺の肩から飛びあがる。


「はいはーい。じゃあ皆、ボクの近くにカモーンっ!」




 †




「……来ましたか」


 『彼』らと別れてから数時間が経過した頃。

 地平線まで続く地割れの横で、スイはただ一人、剣を携えて立っていた。

 視線の先には多くの人を乗せた馬車が多数。それに乗った男達は皆、『彼』が着ていたロングコートよりも煌びやかな装飾をこれでもかという程につけた衣服を身に着けており、腕には豪華な腕章がついていた。

 そんな彼らはスイのそばまで移動すると小馬鹿にしたような笑みをみせながら、次々に馬車から降りてくる。


 ――百人ぐらいですか。思ったより多いですね……


「おやおやおやぁ?? もしかして君がスイってヤツかなぁ??」

「…………」


 そう声をかけられても、スイは微動だにせず、無言のままじっと彼らを睨み返している。

 そんなきつめの態度をみせるスイに対し、一人の男は唾を吐いて大声をあげてきた。


「ヘイ、ユー! 人のクエスチョン、直ちにアンサー! これやるのは、いわゆるJO-SHIKI!」

「うっせえよマジで。だりぃからお前は黙ってろマジで」


 その男の横で、ボサボサの長髪をかきむしりながら、男がだるそうに呟いている。

 そんな彼につられたわけではないだろうが、スイもだるそうに小さくため息をついた。


「……貴方達は?」

「んー? 俺達? そうだなぁ。エリートってやつじゃねえ? うっへへへへへへ」


 自分の問いかけに返し、ふざけた感じで答える男を前に、スイは露骨に嫌な顔をする。

 そんな彼女をさらに煽るように、男が声をあげる。


「俺達さ、カミーラ様に選ばれた魔術師なワケ。んでさ、邪魔するやつには何してもいいって言われてるワケ」

「そうそうっ! わざわざ召喚器まで貸してくれてさぁっ! ホント僕達って期待されてるよねぇっ!! うっっひょっひょっひょっひょ」

「…………」


 下品に笑う男達を見て、スイの表情が強張る。

 スイは戦闘を行う際、とりわけその直前に関しては意識して感情を抑えるようにしている。

 それでも、スイの顔には嫌悪感が滲み出ていた。


「つかさお前、スイって言うんだろ、マジで」


 そんな彼女の表情など――内心など、関係ないと言わんばかりに、一人の男が見下すようにスイに向かって指をさしてくる。


「事情はよく知らねーんだけどさ。とりあえずウチらのこと邪魔するならやめてほしいんだよね、マジで」

「止めない選択、するなら覚悟っ! 開かれちまうぜ、お前のSO-SHIKI!」

「あー、うぜぇ。マジで」


 隣でラップ調に喋る男に対し、長髪の男が苛立った様子で舌打ちをする。

 そんな彼らを見て、スイも呆れたようにため息をついた。


「随分賑やかですね。正直、貴方達の話しがうまく頭に入ってきません」


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