281話 誰と寝る?
アインベルと話し終えた俺達は、トーラギルドの寮まで移動してきた。
どうやら、アイネが自分の部屋を紹介してくれるらしい。今日は、そこで皆で寝ることになるそうだ。
「へぇ、ここがアイネちゃんの部屋かぁ」
扉を開け、その部屋に入るや否や、トワが俺の肩から飛びあがる。
もともとトーラにある建物が古いものばかりであったため、豪華な感じはあまりしなかったが、一人が住むには広すぎる部屋だ。
四人が同時に入ってもそこまで狭さを感じさせない辺り、さすがギルドのエースの部屋といったということか。それとも、アインベルがそれだけアイネのことを可愛がっているということなのか。
アイネには悪いが、あまり女の子らしい感じがしないのが、逆に居心地がいい。
「ウチのっていうか、ウチと先輩の部屋っすね。先輩がトーラを旅立つ前は、ずっとここで一緒に住んでいたんすよ」
「そういえばリーダーをここにお招きするのは初めてですよね。前はあんなに狭い部屋で……すいません」
少し苦笑いをみせながらスイが頭をさげてくる。
「とんでもない。俺は新入りだからあれで丁度いいぐらいなのに。本当にお邪魔していいのか?」
見ず知らずの人間の住む場所を用意してくれたのだ。
たしかにあの部屋は狭かったが、それでも至れり尽くせりの待遇だったのは間違いない。
それでも、俺の対応にスイは安心したようで、ほっと息を吐き言葉を続ける。
「見た通りこの広さですから。寝袋も師匠から借りてきましたし……これなら皆一緒で寝れますよ」
「ん……」
ユミフィも僅かに口角を上げて頷いている。
それなら、特に断る理由も無いだろう。
「そういえば、アイネちゃんって前はリーダー君のこと、新入りさんって呼んでたよね」
「あーっ、そっすねー! もう、随分昔みたいに感じるんすけど……もうすっかりリーダーって呼ぶのに慣れちゃったすね」
「はい。初めて私と出会った時とは大違いです」
「そ、それは思い出さないでくれ……」
俺らしいといえば俺らしいのかもしれないが、あれは自分でもかっこ悪かったと思っている。
と、気恥ずかしさから目を泳がせていると、手に持った木の葉をじっと見つめているユミフィの姿が目に入ってきた。
「えっと……そういえばユミフィ、なに見てるんだ?」
俺の声を受け、ユミフィはやや深刻そうな顔で俺の事を見上げてくる。
「森の声、きいてる。変な魔物出て、森、困ってる。そんな感じ」
「えっ、じゃあカミーラがっ……?」
それを見て、スイが一気に表情を鋭くさせる。
しかし、すぐにユミフィは首を横に振った。
「違う。カミーラのせいじゃない。魔物……?」
「あぁ……」
スイは、やや拍子抜けといった感じで、それでも深刻そうな顔を見せている。
その代わりというわけではないが、アイネがユミフィの近くによって話す。
「そういえばユミフィ、前にそんなこと言ってたっすね。先輩でも苦戦するような魔物がいるって……」
「うん。カミーラ、多分まだ来てない。炎で苦しい、そんな声、違う。でも……」
実際にその魔物を俺達が見た訳ではないが、ユミフィの表情をみるに相当なものなのだろう。
しかし、そうだとしても――
「ユミフィ、森が心配なのは分かるけどちゃんと眠らなきゃ。明日もたないぞ」
「そうっすよ。その森に出てきた魔物? それだって、カミーラの後に倒せばいいんすからっ」
アイネが俺の言葉に続いたのを見て、スイやトワも頷きながらユミフィを見る。
するとユミフィの顔から暗い色がすーっと薄らいでいった。
「うん。寝る。あっ――!」
ふと、ユミフィが思い出したように玄関の方に走っていく。
何をするつもりなのかとユミフィを見ていたら、彼女は両手に寝袋を抱えながら、それを引きずってきた。
「お兄ちゃん。寝よ?」
「あ……あぁ、そっか。そうだな」
ユミフィとは昨日も寝袋で一緒に寝ている。
だから照れくささ半分と、半ば当たり前と言った感じでその言葉に答えたのだが――
「ちょっ、ちょっとタンマッ!」
やはり、それはまずかったらしい。
アイネは声を裏返しながら、わたわたと俺とユミフィの間に入ってきた。
「ユーミーフィーッ! なにしれっとしてるんすかっ!!」
「?」
「『?』じゃなくてっ! ウチだってそっちで寝たいっすよ!」
――え、マジ?
まぁアイネとも添い寝みたいなのはしたことあるし、今更っていえば今更なのだが。
寝袋の中はベッドの上と違って半ば抱き合うみたいな体勢になってしまうんだけどそれはご存じなのだろうか。
「でもアイネ。そのベッド、スイとアイネの。違う?」
ユミフィが部屋の奥にある二つ並んだベッドを指さす。
それを見て、アイネはぐっと歯をかみしめながらスイの方に視線を移した。
「んぐっ……そ、それはそうなんすけどっ! 連続でユミフィがリーダーと一緒に寝るの、ずるくないっすか!?」
「い、いや。私に助け舟を求めないでよ……」
「えー、でもスイちゃんもリーダー君のことじーっと見てたし、そういうことなんじゃないの?」
「っ……」
トワの言葉に、顔を真っ赤にして視線をそらすスイ。
そんな彼女を見て、アイネが呆れたようにため息をつく。
「じゃあ分かったっす。ここは平等に勝負しましょうっ!」
「勝負……?」
その言葉に、一気にスイの表情が鋭くなった。
腰に携えた剣の柄に手をかけ、キッとアイネの事を睨みつける。
「お、おい。明日は早いんだからさ、そんなことしてる場合じゃ――」
「いいよ。じゃあ外にでよう?」
「…………」
いつの間にか、ユミフィも弓を手に持ち目つきを鋭く変えていた。
――え、なんでこんな怖いの、この人達……
「いやいやいやっ! そういう勝負じゃなくてっ! こーゆー時はじゃんけんっしょ!」
「えっ、あ……そ、そうだよね……ご、ごめん……」
だがそれも一瞬のことで、アイネの言葉にスイは気まずそうに笑いながら頬をかいた。
――本気で言っていたのだろうか。まぁ、スイも若干天然なところがあるからなぁ。
「えと……じゃんけん?」
他方、ユミフィはピンと来ていないようだ。
首を傾げながらきょとんとした顔をしている。
「あれ、ユミフィは知らないっすか? じゃんけん」
「うん。ごめんなさい……」
「謝ることじゃないですよ。ただ掛け声に合わせてグーチョキパーを出して勝負を決めるんです。いいですか――」
簡単にルール説明をするスイ。
ユミフィが力強く頷いて立ち上がる。
「簡単。私、できそう」
「よーっし。ならいくっすよーっ!」
スイ、アイネ、ユミフィの三人が三角に向かい合いながら手を大きく振り上げる。
そして大きく息を吸い込むと――
「「「じゃーんけーん、ぽん!!」」」