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280話 トーラの平和

「え? あ……」


 忘れるはずがない。

 俺がトーラを旅立つ契機になったあの魔物のことを。


「あの事件の前からも、アーマーセンチピードが増えていたり、魔物に奇妙な動きがあったのだ。その上で起こった襲撃だからな。ギルドに集った者達の総力をあげて、その異変の原因について調査した」

「と、いいますと……?」


 スイがそう問いかけると、アインベルは腕を組んで間を一つ置く。


「ファルルドの森の奥に、洞窟を発見してな。どうやら、その奥からムカデやワームが現れているらしい」


 ムカデにワーム……まさにゲテモノのオンパレードじゃないか。

 想像しただけでも気持ち悪くなってくる。


「ワームもですか……ムカデの数が増えているのは、私がトーラに戻っていた時から感じていましたが……」

「どうやら大陸全土において魔物の数が増えたり強くなっていたりといった動きがあるらしくてな。その洞窟を軽く捜索した結果、既存の魔物の変異種と思われるような魔物が大量にいたのだ。そして……」


 ふと、アインベルがそこで言葉を切り、アーロンに視線を移す。

 するとアーロンはこくりと頷くと席を立ち、部屋の奥の方に歩いて行った。

 皆の視線がアーロンに集中すること約十秒。アーロンは手に一つの小さな箱を持ってこちらの方に戻ってくる。


「その魔物の体内から発見された物が、これよ」

「っ!」


 その箱の中から取り出された物を見て、俺達は息をのんだ。

 その物体は、つい最近も見たことがある。


「黒い……クリスタル……」


 それはフルト遺跡で見つけた、あの黒いクリスタルそのものだった。

 ハナエいわく、魔物の力を増幅させる魔力がこめられているらしいとのことだったが――

 皆が言葉を失う中、アーロンが淡々と声をあげる。


「えぇ。見た事の無い魔力が込められていることが分かってね。こんな物体は見た事もないけれど、それでも一つだけはっきりと言えるわ」


 一度言葉を切って、アーロンは皆の視線を敢えて自分に向ける。

 全員がしっかりとこちらを向いていることを確認すると、アーロンはゆっくりと口を開いた。



「魔物の強化は誰かが、人為的に引き起こしているものよ。これを使ってね」



 皆の顔に明らかな緊張の色が浮かび上がる。


 ――誰が、何のためにそんなことを……?


「じゃっ、じゃあ、レシルがここにも……?」


 様々な疑問が湧き出る中、アイネの怯えたような声がきこえてきた。


「レシルと思わしき女とワシ達は遭遇しておらん。洞窟の浅いところを捜索しただけだからな。はっきりとは言えんのだが……」


 一つ、ため息をついてアインベルは腕を組みなおす。


「そのレシルという女か、もしくはレシルと繋がりのある者がトーラの近くにいる――その可能性は否定できない、ということだ。戦力の関係上、今すぐに洞窟をこれ以上捜索することはできんが……いずれ、その者と戦う時は来るかもしれん」

「ちょっ! 大丈夫なんすか? あいつ、めちゃくちゃ強かったんすよ……?」

「むぅ……」


 俺自身、レシルがスイ達とどう戦っていたかは殆ど現認していない。

 しかし、彼女の放ったダークネスブレードを見れば分かる。レシルは、明らかにスイ達より格上だ。

 スイでも勝負にならないような相手となれば、アインベルも唸るしかないのだろう。



 ――それならば。


「明日で決着をつけよう。カミーラと」


 ふと、無意識に俺はそんな言葉を漏らしていた。

 特に誰かにきかせるつもりもなく、自分に言い聞かせるような言葉だったのだが。

 気が付けば、皆の視線が俺に集まっていた。


「絶対にユミフィに手出ししないって、言わせてやる。そして、俺達でトーラの平和を守るんだ」


 こういう時、いつもだったら、やけに緊張してしまうのだが。

 皆の視線から信頼を感じたせいだろうか。

 むしろ俺は皆の視線に心地よさを感じていた。


「……えぇ。そうですね。頑張りましょう、リーダーッ!」


 元気よく答えるスイを見て、ふと頬が緩む。

 明日はおそらく、今までよりもスケールの大きな戦いになるだろう。


 だが、それでも俺達は絶対に勝てる。

 俺の力は、チートなのだから。

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