279話 罪
アインベルの部屋に来た俺達は、今までのことをアインベルとアーロンに伝えていく。
不思議な魔法を使う妖精のトワと出会ったこと、スイがサラマンダーに勝ったこと、そのサラマンダーが実は召喚獣でスイがライルによって嵌められていたこと、その後にカーデリーに向かったこと、ユミフィと出会ったこと、そして魔術師協会のこと。
たくさんのことを言葉にして伝えるのはなかなか難しくて、結局最後の方はスイに任せきりみたいな感じになってしまったが――
その全てを説明するのには一時間程ぐらいはかかったはずだ。
それでもアインベルとアーロンは疲れた顔を一切見せず、最後まで俺達の話しをきいてくれた。
「……ふむ、なるほど。だいたい話しは分かった。心配するな。ワシらはお前達の味方だ」
「当然よ。でも驚いたわ……本当に色々なことがあったのね……」
感慨深げに俺達の事を見つめるアインベルとアーロン。
だが、それも僅かな時間だけで、すぐにアインベルは話しを切り出してきた。
「ふむ。では先ずは目下の問題であるその子の事について話そうか」
「……!」
アインベルの視線を受けると、ユミフィがさっと俺の腕に抱き着いてきた。
まだアインベルとアーロンに対する警戒心は完全には消えていないようだ。
「大丈夫だよ、ユミフィ。信じてくれ」
「…………」
軽く頭を撫でると、ユミフィは無言で頷く。
その様子を見て、アインベルも軽く頷くと話を続けた。
「実は、ユミフィ・ユグドラシア捜索の依頼は重要クエストとして各ギルドに伝達されている。表向きは王族の名を持つ者が行方不明となっては混乱を招くため『ユミフィ』という名前のみでクエストを公表しているのだが……しかし、カミーラがそこまで大規模な作戦をしてまで執拗に彼女を追う理由は分からん……」
「ユミフィは世界にとって必要な犠牲だって、カミーラが言っていたのですが……その言葉の意味に心当たりはありませんか?」
そうスイが問いかけると、アインベルは表情を曇らせた。
「すまぬが皆目見当がつかん。重要任務として依頼されているのは王族だからとこちらも思い込んでいたし、そもそもユグドラシア王国からの距離を考えるとその子がここで見つかるとは思わなくてな。正直、そんなに注意を払っていなかったのだ」
「そうね。このギルドの人たちもそこまで捜索クエストには興味を抱いていなかったし、その件に関して私達が情報提供できるものは無いかもしれないわ……」
「そうですか……」
「それよりも、だ」
ふと、アインベルの目つきが鋭いものに変化する。
それを見て、スイとアイネも表情を硬くさせた。
「今回お前達がやろうとしていることはカミーラの公務妨害として犯罪になりかねん。しかもエルフの王族を連れているとなると……拉致として犯罪をでっちあげられるかもしれん。追われる立場になるリスク……それは分かっているのだな?」
「はい。もちろんです」
「分かってるっすよ」
――マジ?
それは分かっていなかったのですが。
どうやら、そんな愚か者は俺だけ――いや、トワもそうだったのだろう。
物凄く不安そうな視線を俺に向かって送っている。
「わ、私……」
そんな俺とトワの様子を見て、ユミフィまで不安な表情を浮かべてきた。
――これはまずいな……
例え、アインベルの言う通り、俺達が追われる者になったとしても、だからといってはいそうですかとユミフィを差し出すわけにはいかない。
「いいから。皆を信じてくれ」
俺はともかく、特に最初に、ユミフィはスイとアイネとは気まずい関係だった。
今回のことは、二人に対するユミフィの警戒心を完全に解く意味でいいきっかけになるかもしれない。
そういうこともあって、俺はユミフィの言葉を遮って、黙って彼女の頭を撫で続ける。
「だって納得できないっす。ユミフィとはまだ知り合ったばっかだけど、カミーラのやり方は絶対おかしいっすよ! それに……ウチはリーダーのやり方を尊重したいっ」
そう言いながらアイネは真っ直ぐにアインベルに視線を向ける。
……正直、横で聞いていてかなり照れ臭い台詞なのだが、そういう事を言っていい雰囲気ではないので黙っておく。
「そうか……なら何も言うまい。その件について何かあったら遠慮なく頼りに来るがいい。必要な物があれば支援しよう」
ともかく、その力強さに安心したのだろう。
アインベルはそう言いながら優しい笑みを浮かべる。
「さっすが父ちゃん、話しが分かるっ!」
「ありがとうございます。師匠……」
「アハハッ、良かったね。ユミフィちゃん」
「…………」
相変わらず無言のまま頷くユミフィ。
もっとも、表情はだいぶ緩んできているようなので安心した。
「さて、話が変わるがな。レシル――というか、魔物の異変については少しこちらで分かったことがある。その情報は共有しておくとしよう」
「え……?」
だがそれも束の間。
アインベルの言ったその言葉により、再び俺達に緊張が走る。
そんな俺達の様子を伺うように、アーロンはゆっくりと言葉を続けた。
「ゴールデンセンチピードのこと、覚えているわよね?」