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267話 力の濫用

「うわっ!?」

「アイネ、シルヴィ、トワ、後ろへっ!」


 カミーラの前方に唐突に現れた赤く輝く魔法陣と、そこから放たれる七発の赤の光の矢。

 それにいち早く反応したのはスイだった。


「ブレイズラッシュ!」


 瞬時に俺達の前方に出て、剣を地面に向かって叩きつける。

 轟音と共に現れた炎の壁がカミーラの攻撃を打ち払った。


「なっ、何すんのさっ! いきなり攻撃なんてしてっ!」


 お互いの攻撃が収まった頃、トワが声を荒がせる。

 ……当然の反応だろう。だが、カミーラは心底意外そうに首を傾げてきた。


「攻撃? こんなものを攻撃っていうのかい。その程度のレベルじゃないだろう」

「随分好戦的ですね。大陸の英雄と呼ばれる人は皆、乱暴な方なのでしょうか?」


 剣先をカミーラの方向に向けて冷たい眼差しを送るスイ。

 そんな彼女を煽るようにカミーラは不敵に笑う。


「何をいう。お前がそうであるように、アタシも別にそういう訳ではない。ただ、必要な時は武力行使も致し方なし。その力を濫用するヤツとは同じにしないでほしいものだ。それっ! ファイアボルトッ!」

「やあっ!」


 二度目のそれに対しては目が慣れていたのだろう。

 スキルを使うこともなく、スイはファイアボルトの軌跡を見切って剣を使って弾く。

 七発の赤い光の矢は、スイの剣の舞によって全て前方に弾かれた。


「ははっ。やるじゃないか。この程度の魔法は通用しないか」


 そんなスイを見て満足げに笑うカミーラ。

 とはいえ今の魔法の威力は先に見たナンパ魔術師の比ではない。

 基本魔法であるボルト系列の魔法をあの距離から撃ってもスイには通用しないとは思うが――果たして、彼女がさらに苛烈に攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。


「無詠唱……」


 と、シルヴィが俺の背後からかすれたような声でそう呟く。

 そんな僅かな声もカミーラには聞こえたのか。体を隠すシルヴィの方をわざとらしくじっと見つめてきた。


「おや。世間知らずのお嬢ちゃんも魔法には精通しているのかい。まぁ、その男の連れなら当然か?」

「…………」


カミーラの魔法は、さっき見た魔術師達とは違いスキル名以外の詠唱が無い。

 それが特別な技術だということはシルヴィも知っているようだ。

 しかし、カミーラの言葉にシルヴィは何も答えない。


「ふん。無愛想なお嬢ちゃんだ。それ、実力を見てやるか。アクアボルトッ!」


 三角帽子をかぶりなおして、カミーラがさっと手を上に振り上げる。

 すると俺の――いや、シルヴィの上に青い魔法陣が展開された。


「リーダー」

「あぁ」


 スイはこちらを向くこともなく、ただそれだけ言い放つ。

 ……もはや言葉で言うほどの事でも、スイに言われるほどの事でもない。

 俺はその魔法陣に向かって手をかざし、同じ魔法を発動させる。


「うわっ、つめたっ!!」


 きこえてくるのはトワの小さな悲鳴。

 カミーラが展開した上の魔法陣と俺が展開した足元の魔法陣。

 それらが共に放った三発の青い矢は真正面から衝突し、大量の水を周囲にばらまく。

 それは超局地的な雨――いや、滝に近い感じで降り注ぎ、水しぶきが俺達にもかかってきた。

 それに怯えているのか、シルヴィは俺のコートをつかんだまま離さない。


「完全無詠唱か。そんなもの伝説上の登場人物しか使えないと思っていたが……どうやら魔法の発動技術はアタシより上のようだね。ますます気に入った」


 魔力によって出現した水が消滅したタイミングを見計らって、カミーラはパチパチと手を叩いてきた。


「だが少々威力が低すぎる。それがアンタの本気だとは思わないが――もっと試してみたいところだね」

「っ……」


 じっと俺を見つめてくるカミーラ。

 その視線を受け、思わず俺は身が震えるのを感じた。

 彼女が放つ威圧感。自分の方がレベルは上回っているはずなのに、その裏に透けて見える経験や自信を前に、うまく声を出す事ができない。


「ソードアサルトッ!」


 そんな俺とは対照的に、スイがカミーラに向かって駆ける。

 剣を振りかざし、カミーラの肩にめがけて剣を一直線に突きつけた。


「エナジーリフレクターッ!」


 俺に向かって話しかけているカミーラに対する、不意打ちともいえるようなスイの攻撃。

 だが、そんなものはお見通しだと煽るように、カミーラは不敵にほほ笑みながらくるりと体を一回転させた。

 その直後、カミーラの前に黒い壁が出現し、スイの剣を受け止める。

 エナジーリフレクターは僅かな間だけ、自分が受ける物理攻撃のダメージを大幅に軽減する補助魔法だ。


「……私にはまさに今、貴方が力を濫用しているように思えるのですが。気のせいでしょうか」


 スイの剣とカミーラの魔法障壁がぶつかり合い、その衝撃波で二人の体が大きく後方に弾かれる。

 しかし両者の体勢は殆ど崩れていない。


「まぁそう見えるのもやむなしか。だけどねっ――!」


 杖を掲げ、カミーラは声を荒げる。


「困るんだよっ! 半端な強者が現れて統率が乱れるのはねっ! せっかくそれだけの力があるんだ。正しい使い方をしたらどうだい?」

「貴方が今やっているのが正しい力の使い方ですかっ! 価値序列とか特権がどうの言っていた人の台詞には思えませんっ――クロスプレッシャーッ!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんとなく今までの主人公の実力に比べて弱体化してるような? 本気ではない完全無詠唱? [一言] 物語としてはまだ序盤なのか、悪いフラグをずっと立て続けてるけど、これ回収できるのかw
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